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159 カルマ⑪

 サタニアはルーク含む十戒軍が全滅したと聞くと、しばらく沈黙していた。


「そうなの・・・」

 ゆっくりと瞬きをする。


 狐の面を、サタニアの傍に置く。


「で、私が死んだって聞いてそんなに悲しかったの?」

「フン、性格悪い奴は死なないらしいからな。どうせ生き返ると思ってたさ」

 エヴァンがそっぽを向く。


「強がっちゃって。本当は泣いてたくせに。ちゃんといつも大切に扱っておくのよ」

「俺は別に何とも思ってない。俺よりヴィルのほうが、な?」

「俺に振るなよ」

 サタニアが少し弾みながら近づいてきた。


「そんなに怒ってくれたの?」

「たまたま、気に食わなかっただけだ」

 ランプが揺れる。

 ユイナがくすくす笑っていた。


「どうして、勝手に十戒軍のところに行ったりした?」

「それは・・・・・・ごめんなさい」

 サタニアが長い髪を触りながら、古びた椅子に座った。


「私は、転生前にいたところ・・・異世界では、兄を見て見ぬふりして助けようともしなかったから・・・ずっと、この世界にいても引っかかってた」

 両手を握りしめながら言った。


「別に、ルークはサタニアの兄じゃないじゃん」

「そうなんだけどね。十戒軍のルークが居なかったら、私は召喚されてなかった。魔王にならなければ、こうしてヴィルと会うことも、魔族になることもできなかった。だから、この島の十戒軍が殲滅されるくらいなら・・・って」

 血の付いた水晶の小刀を見つめる。


「呪われてるのかしら。まだ、異世界が忘れられないなんて・・・」

「まぁ、それは俺もあるよ」

 エヴァンが剣を磨きながら、瞼を重くする。


「俺たちから異世界は切り離せない。何もかも捨てて、こっちに転生してきたつもりなのに」

「エヴァンなら否定すると思った」

「唯一、同じ世界から転生してきた者同士だからさ。でも、勘違いするんだよ。今回のサタニアの行動は同感できない。どうして、あんな奴らのために死のうとしたんだよ」


「それは・・・」


 エヴァンが睨みつける。


「・・・・・」

 指を動かして、消えかかったランプに火を灯した。


「ルークは私の兄に似ていたの。転生してないからそんなはずはないんだけど、どうしても似ているように見えてしまって」

「自分を差し出して、十戒軍の場所を作ろうとしたのか?」


「そうね・・・・処刑場を見て、恐ろしくなった。人々から罵声を浴びて、死んでいく兄・・・ルークを、どうしても見たくなかった」

 サタニアが小さく呟くように言った。



「結局は死んじゃったから、意味ないけどね。死んだと思えば・・・なんていうのかしら。どうすることもできないから、諦めもつくの」

 軽く息をついて、足を組んだ。


「ヴィルが200人以上の人間を、消し炭にしたんだ。問題はその後・・・ドラゴン化して、大変だったよ。島ごと吹っ飛ばすんじゃないかって思った。まさか、俺が、堕天使の力を借りるなんて・・・」

「ヴィル、ドラゴン化したの?」

 目を丸くする。


「・・・面倒になるから言うなって」

「恩人だろ? 俺は」


「本当に? ヴィルが、私のために?」

「そうらしいな。記憶はないが・・・」

「へ・・・へぇ・・・」

 少し間があった後、嬉しそうにしていた。


 エヴァンが水筒の水を飲みながら、にやにやしている。

 厄介な借りができてしまったな。


「サタニアは、元々、こうするつもりで、ミハイル王国に来たのか?」

「違う。全然、そんなつもりはなくて・・・処刑台を見たら、いてもたってもいられなくなっただけ」

 サタニアが前のめりになって、否定した。


「本当に、衝動的に動いてしまったの」

「・・・・・・・」

 エヴァンが急に静かになる。


「そうですか。サタニア様でもそうゆうことがあるのですね」

「あれだけ異世界嫌ってたのに、ね」

 サタニアが力なく笑った。


「まぁ、俺だって、ある程度整理はできているつもりだった。こっちの世界のほうが全然楽しいし・・・でも、思い出すものもある・・・」

 ユイナが布でネックレスについた血を拭きながら、エヴァンの話を聞いていた。


「向こうに肉体がなくても・・・・そう簡単に忘れられるものではないんだよ」

「エヴァン・・・・・・」

「サタニアの気持ちはわかる。でも、ここは異世界で魔族だろ。王はヴィルだ。勝手な行動は慎めよ」

 エヴァンが咎めると、サタニアが頷いた。


「ヴィル、ごめんなさい」

「二度とこんなことするなよ」

「うん」

 魔力も正常に戻っていた。傷も消えている。

 体は死後硬直の後だから動きにくそうだけど、次第に良くなるだろう。


「魔族にはサタニアが必要だ」

「・・・・ありがとう」

 サタニアに近づいていく。


「サタニア、手を出してみろ」

「ん? こう?」

「ちょ・・・ヴィル!」

 息を吐いて、腕を掴んでみた。


「大丈夫だ。前のような感覚はない」

「・・・・・・」

 エヴァンが剣に手をかけて、少し緊張していた。


「どうしたの?」

「・・・・・いや、何でもない・・・」

 特に、何の異変もなかった。


 体が乗っ取られる感じもない。

 どうゆうことなんだろうな、テラのかけた魔法は。


 あれが発動したということは、サタニアを最愛と判断したからなのか?

 今の体には何も起こらなかった。


 何がトリガーとなるのか、まだ掴めない。


「ふぅ・・・・いきなりびっくりしたよ」

「????」

 エヴァンが座りなおして、剣を置いていた。



「そういえば、ミイルが帰ってくるの遅いね」

「時間かかってるんだろう」

「・・・・・・・」

 ユイナが心配そうに洞窟の外を眺めていた。 


「自分でも、蘇るなんて思わなかった。どんな魔法を使ったの? 死者蘇生フェニックス?」

 サタニアが狐の面を取って、撫でたりしていた。


「いや、お前の魂はここにはなかった。代償蘇生で蘇ったんだ」

「え?」


「ハナという石像だった少女だ。お前を蘇らせたのは」

「ハナ? 石像ってどうゆうこと?」

「いただろう。教会に、傷のない聖女の石像が・・・・」

 サタニアにハナが現れた経緯を話していると、ミイルが戻ってきた。




「サタニア、元気そうで何よりです。よかったですね、戻ることができて」

「ハナの遺体はどうしたんだ?」

「きちんと弔いました。石化しなかったので、肉体は朽ちて、土になっていくでしょう。これでよかったんです。ハナはずっとそれを望んでいたから」

 ミイルが黒い翼を畳んだ。


「この先、何千年も石像でいるなんて、ハナらしくないですから。もう、お役目は終わって、やっと解放されたんです。いつも、あの石像を守っていた僕からすると、寂しい気持ちもありますけどね」

「・・・・そうか」


「そんなことより、大変ですよ。はじまりのダンジョンが壊れて、ハナが永眠したということは、ダンジョンの精霊が変化していくでしょう」

「ん? どうゆうこと?」

「どうして、そのハナって子がダンジョンの精霊と関係あるの?」

 エヴァンとサタニアが詰め寄ると、ミイルが落ち着くように言った。


「まずは、ダンジョンについて説明したほうがいいですね」

「・・・・・」

「この世界にあるダンジョンは異世界とこの世界を繋いでしまう、扉みたいなものです。今まで異世界から人が流れ込んでこなかったのは、ダンジョンの精霊が、せき止める役割を持っていたから」


「せき止める? 俺の会ったダンジョンの精霊は異世界に興味を持ってる奴らばかりだったが?」

「ヴィル、話しは最後まで聞いてくださいね」


 ミイルが長い瞬きをする。


「ハナは禁忌魔法で、ダンジョンの精霊を召喚した。自ら石化することで、永久的に全てのダンジョンの精霊が異世界との穴を防ぐ仕組みができていた。でも、それが無くなったってことは・・・・」


「この世界が無法地帯になるのか?」

「げ、マジかよ。異世界住人のバーゲンセールみたいな?」

「すぐに、そうはならないと思いますが。ダンジョンの精霊の在り方は確実に変わりますね」


「・・・・・・・」


「あくまで全て、僕の想像なので。実際にダンジョンに行ってみたほうが早いでしょう。はじまりのダンジョンはすぐ近くにありますから」

 腕を組んでソファーに座った。

 十戒軍の使っていた薬品の匂いがする。


「それはそうと、大混乱の城からお食事持ってきましたよ。食べますか? 今回は結構自信があります。兵士が無事帰還したときのパーティー用のテーブルから持ってきたので」


「う・・・そう前置きされると、食欲失せるな」

「俺は気にしないけどな。あのパンばかりで、うんざりしていたし」

「ヴィルはそうだろうけどね」


「さぁ、食べ物に罪はありません。死んだ人間の分も、生きてる者が食べましょう」

 ミイルが翼をふぁさーっと動かすと、肉や魚、パンや果物などの皿が出てきた。

 布を敷いて、一皿ずつ置いていく。


「これなんか一晩煮込んだらしいですよ。僕のお勧めですね」

「わぁ、美味しそうですね! では、遠慮なくたくさん食べます」

 ユイナが真っ先に駆け寄った。


「君、こうゆうときだけ図太いよね」

「お、お腹と頭は別です。せっかくなので、異世界の味を楽しみます」

「アバターでもお腹すくの?」


「肉体を完全に同期してるので。確かにアバターですが、同期を切らなきゃ、こちらの世界に転移しているような感覚です。どうゆう仕組みなのかはわかりません」

「ふうん」

 エヴァンとユイナが他愛もない会話をしていた。



「ねぇ、ミイル。ハナ・・・の魔法は、アイリスが教えたの?」

「はい、本人も言ってたでしょ?」

「そう・・・・じゃあ、私は間接的にアイリスに助けられたことになるのね」

 サタニアがリンゴを食べながら言う。


「あとで、ハナのお墓に連れて行って。私もお花をあげに行くわ」

「是非。ハナもきっと喜びますから」

 ミイルが視線を逸らしながら笑っていた。


 堕天使なのに表情を隠すのが下手だな。

 元天使だから、か。


 軽快な口調とは裏腹に、表情はずっと悲しいままだった。

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