170 魔王のパーティー
「アリエル王国に約100人ほどの異世界住人が来たようです。これが、一区切りらしいですよ。忙しくなりそうですね」
「100人・・・!? そ、そんな、早く来るなんて」
ユイナが驚いて立ち上がった。
「んん、貴女は異世界住人ですね。どうしてここにいるんですか?」
「エヴァンが連れてきたんだ。サンプルとして置いてる」
アエルがぐぐっと近づいて舐め回すように見ていた。
「異世界住人の女性は大変珍しいです。こっちの世界に順応できて、自由に動けるのは男性ばかりだと思っていました」
「こいつは、異世界住人の中でもこっちの世界へのシンクロ率が高かったらしい」
「あー、そうゆうことですね」
アエルが髪をなびかせて、ユイナから離れる。
「まぁ、私、人間からは見えないんですけどね」
「はぁ・・・・そうなん・・・ですね」
ユイナが困惑しながら、ゆっくり座っていた。
「ん? そういや、どうしてユイナはアエルが見えるんだ? 異世界住人だって見えないはずじゃないのか?」
「貴女は魔族に近いのでしょう」
「っ・・・」
「何か契約しましたか?」
「契約?」
「まぁ・・・・今は深堀しませんが」
ユイナが緊張して息を詰まらせていた。
「アエル、まだ聞きたいことがある」
「はいはい」
アエルが冷たく視線を切って、こちらに向き直った。
「100人のうち、戦闘力となっているのは何人だ? 全員というわけじゃないんだろう?」
「クククク、話が早くて助かります」
アエルがニッと笑った。
「私が今数える限りでは大体50人はまともに生活できます。残りの50人は、まだアバターが動かないらしく、城の医務室で接続確認をいうのをやっているみたいです。テラがつきっきりで調査していますよ」
「やっぱりな。こっちに来て、全てのアバターが動けるわけではないのか」
「はい。そのようですね」
「・・・・・」
ユイナが少し驚いて、俯いていた。
「動ける者の中でも数人はまだこちらの世界に順応するので手一杯らしいです。一部は勇者オーディンの元で、戦闘の指導を受けているようですよ」
「その戦闘員以外の人たちは、何してるんだ?」
「基礎的な魔法を使ったりしながら、日常生活を送っています。アバターを使いこなせていないだけなので、時間が解決するでしょう。寝たきりの人たちと違って、動けることは動けるみたいですからね」
アエルが机に置いた自分の羽根を回しながら言う。
「一人、異世界住人を殺したのですね? 急に、アリエル王国を出て行ったはずの人間が城から出てきたから驚きました。私が間違えるはずありません」
「どうゆう様子だったの?」
「傷一つなく、城から出てきましたよ。一部の異世界住人に囲まれてましたね。異世界住人の中で、死を経験した人間は初めてのようで・・・どうゆうことでしょうね」
「アエル、異世界住人のことなんだけどさ・・・」
「ん?」
エヴァンがアエルに異世界住人が共有している命の数の話をする。
かなり驚いた後、楽しそうに笑っていた。
アエルにとっても初耳だったらしい。
異世界住人の会話を盗み聞きして、何か情報があればすぐに伝えに来ると言っていた。
「衝撃的ですね! そうゆう仕組みだったのですか。命の数って言われてもいまいちピンときませんでしたが。面白いですね・・・・命を数えるなんて、人間らしくて興味深い」
「あの・・・・」
ユイナが声をかける。
「どうして、堕天使が魔族の味方なのですか?」
「どうして・・・貴女にとっては不思議ですか。私はアリエル王国の人間が嫌で堕天したんです。異世界住人はもっと嫌いですね」
「・・・・・・」
「異世界住人は貴女みたいに命をかるーく見る人間ばかりですから。あぁ、貴女は魔族よりでしたか・・・死にたがりの異世界住人」
アエルが煽るように睨む。
ユイナが威嚇された小動物みたいになっていた。
「私はテラが嫌いなんです。奴に力を貸してる、あの女も」
「あの女?」
「アイリスじゃないだろうな?」
「違いますよ。もっと・・・そうですね。性格が悪いですね」
エメラルドのような瞳を冷たく光らせる。
「こう見えて、私にも好みがあるってことです。サタニアはいつも変わらず愛してますよ」
「・・・サタニア、アエルと何かあったのか?」
「ないわっ・・!」
サタニアがぶるっと震えていた。
「クククク、良い情報を聞けました。そろそろ戻ります。では、また来ますね」
ぶわっ
「・・・・これだけ羽根抜けるなら異世界住人もワープし放題だな」
「味方なのか敵なのか、マジでわからないね」
アエルがもう一度、羽根を撒き散らして帰っていった。
ププウルから貰った地図を持って、部屋のドアを開ける。
「アリエル王国のアエル、ミハイル王国のミイルって言ったら、サンフォルン王国の天使も堕天してるのかな?」
「サンフォルン王国自体よくわからないのよね。十戒軍と組んだり、政略結婚させたり・・・」
「まぁ、この流れでいくと、堕天してそうだね。この世界の天使って、俺たちが思い浮かべるような存在と違うのかもよ。ステータスも謎だし」
「そうね。そういえば、リョクもどこかの王国の天使だったりするのかしら?」
「ありえる。それなら、俺、そこに行きたいな」
エヴァンが剣を研ぎながら、サタニアと話していた。
時折、異世界の単語が混じっている。
ユイナは毛布にくるまって、端のほうでうとうとしていた。
「アリエル王国の剣か。大分、戦闘で使ったもんな」
「あ、ヴィル。遅かったじゃん」
「どう? 場所わかった?」
エヴァンとサタニアの声に、ユイナがはっと目をましていた。
「ププウルの情報を見る限り、ダンジョンは魔王城からかなり離れた場所にある。飛んで10日ってところか」
「10日? 無理無理、俄然行く気失くした」
エヴァンがだらんとしながら背もたれに寄り掛かる。
「どうやって行くの? さすがに、北の果ての地に転移魔法は使えないわ」
「ププがダンジョンから少し離れた雪の中の祠で、この魔法陣を見つけたって言ってたんだ」
地図の裏に書いてある、魔法陣を見せる。
「これは・・・・」
「サタニアの転移魔法の魔法陣に似てないか?」
「・・・・そうね。ほとんど同じだわ」
サタニアが髪を耳にかけて、魔法陣を指でなぞっていた。
「でも、どうして・・・? 私の魔法は・・・」
「転移魔法が使えるなら越したことないじゃん。それで行こうよ。10日も寒いところうろうろするなんて無理だよ」
「エヴァン、人の話をちゃんと聞いてくれる?」
「わかったって」
サタニアが、エヴァンに怒りながら、紙を手に取った。
「私の転移魔法は各地にマーキングした魔法陣の場所に行けるものなの。この魔法陣を誰が残したのかわからないし、本当に行けるかどうかはわからないけど・・・探ってみる。不思議だけど・・・できるかもしれない・・・って思うの」
「そうか。じゃあ、頼む」
「うん・・・・・」
椅子に掛けていたマントを羽織る。
「え、今から行くの?」
「サタニアの準備ができたらな。北の果てはかなり寒いから、着こんでいったほうがいいぞ。ウルは風邪ひいて帰ってきたんだ」
「マジか。魔族が風邪ひくとか相当じゃん。じゃあ、ここの毛皮のベスト借りるよ。うわ、ぶかぶかだな」
エヴァンが剣を置いて、ソファー下の箱に入っていた毛皮を広げる。
「では、私も、装備品を切り替えます。えーっと、あったかいものあったかいもの・・・と、温かさは表示されないので、『毛皮』とついているものにして・・・」
「・・・いいな、異世界住人は」
「確かに、こうゆうのは便利ですね。初期配布の装備品でもかなり充実してるんです」
ユイナが指を動かして、自分の着ているものを切り替えていた。
白いふわふわしたコートを選んで、軽く動いて、着心地を確認している。
エヴァンが恨めしそうに、ユイナを見ていた。
「サタニアも何か着ておいたほうがいいぞ」
「・・・・えぇ・・・・わかった」
「・・・・・」
サタニアが少し悩みながら、紙を畳んで、装備品を探していた。
魔法陣を見せてから、なんとなく浮かない顔をしてるな。
「何かひっかかることでもあるのか?」
「何でもない。私、心配性だから、少しネガティブになっちゃうだけ。あの魔法陣を残したのが、ミハイル王国の十戒軍だったら、とか・・・」
「ミハイル王国の十戒軍は殲滅した。もし、仮に十戒軍だったとしても、何かあるわけじゃない」
「わかってる」
毛皮のマントを持ってにこっと笑った。
「何かあるんじゃないかって心配してくれたの? 大丈夫、もう絶対に勝手な行動はしないわ」
「そうか」
特に何か思い悩んでるわけではないようだな。
「もう! エヴァン、ここに置いておいたデザート食べたでしょ?」
「そりゃ、あったら食べるよ」
「私が、マキアから貰ってきたものだったのに。行く前に食べようと思ってたのに」
「んなこと言ってたら、太るぞ」
「少しくらい太ったって、ヴィルの好みにあえばいいもん」
サタニアがエヴァンに文句を言っていた。
ユイナがくすくす笑っている。
「はぁ・・・・」
頭を掻く。これから、氷のダンジョンに行くんだけど・・・。
相変わらず緊張感のないパーティーだ。




