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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第二章

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165 異世界住人対策会議

「異世界住人がダンジョンに来たという話は聞いておりません」

「はい。私の部下はダンジョンの中が快適だと言っていました。もちろん、外に見張りはつけています」

「そうか」

 魔王の間に上位魔族だけを集めていた。


 俺たちがいない間、特別何か起こったことはないようだ。

 ダンジョンが崩落しているという連絡もない。


「魔族の中で異世界住人に遭遇した奴はいるか?」

「私のところの部下が遭遇したようです」

 ザガンが手を挙げて、一歩前に出る。


「どんな様子だった?」

「会ったのはダンジョンより離れた場所。アリエル王国の方角から来た、4人が急に襲い掛かってきたと聞いています。まぁ、遭遇した魔族も強い者なので、やり返すとすぐに逃げていったようですけど」

「フン、他愛もないです」

「さすが人間。逃げ足だけは早いですね」

 ププが尻尾をくるんとして得意げにしていた


「でも、異世界住人たちは力を付けるスピードが速い気がします。こんな短期間で、魔族から逃げられるほどの力を持つなんて」

 シエルが口に手を当てながら話す。



「あぁ、お前らに見せたいものがある。サタニア、ユイナを連れてこい」

「わかったわ」

「?」

 椅子から立ち上がって、マントを後ろにやった。


 サタニアがユイナを連れてくると、魔族が驚いていた。


 異世界住人の存在は一部の魔族にしか伝えていない。

 動揺するのも無理ないな。


「魔王ヴィル様・・・そいつは・・・」

「異世界住人だ」

「!!」


「・・・・・・」

 ユイナが緊張しながら立ち止まる。


 ― 魔王のデスソード― 


「ヴィル様。な、何をすればいいのでしょうか?」

 ユイナが壇の上で魔族をちらちら見ていた。


「俺が今からお前に剣を振り下ろす。全力で防御してみろ。死なない程度に、手加減はする」

「そ・・・そんな、魔王ヴィル様が自らが剣を使うなんて」

「そうです。手加減する必要はありません。こんな人間、さっさと殺したほうが」

 上位魔族が近づいてきて主張してきた。


「黙れ。俺に、指図はするな」

 低い声で言い、ざわつく魔族を睨みつける。


「っ・・・失礼しました」


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

 上位魔族が一気に静かになった。

 場の緊張感が高まっていく。


「よく見ておけ。異世界住人の能力を見せてやる」

「能力・・・・・?」

 剣を構えた。


「ユイナ、早くしろ」

「は、はい。すみません」

 ユイナが震えながら空中で指を動かしていた。


「防御にステータスを全振り。会心、攻撃力などは全て0に近い状態に・・・装備品は、攻撃類は外し、盾にします。属性は闇属性にして、相殺し、無効化するように・・・」

 ぶつぶつ言いながら、空中を見つめていた。


「あとは、念のため、盾の効果にも、一回分のバリアを付与します」

「!?」

 上位魔族の緊張感が漂う。

 ユイナの服、武器、アクセサリーなどの装備品が変わっていった。


「だ・・・大丈夫です。これでお願いします」

 ユイナが大きな盾を出して体勢を低くしていた。


「装備品が・・・どんどん変わっていく。何も持っていないのに」

「装備だけじゃない。ステータスも属性も明らかに違う・・・こんなことができるなんて」

 魔族の戸惑う声が聞こえた。


「行くぞ」

 魔王のデスソードに魔力を溜めた。

 地面を蹴って、ユイナに切りかかっていく。


 ズンッ


「っ・・・・・」

 重い感覚が手のひらにかかった。

 沼に剣を突っ込んだような感触だ。


 ズズズズズズズーッ



「・・・・・・・!!!!」

 ユイナの盾が剣を止めていた。

 やはり、俺の攻撃を止めるか。


「っ・・・・」

 上位魔族が唖然としている。


「くっ・・・」

「やるな・・・」


 ドンッ


 一歩踏み出すと、ユイナが壁まで吹っ飛んだ。


「きゃっ・・・・・・」

 サタニアがユイナをキャッチする。  


 魔王のデスソードを解いた。

 ギルドの人間の中に、今の攻撃を受け止める者はいなかっただろう。


「ま、ここで死なれたら困るから」

「ありがとうございます。はぁっ・・はぁ・・・・はぁ・・・・ヴィル様、よ、よろしいでしょうか?」

 ユイナがその場に座り込んだ。

 手が、がくがく震えている。


「あぁ、上出来だ。サタニア、ユイナを手当てしてやれ」

「わかったわ。貴女、肉体感覚同期を取らなかったの?」


「はい・・・エヴァンから言われて、なるべく使わないようにしようと思ったんです。いたた・・・攻撃されると、痛いんですね・・・」

 小声で聞こえないように話していた。

 ユイナが脇腹を抑えながら、サタニアに連れられて、魔王の間から出ていった。



「・・・・・・・」

 魔族があっけにとられている。

 堰を切ったように少しざわついてから、こちらを見上げていた。


「今のが異世界住人の能力だ。ちゃんと見たか?」

「・・・はい。しかと、目に焼き付けました」

 カマエルが頭を下げながら言う。


「でも、信じがたくて混乱しています。魔王ヴィル様のあの力を受け止めるなんて・・」

「ま、魔王ヴィル様・・・こんなことができる人間がいるのですか? 装備を変更していき、自分の属性まで変えて対処するなんて、初めて見ました」

 シエルがツインテールを揺らして、ユイナのいた場所を見ていた。


「私の部下が会った異世界住人は、あんなことできるなどという情報は話しておりませんでしたが・・・」

 ザガンが腕を組みながら言う。


「ユイナは異世界住人の中でもトップクラスで、こちらの世界へのシンクロ率が高いらしい。ゲームで異世界にも慣れている。異世界住人全員が、あんなに素早くステータスを切り替えられるわけじゃない」

「ゲーム?」

「・・・そうだな。お前らにはちゃんと説明しないとな」

 マントを後ろにやって、呟く。


 ユイナを押し付けた壁が、ぽろぽろと砂を落としていた。

 異世界住人には、相変わらず驚かされる。


「魔王ヴィル様、異世界住人とは何者なんですか?」

「そうです。わからないことだらけです。もちろん、私たちが負けるはずありませんが・・・わからないことばかりで、頭が」

 ププが頭を振って、ウルが顔をしかめていた。


「異世界住人は仮の体を持って、こちらに存在しているらしい。あの体のことをアバターと呼んでいる」


「アバター・・・仮の体とは?」

「二つの世界に体があるということだ。こちらの世界における体は、アバターで、さっきみたいに、ステータスを戦闘中でも自由に変更できるようになっている」

「え・・・・」

 魔王の椅子に座る。

 下位魔族が、ぶどうジュースを注いでいた。


「あの・・・異世界は、こちらと似たような世界なのですか?」

 シエルが首を傾げた。


「いや、あっちの世界に魔法はない」

「じゃあ、どうして・・・・」

「異世界には、ゲームというのがある。複数の世界を疑似体験できるらしい。だから、あいつらがこちらの世界に来たのは最近でも、かなりの経験を積んでいると思え」

 ユイナの世界には魔法もなければ、戦闘はない。

 でも、ユイナの戦いぶりは、かなり戦闘を経験してきた者に近いものがある。


 冷静な判断、的確な能力コントロール・・・。

 おそらく本気を出せば、中級クラスの魔族なら簡単に倒せるだろうな。


「まだ・・・イメージが・・・・・・」

「ユイナの元のステータスは低い。ただ、あんなふうに、防御にステータス値を全て寄せることで、一度でも俺の剣を受け止めるほどの力を持っただろ?」


「・・・はい・・・確かに、ちゃんと見ました」

 ジャヒーが混乱しながら、頷いていた。


「異世界住人と遭遇したときは、決してステータスに惑わされるな。異世界住人は、今はまだ力をつけていないが、確実に強くなる」

 手を組んで正面を見る。


「で・・・でも、我ら魔族の力があれば・・・」

「カマエル、あまり己を過信するな。命取りになるぞ」

「は、はい」

 鋭く言うと、カマエルが後ずさりしていた。


「そうですわ。せっかく魔王ヴィル様が、調べてくださったんだもの。あの能力をしっかり分析して対策を打たなければ」

「・・・・・」

 ジャヒーがくるんとした角を触りながらカマエルのほうを見る。

 カマエルが俯いてから、胸に手を当てた。


「失礼しました。おっしゃる通り、私は自分の力を過信するところがあります。気を付けるようにします・・・」

「魔族の力の底上げも必要だな。力だけではなく、分析する能力」

 イベルゼが斧を床に下ろしながら言った。


 ガラスに入ったジュースに口を付ける。

 上位魔族たちが、さっきのユイナの動きについて話していた。



「いいか、ユイナは絶対に殺すなよ。あいつは、俺のサンプルだ」

「もちろんでございます。他の魔族にもそのようにお伝えします」

 カマエルがメガネを触りながら前に出た。


「あれが、異世界の力。私も負けてはいられない」

 シエルがユイナのいた場所を見ながら呟く。


「魔王ヴィル様・・・いえ、魔族のために」

「そうね。私もステータスをさらに強化できるように鍛錬しないと」

 サリーが今までにない焦りを見せていた。


 異世界住人は勇者オーディンの元で力をつけている。

 奴がどんな手を使ってくるかはわからないが・・・。

 向こうにはアイリスもいる。


 魔族のほうが全体的なステータスが高いとはいえ、正直、油断ができない状況だ。

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