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167 異世界住人が死ぬとき

「ん、おかしいですね。ダンジョンはそこで、こちらの方角に向かってくる異世界住人の気配が、確かにあったのですが・・・」

 シエルが森の中を指してから、目を凝らしていた。


「人間の気配はある。ただ、どこにいるのか感じにくいな。結界でも張ってるんだろうか」

「あ、魔王ヴィル様」

 人間が進みやすそうな河原の近くに降りていく。


「この辺の魔族はどこにいる?」

「ダンジョンの手前に出てきています。呼びましょうか?」

「いや、いい」

 焚火の跡がある。人間がいることは確かだ。


 上か?



 突然、風が凪いだ。



『聖なる風よ刃になれ。ウィンドストライク!!!』


 ド・・・ドドドドドド



 突風が岩を剥がす。

 シエルがすかさずに前に立った。


 ― 無重力壁グラヴィティウォール― 


 シエルが手をかざして唱えると、黒い壁が出現した。

 異世界住人の放った風の刃を吸収する。


 ― 解放リリース― 


 ぶわっ



 魔法が無効化されていく。


「!!」

 結界が解けて、4人の異世界住人と1人の十戒軍が現れた。


「ふうん・・・これが、異世界住人ね」

 シエルが冷たい視線で人間たちを睨んでいた。


「な・・・・俺の結界が解かれるなんて」

「待て、ダイチ、慌てるな」

「ツトム、画面を確認してみろ。ステータス今の攻撃で付与効果が20秒間発動しなくなってしまったようだ」

 空中で指を動かしながら、早口で言う。


 ユイナと同じ動作だな。

 剣士が2人、魔導士が1人、ユイナを見るに装備品は変えられるから、職種を断定はできないが・・・。


「あ・・・貴方は・・・まさか、なぜこんなところに・・・」

 十戒軍の女が俺のほうを見て後ずさりした。


 メイドの服を着て、両手で杖を持っている。

 あまり強いとは思えないな。

 異世界住人が仲間にする基準がよくわからない。


「ん? アンナ、どうした?」

「彼らは、上位魔族と、魔王です・・・」

 十戒軍の女が小さな体を震わせていた。


「魔王ヴィル様に手を出すなんて許しません。無き者にしましょうか?」


 ドンッ


「!?」

 シエルが近くにあった岩を蹴り砕いた。


「ま・・・魔王、しょっぱなから魔王が出るなんてイベント、やばいな」


「しかも隣にいる美少女。こんな子いるのか?」

「ねぇ、俺たちここでゲームオーバーになったらどうなるの?」

「ちゃんと聞いてなかったのか? また、アリエル王国の待機部屋から、命の数を減らしてやり直しだよ」

 死に対する恐怖心がない?


 ユイナのように、いざとなれば肉体感覚同期を外して、痛覚を感じなくするようにすればいいと思っているのだろうか。


 どちらにしろ、気に食わないな。


「ここは逃げるべきです! 彼女は上位魔族。今の皆様の能力では、魔王と上位魔族2人を相手にするなんて無茶です」

 アンナが訴えるように言う。


「これでも戦略は得意だ。いったん下がって、プランBで行こう。俺は、大剣を使う。会心の確率を上げて、防御も上げておこう。下げるものがないか・・・」

 空中を見ながら、自分の装備品を切り替えていく。


 ユイナよりは手際が悪い。

 全体的な変更が遅かった。


 属性の変更も、上手くできてないようだ。

 体全体を纏う力が、分散している。


「俺のほうは、回復魔法を取って、付与効果の魔法のみを使えるように切り替える。アクセサリーはデフォルトの獣の爪でいいか。アバターの性能的には、これ以上やると、動作が遅くなりそうだな」

「俺は魔導士に切り替える。慣れてないんだけどな。この杖、持ち心地悪いな」

 ぶつぶつ早口で言いながら、装備品を変えていた。


「杖のステータスは・・・と。あぁ、火属性で、攻撃力のアップはなく、武器によって使える魔法は・・・毒の無効化だけか。弱いけど、仕方ない」

「大丈夫、魔導士で鍛えられた俺たちがいるから」

「あぁ、頼んだよ」

 剣から杖に持ち替えた男が、指を動かしながら杖を眺めていた。



「鬱陶しいですね。私が片づけてきますか?」

「待て、シエル。奴らを少し泳がせたい。俺が仕留める」

「・・・・承知しました」

 シエルが手に溜めていた魔力を解いた。



 ― 魔王のデスソード― 


 剣を持って、シエルの前に出る。


「準備はいいか、ダイチ、ツトム、トモユキ」

「おう」

 大剣を持った男が飛び上がった。

 3人の魔導士の魔力が大剣に集まる。


 刃先から溢れるほどの炎が巻き上がっていた。


『合技 オーバードライブ。ファイアーソード』


 ガンッ 


 大剣を、剣で受け止める。


「う・・・嘘だろ、片手でこの力を・・・」

「くっ・・・この技でもダメか」

 風と炎をまとった大剣、会心の確率を調整して、力を上乗せしている。

 周辺の小石が吹っ飛んでいく。


 ・・・が、弱いな。


 一見、人間どもより、連携が取れるように見えるが、大剣を持つ奴の力が乱れている。


 ユイナから攻撃を受けたときのほうが重かった。

 ステータス自体は変わらないはずなのにな。


「ケイ!」


 ガン


「うわっ・・・・」


 ザザザザザザー


 魔王の剣に一気に力を入れると、男が吹っ飛んでいった。

 大剣は消えて、河原の水の中をバウンドしていく。 


「ケイ様!」

 十戒軍の女が慌ててケイのほうに寄っていった。


「か、体が動かない・・・肉体感覚同期を取ったから、痛みはないんだけど」

「アバターが傷ついています。ちゃんと修復しないと」

「あ、ありがとう。アンナ」

「無理しないでください。お付きの私も怒られてしまいます。皆様の命の数は、無限にあるわけではないのですから」


「わかってる。ごめんごめん」

 黄色の光を当てて、回復魔法を使っていた。


「クソ・・・逃げるしかないのか?」

「いや、魔王だろ? もう少し試してみたいじゃん。ダンジョンには行けなかったとはいえ、俺たちが初めてアリエル王国から出ることを許されたパーティーなんだからさ」

「今度は俺が剣士になって、合技を・・・・」

 残った異世界住人たちが、後ずさりしながら話していた。

 指を動かして、何かを確認している。


「ここで、自分が死んで、一回だけ強大な力を得るような、魔法があればいいんだけどな。さすがに無いか・・・」

「このアバター、魔法は随分限られてるよな」


「俺は元々剣士だから、魔法はベーシックなものしかない。ゲームなら、ダンジョンで宝とか見つかるけど、そうゆうのでレベルアップするんだろうか?」

「まぁ、俺たちが最初だからな。手探りだ。みんなの期待には応えたいけど・・・」

 仲間が一人やられているのに、動揺がない。

 初めから、死を恐れないのか。


 ユイナもそうだったが・・・。


「・・・・・・」

 馬鹿でも生にしがみつこうとする、元居た人間どものほうが可愛げがあったな。


「魔王ヴィル様、どうしますか? やっぱり、私がとどめを刺してきましょうか? なんだか、腹が立ってきました」 

「いや・・・・・・」

 シエルが髪を触りながら言う。


「お前はここで待ってろ。あいつを殺してくる」



 魔王のデスソードを持って、回復していた十戒軍の女の横に立つ。

 河原の水が、パシパシ跳ねていた。


「あ・・・・」

「どけろ」

 アンナの胸倉をつかんで、持ち上げた。

 ケイに当てていた、回復魔法が薄まっていく。


「きゃっ」

 異世界住人のほうに吹っ飛ばす。


「うわっ、アンナ、大丈夫か?」

 ステータスを切り替えてた奴らが、アンナをキャッチする音が聞こえた。



 キィン


 魔王のデスソードの魔力を張りなおして、異世界住人に突きつける。


「お・・・俺を殺すのか?」

「あぁ、ケイとか言ったな。異世界住人は、死ねばアバターはどうなる? 元からこっちの世界に居る人間と、何か違うのか?」

「いい・・・肉体感覚同期は取った。痛みはない。好きにしろ。まだステータスも高くないし、どうせ死んでもいいと思っていた」

 動けるはずなのに、抵抗する素振りはなかった。


「実際に、見てみればいいよ。俺も試してみたかったんだ」

「そうか。じゃあ、試させてもらう」

 ケイがにやっと笑っていた。


 ズン


「っ・・・・」

 魔王のデスソードを男の左胸に突き刺す。

 目を大きく見開いた後、ゆっくりと閉じた。


「ん?」

 ケイの生命反応が失われると同時に・・・・。


「!? なんだ、これは・・・」

「魔王ヴィル様・・・・」

 シエルが駆け寄ってくる。


「・・・・・・・」

 死体が光の粒のようになって、消えていった。


 ただ、最初から何もなかったかのように、ケイの跡が無くなっていた。

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