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173 果ての大地③

「で、ヴィルってエルフ族だったの? 属性盛り過ぎじゃない?」

「自分の出自なんてどうでもいい」

「気になるって」

 エヴァンが食いついてきた。


「ふふ、残念だけどエルフ族ではないわね。赤子だったし、覚えていないのも無理もないわ。ヴィルが聞きたくないなら、もう言わない」

「えー、レナは話したいのです」


「レナ、ヴィルには立場があるの。話したらいけないこともあるのよ」

 サンドラがハーブティーに口を付けながら言う。


「えー、ヴィルの過去なら私も知りたいのに・・・」

「何でお前が残念そうにするんだよ」

「だって、ヴィルの幼少期でしょ。絶対、可愛いもん」

 サタニアがさっきからずっとにやにやしていた。


「俺も気になるな。魔王がどんな幼少期送ってきたのとかさ」

「そうゆうお前はどうだったんだよ?」

「俺はアリエル王国では神童とも呼ばれてたし、ま、今も子供だけどね」

 エヴァンが自慢げに言うと、サタニアがため息をついていた。


「こっちに転生してくる前の話に決まってるだろ? 神童だった頃の話なんて聞いてない」

「昔のことなんてどうでもいいじゃん」


「えっ? 今、何て言った?」

 サンドラがハーブティーをこぼしかけていた。


「・・・・・」

「・・・貴方も異世界転移者なの?」

「あ、そういえば、サタニアからも似たような匂いがします。何か違う」

「確かに」

 サンドラとレナが前のめりになった。


 エヴァンとサタニアに睨まれる。


「はぁ・・・ほら、説明が面倒くさい。俺とサタニアは異世界から来たんだよ。ユイナたちと決定的に違うのは、俺たちは異世界で死んで、こっちに来たってことだ。ほいほい転移してくる異世界住人とは違う」


「えぇっ!?」

「いいな。くれぐれも一括りにするなよ」

 エヴァンが2人に念をしていた。


「わぁ・・・すごい。そんなことできるんですね」

「これは視えなかったわ」

 サンドラが口に手を当てた。


「かなり驚きましたが、魔王のパーティーは、随分バラエティに富んだメンバーなのですね。ヴィルが楽しそうで何よりです」

「俺が楽しいかは別として、にぎやかなのは確かだな」

「ふふ、ヴィルは生意気になったのです」

「・・・・・・」

 レナが頬杖を付いてにこにこしている。


「それで、本題だけど・・・・ヴィルは氷のダンジョンに行こうとしてるの?」

 サンドラが口を軽く拭いてから、聞いてきた。


「あぁ、願いを叶えるダンジョンの精霊を探している」

「願いを叶える・・・ね。ダンジョンなら、すぐ近くにあるわ。予想通り氷も溶けかけてるの、ダンジョンの精霊にも会えると思う」

「そうか」


「・・・・・・・」

 サンドラが重い口を開く。


「でも、気を付けて。氷のダンジョンの精霊は誰に対しても怒りをぶつけてくると思う。簡単に願いを叶えてもらえるとは思えない」

「どうして?」


「ダンジョンの精霊を氷漬けにしたのは、人間なのですよ。願いを叶えた後、禁忌の魔法、永久凍結の魔法をかけたのです。北の果てのエルフ族の間では有名な話なのです」

 レナが深刻な表情で言う。

 サンドラが布の上のラピスラズリを弾いていた。


「永久凍土?」

「テラか? どうしてテラが、そんな魔法を?」

「テラ?」

 レナが首をかしげる。


「魔法をかけたのは人間ですよ。テラ? ではないと思います」

「レナ」

「わかってます。レナはこれ以上、言いません」

 サンドラが咳ばらいをした。


「ここで起こった出来事は北の果てのエルフ族の掟で話してはいけないことになってるの。ここに住むエルフ族しか、人間が氷漬けにしたってことさえ、知らないはず」

「私たちは、その場にいたから知ってるのです。ごくごく最近起こった出来事です。17年前ですね」

「そうね」

 サンドラが窓のほうを見つめながら息をつく。


「あんなに怖い思いをしたのは、久しぶりだったわ。あの事件以来、エルフ族は人間をさらに遠ざけるようになった」

「はい。この村を出るには許可が必要になりました」


 禁忌魔法か・・・。


 禁忌の魔法について、魔王城の本棚を探したが見つからなかった。

 ププウルも見たことがないらしい。


 今のところ、禁忌の魔法について知ってるのはアイリスだけだ。 

 まさか、アイリスがこの地で・・・。


「・・・サンドラ、アイリスって知ってるか?」

「アイリス? アリエル王国の王女よね? 彼女が何かしたの?」

 首を傾げていた。


「いや・・・・知らないならいい。それよりも、その黒水晶、動いてるぞ」

「えっ?」

 サンドラが慌てて手元で震えている黒水晶を抑えた。



「嘘・・・こんなに早く? 私の計算では・・・」

「どうしたのです?」

「異世界からの一人目の勇者が来た。時の祠に気配が・・・」


「!?」

 がたっと立ち上がる。

 周囲に気を張っていた。


「は・・・早くみんなに知らせないといけないのです」

「結界を張っているから、大丈夫なはず・・・」

 サンドラとレナがドアを開けて慌ただしく動き出した。


「私も行きます」

「私も。巫女の力が必要です」

 皿洗いをしていた2人の少女も、外へ出ていく。 



「近くにいるな・・・」

「うん」

「どうして、ピンポイントでここに来ようとしてるんだ? こんな果ての地の、結界の中を理解できる異世界住人なんているのか?」

 エヴァンが剣に手をかけながら言う。



「きゃーっ!!!!!!」

 外で悲鳴が上がった。人間の気配だ。 

 急いで、外に出る。


「な・・・・・」

 異世界住人の男が尻もちをついていた。

 武器は持っていない。


「どんな能力を持っているかわからないわ。みんな気を付けて!」

 サンドラが呼びかけていた。

 エルフ族が弓矢や剣を構えて、異世界住人の周囲を囲んでいる。


「いたた、おかしいな。結界を破ったのはいいけど、エルフ族ばっかりだ。ここにアース族の信号があったんだけどな。別にエルフ族に興味があるわけじゃないし・・・」

 男が攻撃をしてこようとする、周りの人たちを無視して、指を動かしていた。


「んー」

「どうしたのですか?」

 ユイナが少し遅れて出てくると、男がユイナのほうを見た。


「あっ、アース族の!?」

 男がユイナに近づこうとすると、サタニアが魔女のウィッチソードを突きつけた。


「待ちなさい」

「っ・・・・・・?」


「どうして異世界住人がここにいるの?」

「えっと、君は、魔族か。魔族だね。エルフ族と人間とも違う」


 男が一歩下がって指を動かしていた。

 ユイナと同じように、空中の何かを見つめている。


 いつ死んでもおかしくない状態なのに、焦りは一切感じられなかった。


「うーん、さすがに魔族の情報は出てこないか。フィールド情報にも無いし。意外と使いにくいんだよな、慣れなんだろうけどさ」

「ど、どうして私がここにいることを知ってるの!?」

 ユイナが大声で言う。


「俺のステータス表示画面には、今、この世界のフィールド内で動いてるアース族が見えるようになってるんだよ」

「え・・・それって、どうゆう・・・」


「最近、一部の人に実装された機能だ。アップデートしてないだろ? SNSみたいに、やり取りもできるようになってるんだけど・・・さすがにここは届かないか。SNSを使ったほうが伝達が楽なんだけど」

「SNS?」

「・・・・・・・!?」

 SNSという言葉が何を指しているのかわからなかったが、エヴァンの顔色が明らかに変わったのがわかった。



「とにかく、俺は別に、エルフを襲いに来たわけじゃない」

「信用できません!」

「本当だ。アース族のユイナを返してもらおうと思っただけだよ。魔族に情報が漏れるのは厄介だからね」

 

「!!」

「馬鹿じゃないの? そんなこと聞いて、ユイナを渡すわけないでしょ?」


 ズンッ


 サタニアが剣に紫の炎をまとわせて、男の胸を刺す。


「うわっ、装備品が・・・血ってとれるのかな?」


「私、絶対にアリエル王国へ戻る気はありませんから」

「・・・なるほど。ユイナは魔族と上手くやってるってことか。あ、痛覚は切ってるからね、攻撃されても何も感じないんだ」

 男が血の滲んだ胸元を抑えて、少し下がった。



「こっちも体制をちゃんとしないとな。今のでアバターがダメージを受けているから、回復は必須。防具は微量だけど自動回復が付いているものに変更、自分のアビリティを底上げして、アクセサリで・・・あーあんまいいの無いな。これでいいか」

 ぶつぶつ言いながら指を動かしていた。


「な!?」

「なんだ? あれは」

 装備品が切り替わっていく様子を見ると、エルフたちがどよめいた。



 ― 魔王のデスソード― 


「サタニア、場所を代われ」

「・・・わかったわ」

 魔王のデスソードを構える。


 サタニアを後ろにやって、異世界住人と向き合った。


「俺が魔族の王だ。お前が勇者とやらか?」

「魔王?」

 男が一瞬手を止めて、目を丸くした。


「ははははは、魔王だったのか。勇者ね。もちろん、アース族は異世界への志も高いから、勇者になりたい人は多い。俺もその一人だ。でも、そんなに甘くはないってオーディンから聞いてる。まずは戦火を上げないとな」

 男が手をかざすと、剣が現れた。


「俺の名前はクロザキ。ユイナが魔王と行動を共にしてるとは驚いた。今の状況を、みんなに伝えられないのが残念だ」

 深い藍色の瞳を光らせる。

 クロザキが余裕な笑みを浮かべていた。  

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