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168 失敗からの情報

「早く、ワープのアイテムを・・・みんな、殺されてしまう前に」

「わ、わかってる。でも、俺は持てるアイテムがオーバーしてケイに渡してたから無い。ツトム、そっちにあるか?」

 十戒軍の女が、ケイを見て、異世界住人たちを急かしていた。

 指を動かして、空中を見ながら言う。


「俺、持ってるよ。これのことだろ? うわっ」

 異世界住人が出した羽根を奪い取る。



 キンッ


「!!」

「あ・・・・何を・・・」

 素早く女の胸に剣を突きつけた。


 漆黒の羽根・・・堕天使の羽根か。

 アエルが落としたんだろうな。


 今度、魔王城に来たときにでも聞いてみるか。


「アンナっ」

「動くな。動けばこいつを殺す」

「っ・・・・・」

 3人がじりっと構えたまま固まっていた。


 余裕だった表情はこわばり、呼吸は浅く、冷や汗を掻いている。

 こいつらにとって、アンナを殺されるのは困るのか。


「さっき、異世界住人を刺したら、死体が消えた。どうゆうことだ?」

「そのままです。アース族の死体は残らないんです。アバターだから」

「魔王ヴィル様!」

 シエルが駆け寄ってきて、隣に並んだ。


「さっきの場所、確認しましたが、道具一つ落ちていませんでした」

「あぁ・・・」

「・・・・・・・・」

 異世界住人が口をつぐんでいる。


「・・・・お前、何か嘘ついてるな?」

「う・・・嘘なんて」



 ― 奪牙鎖チェーン― 


「あぁっ・・・・い・・・・・」

「強制的に嘘をつけなくしてやる」

 女を奪牙鎖チェーンで縛り上げる。


「何をする!?」

 異世界住人が動こうとすると、シエルが足で背中から踏みつける。


「っ!?」

「動かないで。魔王ヴィル様に言われたでしょ?」

「っ・・・・・」

 シエルの冷たい声に、異世界住人が動揺している。


「話せ。なぜ、異世界住人の死体は残らないんだ?」

「う・・・・異世界住人は、命の数を共有している。全て無くならない限り、死なない・・・あ・・・あぁ・・・・」


「アンナ、それを言ったら駄目だ」

「うるさい。魔王ヴィル様が聞いてるの!」

「!」

 シエルがすっと移動して、異世界住人の首に手を当てる。


「シエル、そいつらは殺すな。まだ、情報が欲しい」

「・・・承知しました」

「・・・・・・・」

 そっと、首から手を離して睨みつけていた。


「はぁ・・・・俺はぶっちゃけ、この状況興奮するんだよね。肉体感覚同期は取ってるし、アンナってあんなふうになるんて」

 一人だけ、動揺しながらにやけていた。

 アンナがぴくぴくしながら、異世界住人のほうを見ている。


「気持ち悪い奴だな。もしかして、犯罪とか興味持つタイプ?」

「違うって。だって、状況的にめちゃくちゃエロイじゃん。あんなに体が・・・同人漫画でしか見たことないって。異世界に来たんだから、異世界の雰囲気を楽しまないと」


「言われてみると・・・まぁ・・・同人っぽい状況だな。魔王が美少女を拷問・・・」

「お前まで! 俺は女の子の痛がるところなんて見たくない!!」

 気味の悪い奴らだ。

 


 この世界を、まだゲームの中と勘違いしているのか。



「い・・・痛くて・・・感覚が」

 こいつは、思ったより弱いな。

 指を曲げて、魔力を調節する。


「命の数のことを詳しく言え」

「い・・・・命の数は・・・知らされていない。こっちの世界に来た異世界住人は、命の数の分だけ、死んでも蘇ることができる・・・あぁ・・・こんなこと話したくないのに・・・」

 縛られた女が、がくがくしながら話した。

 足が痙攣している。 


「命の数がない状態で、死んだらどうなる?」

「・・・アバターは消えて、この世界に二度と戻ってこれなくなる。今時点、命の数なしに蘇ることはできない」


「さっき、死んだケイは、どこにいる?」

「アリエル王国に戻った。経験値やアイテムも、振り出しに戻って・・・あぁ・・・・」

 擦り切れた足から血が流れていた。


「苦しい・・・たす・・・助けて・・・・」

 なるほど。なんとなく仕組みがわかったな。


 こいつらがぶつぶつ言っていたこととも繋がる。

 あとは、エヴァンかユイナに聞けば、詳細がわかるだろう。


「異世界住人は・・・・」

「あぁ・・・いや・・・いや・・・・」

 女の息が途絶えかけている。


 まだ、聞きたいが、久しぶりで力の加減ができなかった。もう、吐かせるのは難しそうだな

「い・・・痛い痛い・・・もう・・・」


「魔王ヴィル様、こいつら、どうしますか?」

「ここで殺す。命の数とやらが少なくなれば、異世界住人にとって不利になることは確かだ」

 魔王のデスソードを持ち直した。



「ぺっ」


 カランカラン・・・


 異世界住人の一人が、急に口から小さな石を吐き出した。


「や、やっと、詠唱が終わった。多分、成功だ。アリエル王国に堕天使の羽根を強制使用、異世界住人とアンナを運べ」

 石がぱっと、眩しい光を放つ。


「!?」

 剣で振り下ろそうとしたときだった。


「トモユキ! この魔法は?」

「安心しろ。アリエル王国の勇者から聞いた・・・・・・」



 スンッ


 最後まで言う前に、4人が消えた。


 剣が空を切った。奪牙鎖チェーンが、対象物を失って崩れていく。

 刃先が数センチ肉体に触れる感覚はあったが、致命傷は負ってないだろう。


「魔王ヴィル様、すみません。私がちゃんと気づけずに・・・まさか、口を閉じたまま、詠唱していたなんて・・・」

「クククク」

 笑いが漏れる。


「?」

 奴が、言いかけた言葉はわかっていた。


 オーディンは逃げることを、一番初めに教えたのだろう。


 俺のときが、そうだったからな。

 俺も同じ魔法を幼少期に叩き込まれたことがある。


 オーディンは基本、魔法はマーリンに任せていたが、敵から逃げる魔法だけは長けていた。

 いかなるときも、生きて帰らなければ意味が無いと話していたからな。


 生きて帰る術をギルドに広めることで、ギルドの生存率は格段に上がっていった。

 勇者オーディンが英雄と呼ばれる理由の一つだ。


「ふん・・・収穫はあった。異世界住人のこともわかったしな」

「はい。魔王ヴィル様、あの・・・どうしたのですか? 急に笑い出したりして・・・」

 シエルが首を傾げていた。


「少し、昔を思い出しただけだ」

 オーディンの戦略なら知っていた。

 俺にとっては、思い出をなぞるようなものだ。



「戻るか。思ったより早く用事が済んでしまったな」

「・・・・はい」

 魔王のデスソードを解いて、マントを後ろにやる。

 十戒軍の女の血が、ブーツに跳ねてしまった。


 川の水で軽く洗い流す。


「シエルはどこか怪我しなかったか?」

「わ、私は全然大丈夫です。でも、すみません・・・失敗してしまって。せっかく、ついてきてくださったのに、逃がしてしまうなんて・・・」

 シエルがしゅんとして俯いていた。


「あれは、オーディンが教えた戦術だ。逃がしたのは俺だ。シエルは何一つ失敗していない」

「・・・はい」

「正直、ここまで情報が得られると思わなかった。シエルには感謝している」


 命の数か・・・アリエル城で耳にしていたな。

 異世界住人が不死身ではないとわかっただけでも大きい。


「魔王ヴィル様」

 ツインテールをふわっとさせて近づいてくる。


「あ、あの・・・」

「ん?」

「少し体温を感じたくなりまして」



 ピチャン


「っ・・・と」

 川の水が跳ねた。

 シエルが急に抱きついてきて、潤んだ眼でこちらを見上げる。


「急にどうした?」

「魔王ヴィル様、いつも優しくて大好きなのです。私、今日失敗したのに、こんなに優しくしてくださって・・・。ごめんなさい。次はもっと頑張ります」

 体をぎゅっと押し付けてきた。


「シエルは上位魔族に馴染めないのか?」

「?」

 シエルがびくっとして、体を離す。


「お前のことは、少しは理解しているつもりだ。特殊能力で上位魔族最強となったことを気にしているのか?」

「・・・・・魔王ヴィル様はなんでもお見通しですね」

 シエルが小さな石の上に立つ。


「私は皆さんのように、鍛錬して強くなったわけじゃないのです。なので、特殊能力がなければ力はないですし、本当だったら上位魔族でいることを断らなきゃいけないのかもしれません」

「・・・・・・・」

「魔族を守りたい気持ちは確かです。でも、きっと私はそれ以上に魔王ヴィル様が大好きで、お役に立ちたくて、上位魔族としてお仕えしたくて・・・これが一番の理由なのです。皆さんと肩を並べるのは、申し訳ない気がして・・・」



 ピチャン


「?」

 ふわっと飛んで、シエルに近づく。


「泣くな。俺は上位魔族として相応しいから、上位魔族にした」

「あ・・・」

 シエルの涙をぬぐう。

 キラキラとして美しかった。


「俺の判断が不服か?」

「そ、そんなことありません! 私はただ・・・」

「じゃあ、上位魔族でいてくれ。シエルが辛くないならな」

「・・・はい・・・」

 シエルが大きく頷く。


「・・・・わ・・・私でよろしければ」

 シエルが両手で手を握りしめてきた。


「では、いつも以上に、交わりをねだってしまいますからね」

「一応、加減はしろよ」

「加減はできないのです。もっとパワーアップした私で魔王ヴィル様を誘惑するので、覚悟してくださいね。今度は魔王ヴィル様が、私から離れられなくなってしまいますよ?」

 自信満々に、ほほ笑む。


「やれるものならやってみろ」

「はい」

 シエルは自分が美しいことを十分理解していた。

 だから、急激に強くなっても、受け入れられたのだろうな。


「魔王ヴィル様、大好きです」

「何度も聞いた」

「これから、何度でも言いますよ。心から、愛しています・・・」

 しっとりと呟く。

 水面に映る満月が、眩しかった。

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