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「大切なものは失ったときに初めて、もろく尊いものだったと気づく。ねぇ、聖女アイリス」
悪魔の少女が洞窟を囲む木の傍で、リンゴを齧っていた。
反対側には聖なる少女が立っている。
「私のいるところは現れない契約でしょ?」
「だからこうやって、木を挟んで私と話してる。仕事が早く終わった。あの国の勇者は、誰になるんだろう」
「ほかの仕事は?」
「悪魔にも休暇は必要でしょ。たまには私も好きなことしたい」
ジュッ
悪魔の少女が、りんごの芯を燃やした。
ドドドドッドドーン
「魔王様が悲しんでる。行かなくていいの?」
「貴女が私ならわかるでしょ? 魔王ヴィル様は負けないし、今ならまだエヴァンが止められる」
「それもそっか」
聖なる少女が木から離れる。
― ホーリーソード ー
光り輝く剣を出していた。
「ん? 戦闘に出るの?」
「魔王ヴィル様の攻撃を逃げ切った十戒軍にとどめを刺してくるだけ。ここにいる十戒軍は、また魔王ヴィル様の敵になる可能性もあるから」
「それって、悪魔の仕事じゃない?」
悪魔の少女が葉に止まった虫をつつく。
「女神に仕える天使だって、時には剣を振るう。祈るだけじゃ何も守れない」
「・・・真面目ね。私なのに・・・」
「せっかくいるなら、魔王様のこと見ててね。ちゃんと、共有して」
「もちろん。そのために、ここにいるんだから」
悪魔の少女がふわっと飛んで、木のてっぺんに座った。
ドーンッ
遠くの方で崖が崩れていく。
人間が息絶えていく。
「魔王様。やっぱり貴方様は魔族の王に相応しい」
ドラゴン化して、暴れまわる魔族の王を見ながら、目を細めていた。




