表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

171/594

161 カルマ⑬

『キサラギは信じない。そんなの、ありえない!』

 事情を説明しても、キサラギは納得しなかった。


『ハナは生きてる。だって、キサラギはちゃんとハナを感じてる』

「だから・・・」

『嘘つきだ。お前ら全員嘘つきだ。本当はハナを隠してるんだろ』

 ダンジョンの少し広い部屋で、キサラギが飛び回っていた。


「はぁ・・・」

 エヴァンが部屋の端のほうの岩に座る。


「これだから、子供は苦手なんだよ。俺、寝てるから話がついたら起こして」

「あんただって子供でしょ」

「いつも言ってるだろ。俺は中身は子供じゃない」

「都合のいいときばっかり大人ぶるんだから」

 サタニアが腕を組んでため息をついていた。


「ハナとお前はどんな契約をしたんだ?」

『キサラギがダンジョンを守ること。他のダンジョンの精霊もキサラギと同じように、ダンジョンが現れると精霊が召喚され、守るようになった。他の世界が侵食してこないように』


「だから、はじまりのダンジョンか・・・・」


『あれ、どうして? ハナの魔力・・・感じなくなってきた』

 猫耳をぴんとさせていた。


「さっきから言ってるだろ。死んだんだ。魔力が残っていたのは、ダンジョンの傍に墓を建てたからだろう」

『ハナは永遠の命、与えられたはずなのに、どうして』

「永遠の命って言えば都合がいいわね」

 サタニアが長い瞬きをする。


「石化は解けた。ハナの遺体はダンジョンの傍に埋まってる」

『キサラギはハナに会ってない。ハナを見捨てたのか?』

「理不尽ね。石化して永遠の命を与えられるなんて、残酷なことを」

『だって・・・ハナが・・・』

 キサラギが首を振る。


『でも・・・ハナがいないってことは、死んだってことは、ハナを見捨てたことだ。そんなわけない!』

 大きな目を潤ませながら、怒りに満ちていた。


 見捨てた・・・か。

 気持ちはわからないでもないが。


「駄々をこねるな。お前はこのダンジョンの精霊だろ?」

『精霊でもないのに、生意気な。お前にキサラギの気持ちなんてわからない!』


「わからるわけがないし、わかろうともしていない。俺は魔王だからな」

 キサラギの横に座った。


 ハナが死ぬとき、どこまでこいつのことを思っていたんだろうな。

 死に際には、キサラギのことを口に出さなかった。


『嘘だ嘘だ!』

「静かにしなさい」

『・・・・・・・』

 毛ををわしゃわしゃしながら否定していた。


『だって・・・ハナは? キサラギと一緒にいないの?』

「元々いないでしょ」

「サタニア様!」

「ちゃんと言ってあげなきゃわからないのよ」

「でも・・」

 ユイナがおどおどしながら、ハナを見つめていた。


 こいつが思っている以上に、ハナはこいつのことを思っていなかったのかもな。

 想像でしかないが。 


 人の想いは、残酷だ。


「ハナがいなくなればお前らダンジョンの精霊はどうなるんだ?」

『ハナとキサラギの契約が切れてしまったから、全てのダンジョンが影響を受ける』

「どうゆうことだ?」

『元の役割が消えるから、よく言えば自由だ』 

 キサラギがしっぽを振って、空中に魔法陣を描く。


 方位磁石のように、真ん中の文字が動いていた。


『キサラギは、魔力を自分で溜められる。強いから。でも、他のダンジョンの精霊は違う』

「どうゆうこと?」


『自分で魔力保てない精霊は存続できず、ダンジョンは眠りについてしまうかもしれないし、魔力を溜めてきたダンジョンは継続できる。どうするのかは、各々に委ねる。みんな自由になった』

 真っ白な尻尾をふさふささせながら言う。


「それは本当なのか?」

『キサラギ、嘘、言わない。ハナと嘘つかない約束した』

「・・・・・」

 口に手を当てる。


 まずいな。

 ダンジョンには魔族を入れている。


「ヴィル、どうする? 今すぐ魔王城に戻る?」

「そうだな」


『ダンジョンは、まだ異変に気づいた程度。すぐに崩落するわけじゃない。おそらく、全ダンジョンに影響するのは次に月が満ちる頃。ん?』

 急に鼻をくんくんさせていた。


『お前、さっきから匂いがしないな。異世界の者か?』

 キサラギがユイナを睨んだ。


「はい。この体はアバターです」


『フン、ハナが来る前はお前のような奴がキサラギのところに現れて、消えていった。ハナと契約してからは見なくなったけどな』

「ダンジョンに現れたってことか?」

『いても、通過していくだけだけだった。あの人間の形をした者たちも気づいていないだろう。まさか、体をもってこっちの世界に来るとは』

 背中の毛を逆立てていた。


『最初に、この世界に気づいた異世界からの者がいた。あいつのせいだ。そのせいで、キサラギはダンジョンを守ることになった』

「エヴァンじゃないのか?」

「違うね。俺じゃない」

 エヴァンが即答した。


「じゃあ、誰が・・・・」

 最初に来た者・・・考えたこともなかったな。


 テラなのか?


『異世界住人が憎いな。お前みたいな・・・』

「!!」

 ユイナが少し身を固くする。


『で、でも、何もしないぞ。耳くしゃってやるのはナシだからな。ただ、異世界の者が嫌いなだけだからなっ』

「はぁ・・・・・」

 ユイナが指を動かそうとして、止まっていた。


「キサラギはテラを知ってるか?」

『テラ? 誰だ? キサラギは外のことは知らないぞ』

「・・・そうか」

 キサラギが首を傾げていた。

 テラのことを知らないのか。

 

「ふと、思い出したんだけどさ、きさらぎって、異世界では幻の駅名とされてるの、知ってる?」

 エヴァンが寝転がりながら言う。


「あ! 思い出したわ。電車で寝ていると通過してたりする、オカルト的な駅名のことよね?」

「都市伝説だったけどな。あれが、この世界と繋がっていたのか」

「なるほど。そうだとしたら、通過するだけってのも辻褄が合うわ」

 エヴァンとサタニアで勝手に納得していた。


「わ・・・私は聞いたことありませんでした・・・きさらぎですか・・・」

 ユイナが2人の会話に混ざる。

 異世界の言葉で話されると、付いていけなくなるんだよな。

 

 わかったのは、はじまりのダンジョンは、テラと関わっていないってことだけだ。


『ハナとアイリスしか、キサラギのことを呼べなかった』


「アイリスを知ってるのか?」

『もちろん知ってるぞ。こんな小さい子だろ? 嫌いだけどな』

 尻尾の先をくるっと丸めた。


『子供なのに魔力はハナよりもずーっとずーっと、高かった。知識もアイリスのほうが格段に上だった。でも、ハナがキサラギと契約して石化すると、姿を消してしまった。ハナを見捨てたんだ』

「・・・・・・」

『もう会ってない。どこかにいるような感覚はあるけど、感覚だけだ。別にいい。アイリスには興味ない』

 ぐしゅぐしゅ目を擦っていた。


『ふ・・・・ハナに会いたい。キサラギは独りぼっちだ。異世界住人が来ないように見張っていたのに、来てしまうし、ハナはいなくなるし、めちゃくちゃだ。約束守ってたのに、こんな、こんなことって』

 ふぇっと鳴き声を出す。

 


 ガタガタガタガタ・・・


「何!?」

「崩落まで1か月あるんじゃなかったのか!?」

 エヴァンが飛び起きて、マントを後ろにやる。


『うぅっ・・・うっ・・・』

「ユイナ! 逃げなさい」

「あっ・・・」

 

 ドドドドドドドドド


 壁が落ちていった。

 サタニアがユイナの体を掴んで飛び上がる。


「遅いわ。これくらい自分で避けなさい」

「ご、ごめんなさいっ」

 2人が崩落した壁の上に立つ。


「どうして急に・・・? 崩落するような要素はどこにもなかったのに」

「ヴィル、こんなよくわからないところ、早く逃げたほうがいいわ」

 この感覚は経験がある。

 泣いているハナに近づいていった。


「キサラギ、お前が原因だろ?」

『・・・・・・・』

 岩にぽたぽた涙が落ちている。


「え・・・どうゆうこと?」

「ダンジョンの魔力は、ダンジョンの精霊の心理状態も影響するんだよ。テンションが高まれば魔力が増大するし、落ち込めば今みたいになる。今、こいつは絶望してるから、ダンジョンが崩落しかかってるんだろ」

「マジか。厄介だな。おっと・・・」

 エヴァンが崩落していく岩を避けながら言う。


「入り口がふさがると面倒だし、サタニアの言う通り出たほうがいいだろ」

「まぁ・・・ちょっと待ってろ」

「ん? 何か方法があるのか?」

「・・・・・」

 あまり乗り気はしないが・・・。

 まだ、こいつに願いを叶えるダンジョンについて聞けていない。


 岩を飛び越えて、キサラギの傍に降りていく。


『な・・・なんだ? 何したってキサラギにはどうにもできないぞ。悲しくて仕方ないんだからな。お前なんかにわからないだろ』

「違うよ。俺の昔話してやる」

『へ?』

 キサラギの意表を突いたからか、ダンジョンの揺れが一瞬収まった。


「俺も子供の頃、お前と同じように独りになったことがあった」

『・・・・魔王なのに?』


「そうだ。俺は元々捨て子だからな」

『・・・・・・』

「聞きたいか?」

『うん』

 キサラギがこくんとうなずく。


 ダンジョンが静かになっていった。

 キサラギが泣くのを止めて、こちらをじっと見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ