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166 欠け落ちた心

「ヴィル、リョクちゃんの状態が戻ったよー」

 いきなりエヴァンが部屋に入ってくる。


「ノックくらいしろよ」

「あれ? サタニアは? ここにいると思ったのに」

「ユイナを部屋に案内しに行った」

 本に栞を挟んで、テーブルに置く。


 窓から月明かりが差し込んでいた。


「サタニアが居なかったら、シエルだっけ? マキアだっけ? 魔族の子といると思ったのに」

「俺だって、一人で本を読みたいときだってある」

「ふうん」

 エヴァンがドアの前に寄り掛かった。


「お前が以前、『人工知能』という言葉を話していたのを覚えてるか?」

「あー、異世界住人が来たときね。結局、あいつらただのアバターだったけど」

 ランプの明かりが揺れていた。


「それがどうしたの?」

「聞きなれない言葉だからな。どの本にも載っていない」

「そりゃそうだよ。異世界の技術だからね。人間の知能をコンピューターの演算処理で実現・・・まぁ、簡単に言えば人工的に作られた生き物みたいな感じだ。現状、異世界住人に関係ないみたいだし、ヴィルが気にすることじゃないよ」

「そうか」

 ハーブティーに口をつける。


「それより、氷のダンジョンとやらは見つかったの?」

「今、ププウルに探しに行かせている。ダンジョンにいる魔族には、ダンジョンに何か異変が起こる可能性が高いことを伝えて、それぞれ防御策を取ってもらってるところだ」

「へぇ、上位魔族って優秀だな」

「まぁな」

 ププウルは水に弱い。

 水属性攻撃を弾く、魔道具は渡していたが、どうなるかわからない。


 ある程度、場所に目途を付けたら、早めに帰ってくるように伝えていた。


「探してるってことは、ある程度見当ついてるの?」

「人間も魔族もいない地に、心当たりがあるらしい。後は、北に住む魔族を訪ねてるんだろ」

 魔族が押さえているダンジョンはアリエル王国のある南と、周辺の東西が多いと聞いていた。


 北のほうは、人間がほとんどいないため、力の無い魔族たちが細々と暮らしているという。


「ププウルは力もあるが、ダンジョンの地図を暗記している。魔族の書物だけではなく、人間の書物にも目を通しているから、地形にも詳しい。待っていれば、検討をつけて帰ってくるだろう」

「マジか・・・さすがだな。サタニアより優秀かもな」


「私よりってどうゆう意味よ。失礼ね」

 サタニアがドアの前でじとーっとこちらを見ていた。


「いたのかよ」

「さっきからいたもん。私だって、役に立ってるでしょ。ま、ヴィルのためにやってることだし、エヴァンにわかってもらえなくてもいいけど」

 エヴァンを睨んでから近づいてきた。

 隣に座って、体を寄せてくる。


「ねぇねぇ、ヴィル、今日の夜は二人っきりでしょ?」

「ヴィルは一人になりたいんだってさ。残念だったね」

 エヴァンが煽るように言った。


「エヴァンには聞いてないわ。子供はもう寝る時間でしょ? 早く部屋に行ったら?」

「俺はヴィルに用事があっているんだよ。それに、あまりべたべたする女は嫌われるぞ。男は追わせるくらいがちょうどいいんだからな」

「知ったような口を・・・」

 サタニアがツンとしながら言い返したが、一歩ずつ下がっていた。


 こいつらは、魔王城に戻ってくると、なぜかすぐ喧嘩になるんだよな。


「ユイナはどうした?」

「ちゃんと、空き部屋に連れて行ったわ。アバターでも疲れは出るらしくて、すぐに寝ていたけど」

「そうか。体はどうだ?」

「治療中に寝ちゃったけど、脈や呼吸に異常はなかったから大丈夫。意外と、異世界住人って脆いのね」

 サタニアがスカートの裾を直しながら話していた。


「ねぇ」

 エヴァンがこちらに歩いてくる。


「氷のダンジョン行くんだろ? 俺も連れて行ってよ」

「珍しいな。お前から行きたいって言うなんて」

「まぁね。俺、今、リョクちゃんと離れてたほうがいい気がするんだ」


「失恋でもしたの?」

「うるさいな」

 サタニアが言い返すと、エヴァンが嫌そうな顔をしていた。


「リョクは自分と向き合うために眠っている時間が多くなってるんだろ? なんか、俺が居たらよくないような気がするんだよね」

「ん・・・・?」

「異世界にいた俺が、関与したら、変な影響を与えるかもしれない」

 エヴァンがぱっと手を振って見せた。


「何か心当たりでもあるのか?」

「いや・・・無いけどね」

 何かを誤魔化しているようだった。


 まぁ、こいつに転生前、何があったのか知らない。

 時折、暗い表情を見せることがあったから、触れられたくないのだろう。


「わかった。どっちにしろ連れて行くつもりだったしな」

「私は? 私は?」

「サタニアも、ユイナもだ。今回も同じメンバーで行く。それまでにサタニアは回復しておけ」


「えーユイナも?」

 サタニアがあからさまに残念そうな顔をした。


「あいつは、まだ他にも異世界住人としての能力があるのかもしれない。しばらくは、傍に置いておきたい」

「まぁ・・・そうよね」

「異世界住人か・・・本当、厄介な連中だよな。せめて、あの空中で指動かしてるときの画面くらいこっちから見れたらいいのに」

「そうそう。ゲームだとプレイヤーだから見れるのが当たり前だったけど、中にいると、こんなにもどかしかったのね」

 サタニアが背もたれに寄りかかって、天井を見つめていた。


 ステータスの上がった異世界住人にどんなことができるようになっていくのか、まだユイナについては不明な点が多い。



 トントン


「魔王ヴィル様、入ってもよろしいでしょうか?」

「・・・・・・・」

 シエルの声がした。

 サタニアがぱっと離れて、エヴァンの隣に並ぶ。


 エヴァンがため息をついて、ドラゴンになっていた。


「あぁ。いいぞ」

「失礼しま・・・あ、サタニア様、と、ドラゴン様・・・?」

 エヴァン(ドラゴン)が小さな翼をパタパタさせている。


「失礼します」

 シエルが入って軽く頭を下げると、すぐ近づいてきた。


「何かあったのか?」

「はい。私の管轄内のダンジョンに、異世界住人のパーティー4名が向かってくるのを確認しました。夜は警戒を強めているらしく、歩みが遅いので着くまで時間があるかと思いますが・・・どうしましょうか? このまま様子を見ますか?」

 立ち上がって、マントを後ろにやる。


「いや、せっかくだ。俺が行こう。アリエル王国の近くか?」

「はい。魔王城からは少し離れたところになります」


「わ、私も行く」

「いいよ。少し、異世界住人の様子を見たいだけだ。すぐ帰ってくる。お前は自分が思っている以上に魔力が落ちている、休んでおけ」


「・・・・・・わかったわ・・・そうさせてもらう。エヴァン、何よ、別に気にしてないわ」

「・・・・・・」

 エヴァンが尻尾でぺしぺしとサタニアの足を突いていた。


「今から行けるか?」

「はい、もちろんです」

 シエルが長いツインテールをふわっとさせて、地面を蹴って飛ぶ。


「じゃあ、行ってくる」

「いってらっしゃい」

 サタニアが軽く手を振った。

 後に続いて、廊下の窓から出て行く。




 夜風が魔王城を囲む森の木々を揺らしていた。


「久しぶりですね。魔王ヴィル様と二人きりになるのは」

「あぁ、しばらく城を空けていたからな」

 白銀の髪が夜空に靡いている。

 アリエル王国の方角へ飛んでいた。


「よく、異世界住人が来ることを察知できたな」

「はい。私の管轄のダンジョンはアリエル王国から近いので、魔族からの伝達も早いんです。異世界住人の動向には、常に気を張るように言っています」

「よくやったな」

「ほ・・・褒めていただけて嬉しいです」

 にやける口元を、髪で隠していた。


「でも、もっと強くなりますね。上位魔族であるために」

「そうか。期待してるよ」

 強くなったな。

 時間軸は違うが、シエルと初めて会ったときは、人間にやられっぱなしだったのに。


「ま、魔王ヴィル様、あの、大変言いにくいのですが・・・」

「ん?」

 くるっと振り返って周囲を見渡していた。

 誰もいないことを確認してから、すっと近づいてくる。


「あとで、ま、交わりの時間をお願いできますか・・・」

「!!」

 少し照れながら言ってきた。


「ま、魔力がその・・・次で、安定すると思うのです。また、魔王ヴィル様とそうゆう時間があれば・・・魔王ヴィル様のことが大好きなので、す、少しでいいんです。魔力が維持できるくらい、してもらえれば・・」

「あぁ、そうだったな。着いたらな」

「はいっ」

 ツインテールをぴんと伸ばしてから、手を開いて飛んでいた。

 シエルは相変わらず俺のこと好いてくれるが・・・。


 あまり気持ちをわかってやれなかった。


「魔王ヴィル様と、2人きりの夜。仕事とはいえ、私はとっても幸せです」

「そうか・・・・」

 シエルがこちらを見て、柔らかく微笑む。

 月明かりを受けると、シエルの美しさは一層際立っていた。


「・・・・・・」

 自分の中で何かが欠けていくような感覚があった。


 支障はないけどな。

 テラから魔法を受けてから、何かがさらさらと崩れていくのを感じていた。


 以前の俺は、どんな奴だったんだろうと、ふと、考えていた。

 アイリスといた頃の俺は・・・・。

すみません(T_T)一個話が抜けてました!

割り込み機能に助けてもらいました。

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