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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第二章

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177 果ての大地⑦

「答えろ。この奥にいるのがダンジョンの精霊か?」

『言わない』

「そうか。じゃあ、殺すまでだ」

 剣に魔力を纏わせていく。


 地面を蹴って、振り下ろそうとしたときだった。



『止めろ! イエティから離れろ!』

 甲高い声が響く。


『はぁ・・・はぁ・・・・』

『セツ様・・・』

 奥から、白く透き通るような肌の少女が出てきた。

 水色の長い髪には霜が少し付いている。

 おぼつかない足取りで、息を切らしながらゆっくりと近づいてきた。


『ここに来てはいけない。セツ様、早くお戻りください』

「誰だ? お前は・・・」

 よろめきながら、イエティの横に立つ。


『ダンジョンの精霊。名前は・・・覚えてない。イエティがセツと名付けたから、そう呼べ』

 イエティに向けていた剣を解いた。

 セツが冷たい視線をユイナに向ける。


『この者たちは、セツ様を閉じ込めた憎き種族、人間と共に行動しています。それに、そこの男は・・・』

『・・・言わずとも、わかってる。キサラギとの契約が切れた。今は、こいつらの話を聞きたい』

 セツが小さく呟いた。

 

『まず、そこの人間はなんだ? 命があるようなないような、出会ったことのない感覚だ』

「わ、私は・・・」


「ユイナは異世界から来たんだよ」

『異世界?』

 エヴァンがユイナの横で、剣に手をかけていた。


「はい。私のこちらでの体はこれになりますが、異世界での体は別にあります」

『なるほど・・・・そうゆうことか』

 セツが屈んで、イエティの傷を癒していた。


『状況は大体、理解した。私は永久凍土の魔法から目覚めたばかりで、体が思うように動かない。最後の願いを叶えてしばらく経ってから、異世界からこちらの世界に人間が移住するようになったようだな』

『セツ様、それよりもあの男を・・・』

『・・・あまり熱くなるな、イエティ。この者たちを、最下層に案内する』

『かしこまりました』


「?」

 イエティと一瞬目が合った気がした。


 セツが両手を広げると、ダンジョン内がぱっと明るくなり、床が虹色になった。

 壁の岩は氷になり、光を反射させている。


「うわっ、すごいな」

「綺麗・・・・・」

 サタニアの息が白くなっていた。


「あの・・・セツ様・・・・」

 レナがセツに恐る恐るセツに近づいていく。


『エルフ族か。久しいな』

「ご無沙汰です。こ・・・この者たちは、悪い者たちではないのです。このまま異世界住人が移住してくれば、エルフ族も危ないのです。どうか、願いを・・・」

『・・・・まずは、最下層に行ってから、話を聞くとしよう』

 イエティが立ち上がって、セツを持ち上げた。


『ついてこい』

 セツがイエティの肩に座る。

 ゆっくりと、階段を下りていった。


 ダンジョンの精霊セツもキサラギと同じように、人間に近い姿をしていた。

 途中、なぜなのか問いかけたが、知らないと言われただけだった。


 セツもイエティも、なぜか俺とは目を合わせない。

 一言話すたびに、イエティが毛を逆立てていた。


「ヴィル、どうするの? このままついて行って大丈夫?」

「俺も危険だと思うけどな。あいつらからは、常に殺気を感じる。特に、ダンジョンの精霊からは、相当な殺気が漏れてるし」

「全然、隠せていないのよね」

 サタニアとエヴァンが小声で話しかけてきた。


「あぁ。でも、ダンジョンの精霊に願いを叶えてもらう必要がある。いつでも戦闘態勢に入れる状態にはしておけ」

「りょーかい」


「むむむんっ!」

 少し離れたところで、レナの踏ん張るような声が聞こえた。


「・・・・何やってんの? あの2人?」

「レナ、ユイナ、早く行くぞ、セツたちを見失う」

「ま、待ってください!」

 少し離れたところで、レナとユイナが止まっていた。


「レナがなんか溝にはまっちゃって。動けなくなってるのです」

「大丈夫です、今引き上げますね。こうゆうのは焦っちゃダメなんです」

「むむ、どうしてこんなところに・・・どう見ても、普通の道なのに」


「今、なんとか・・・あれ? もしかして、これはトラップでしょうか? 氷がレナ様の足を捕えて離しません」

「と、トラップ、これが・・・初めてなのです」

 ユイナがしゃがんで、レナの足元をいじっていた。

 2人がもたついていると、エヴァンがため息をついてレナを助けに行った。




 最下層は広々としていて、4本の氷の柱に囲まれていた。

 祭壇のような場所には、魔法陣が描かれている。

 イエティが毛皮のじゅうたんのようなものを敷いて、セツを降ろした。


『随分、体が鈍ってしまった。イエティ、お前が居てくれてよかった』

  セツがイエティにほほ笑んでいた。


『ユイナ、と言ったな?』

「はいっ・・・・」

『異世界住人について、もう少し詳しく聞かせてくれ。私が眠りについた後、何があった?』

「えっと・・・・」

 ユイナが緊張しながら、こちらを見た。

 頷くと、説明を始める。


「私たちの世界では、アバターという仮の肉体を用意して、人間たちを段階的にこの世界に転移させようとする計画があります。5感はもちろんあり、こちらでの感覚は、肉体感覚同期を切らない限り、伝達します」

『ほぉ』

『戦闘のとき、突然、属性を変更したり、ステータスを変更していたのは関係あるのか?』

「はい。これは、アバターでしかできないことだと思います」

  イエティが質問すると、ユイナが指を動かした。


『ん?』

「アバターでは、このように装備品、属性を変更できるんです。えっと、例えば、火属性にして、服装も同じ属性のものを・・・」

 ユイナの装備品が変わり、属性が変わると、セツが目を丸くしていた。


『想像以上だな・・・これは・・・・』

『・・・・・・・・』

 イエティがまじまじとユイナを見つめている。


「セツ、お前は、昔、どんな願いを叶えたんだ?」

「そうだよ。君が願いを叶えたせいで、異世界からどんどん人間が入ってくることになったんだからな。マジで迷惑過ぎるよ」


『ここは北の果ての大地にあるダンジョン。来れる者はほとんどいない。私は願いを叶える者として、ダンジョンに宿った精霊だ。来た者の願いは叶えなければいけない』

 セツが自分の足を触りながら言う。


『私のところに来たということは、キサラギに直接会ったのだな?』

「あぁ、知り合いか?」


『いや、キサラギは他のダンジョンの精霊とつるまない。だが、ダンジョンの精霊の情報はキサラギのところへいく』

 セツが靴の底についた水滴を払っていた。


『あえて私のところにお前らをよこしたというのは、異世界住人とやらの状況を、私に伝えるためだろうな。発端は私とでも言いたいのだろうか。キサラギのことはよくわからん』

『セツ様・・・』

『願いを叶えるダンジョンは私だけじゃないのにな』



「えっ、じゃあ、テラの願いを叶えたのは君じゃないってこと?」

『テラは確かにここへ来た。私は奴の"神になりたい"という願いを叶えたのだ。"異世界とこちらの世界を結びたい"というのは、別のダンジョンの精霊が叶えたのだろう』


「神?」

「そんなこと可能なの?」


『願いを叶えるダンジョンにたどり着くことができたならな。私たちは世界の果てに存在する。来客などほとんどいないに等しい』

 セツが自分の足を見つめながら言った。


「"神になりたい"というのは、具体的にどうゆうことだ?」

『人々から問答無用で神とあがめられる存在。そうゆう者になりたいと言っていた。理由は知らん。お前らの方が想像つくのではないか?』

「・・・・・・・」

『私は承認欲がない。それは地上の者が持つ感情だ』

 イエティがセツの横に座り直した。



『実際に、人間だった頃のお前は、テラを神だと疑わなかっただろう?  ヴィル』

 セツがにやりとして、こちらを見上げた。

 空気が張りつめる。イエティが瞳孔を広げた。


「・・・・俺は、魔王だ。なぜ、人間だった頃を知ってる?」


『私に永久凍土の魔法をかけたのは、お前の母親だ』


「!?」

 セツが怒りに満ちた表情で言う。


『憎きあの女が、私を凍結させた』

「何の話だ?」

「・・・・・・・・・・」

 レナが視線を逸らしていた。


「マジで?」

「そうなの? 人違いとかじゃなく?」

 エヴァンとサタニアがにじり寄っていく。


『人違いなどではない。お前は憎き、あの女にそっくりだ。その目を、その口を、よく覚えている。永久凍土の魔法で氷漬けにされていたときも、忘れたことが無い』

「・・・・・・・」


 俺の母親・・・。

 北の果ての雪の中に、俺を捨てた女。


「ど、どうゆうことだよ? テラとヴィルの母親が一緒にいたってこと?」

『正確には、テラの願いを叶えてすぐ後に、そいつの母親が到着した。私を見ると、突然、何も言わずに永久凍土の魔法をかけてきた』

 ダンジョンがカタカタと震えている。


『成す術がなかった。あの女は今、どこにいる? 私がどれだけみじめで苦しかったか。禁忌魔法だか知らんが、同じ魔法をかけてやる』

「レナ、こいつの言っていることは本当なのか?」


「はい・・・ヴィルの母親・・・ベラが、禁忌魔法である、永久凍土の魔法を使っているのを見ました。できることなら、触れたくなかったです」

 レナが消え入りそうな声で答えた。


『ヴィル、お前の母親は今どこにいる?』

「知らん。俺の親は、孤児院でシスターをやっていたマリアだけだ。お前が見たという奴は、赤の他人だ」


『・・・・・・・』

「・・・・・・・」

 セツとレナが一瞬、驚いたような表情をした。

 逆立っていたイエティの毛が収まっていく。


『そうか・・・。死んだのか。あの終焉の魔女が、死ぬとは思えないが。禁忌魔法の代償には逆らえなかったか・・・』

 セツが呟くと、ダンジョンの揺れが収まっていった。

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