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153 カルマ⑤

「こ、こ、これは下の方から見えるんじゃないでしょうか?」

 ユイナがスカートを抑える。


「浮遊魔法が使えないんだから仕方ないだろ?」

「はははは、安心してください。見えるのは魔族と堕天使だけですよ。確か、人間たちが異世界で見るアバターってこんな風に角度を変えて、見られるんですよね?」


「それは・・・そうゆう仕組みはありますが・・・私は使いません」

 ユイナはミイルがかけた、透明な丸いガラスケースに入れられて、移動していた。


 スピードを上げて森を通過していく。

 ミハイル城から少し離れた場所にある、十戒軍の拠点のある洞窟に向かっていた。


「ま、その中は安全だ。じっとしていたほうがいいよ」

「は、はい・・・」

「アエルも使ってましたか。んー後出しみたいで、引っ掛かりますね」

「ねぇ」

 エヴァンがすっと横に並ぶ。


「さっきから何か嫌な予感がする。ヴィルは?」

「同感だ」

 胸騒ぎのようなものがあった。


「随分、城が静かだった。何かあったのか?」

「気づきました? 実は昨晩から今朝にかけて、ミハイル王国の軍が十戒軍の拠点に向かってるんですよ。200人くらいでしょうか」

「!!」


「サタニアはおそらくわかっていたのでしょうね」

 ミイルが黒い翼を伸ばす。


「僕も先ほど気づきました。王国はこの島の十戒軍を、本気でつぶしにかかる気みたいです」

「そんな力あるのか? あんな腑抜けた国の奴らに」

「さぁ、不思議ですよね」

 ミイルが肩をすくめる。


「王国軍のステータスは低いですけど、十戒軍も単体で強い人間が集まっているわけじゃないので。どうなるのかは想像できませんね」

「幸福の粉でハッピーとか言ってた奴らが攻撃を仕掛けるんだ。中身がすっからかんなのは変わらないだろ」

 エヴァンが皮肉っぽく言う。


「共通の敵を作って、必死に強く保とうとしてるんですよ。エヴァン、君も人間なら経験はあるでしょう? もしくは、被害者になったり・・・とか」

「・・・はは、堕天使は鋭いね」

 ミイルが口角を上げていた。


「経験はあるよ。共感はできないけどさ」

 エヴァンが神妙な面持ちで頷いた。

 マントをなびかせて、ミイルの視線を避ける。



「これから行くのは、僕が十戒軍を結成したときの場所です」

「ミイルはどっちにつくんだ?」

「僕は堕天使ですから。ただの傍観者ですよ」

 翼をたたんで、くるっと回ってみせる。 


「そろそろ低空飛行したほうがよさそうだな」

「ん? どうして?」

「そこに人間の気配を感じる。この森を抜けたところで降りるぞ」

「了解」

 木の裏側から視線を感じた。

 人数が多いな。


「この崖の突き当りが洞窟ですね。もうこんなに人間が集まっているとは・・・待ち伏せでもしているんでしょうか」

 ミイルが口に手を当てて、降下していく。




「うわっ、魔族だ!」

「武器を構えろ」

 草原に立つと、ミハイル王国の兵士がわらわらと囲んできた。


「待て、勝手に動くな。奴らが、どんな能力を持っているかわからない」


 魔導士が多いようだな

 剣士、ランサー、ウォーリアー・・・職種で固まっているわけじゃなさそうだ。

 先頭で剣を構えていた者が、後ろへ何か指示している。


「ヴィル、こんなに目立ったところに降りなくてもよかったんじゃないのか?」

「隠れる必要もないだろ」

「ま、そうなんだけどね」

「ど、ど、ど、どうするんですか? こんな、大勢の人間が敵だなんて・・・」

 ユイナが震えながら、空中で指を動かして装備品を変えていた。


「なんか、大勢は、こっちに来ないみたいだな」

「拍子抜けするなぁ」

「え?」


「俺たちが足止めしてやる」

「私たちだけで十分よ」

「大衆に紛れたら、戦果が目立たなくなりますから」

 5人の人間が、堂々とこちらに歩いてきた。

 その他の人間は洞窟に向かうのが見える。


「ヴィル、どうする?」

「適当に片付けるしかないだろ」


 ドンッ


 大剣を持った男が、剣を地面に突き刺す。

 軽い地震が起こっていた。数センチ浮いてかわす。


「きゃっ」

 ユイナがバランスを崩して、転んでいた。


「お前ら魔族の相手なんて俺らで十分。国王から勲章を賜ったこともあるからには、ここでいいところを見せないとな」

「アウディ、あまり調子に乗らないほうがいいわよ」

「まずは、お手並み拝見っ」

 剣士の男が勢いよく切りかかってきた。


 ― 魔王のデスソード


 バチンッ


 軽く振って、攻撃を跳ね返す。


「うわっ」


『風よ、戦士を守れ。ウィンドドロウ』

 男を飛ばすと、魔法使いがクッションのような魔法で衝撃を吸収していた。


「クソ・・・殺してやる」


 ザンッ


 斧を持った男が風を巻き起こしていた。

 俺とエヴァンは、飛んで避けていく。ユイナがわたわたしていた。


 ミイルが遠く離れた場所から、俺たちの様子を眺めている。


 本当に傍観するつもりだな。


「ガキが。戦場に来るんじゃねぇよ」

 男がエヴァンに斧の刃を向けている。

 太い腕をした屈強な体をしている・・・が、ステータスは低いな。


「援護するわ」

 女が杖を持って駆け出してくる。


「ん? このガキ・・・人間じゃないかしら?」

「よく見ると、お前・・・アリエル王国の紋章を、王国騎士団の人間か?」

「へぇ、知ってるんだ」

 エヴァンが男の攻撃をかわしながら言う。


「でも、残念ながら、王国騎士団の人間はいなくなったんだ。俺は魔族だ」


 エヴァンが剣を天に掲げる。

 剣の先が黄金に光りだしていた。


 ― 疾風雷鳴クラック― 


「ぐっ・・・なんだ、この力は」

 剣を向けると、黒い稲妻が2人を追いかけていった。


「しょ、所詮、子供の魔力よ」

 女が杖を向ける。


『バリア』

「俺に力勝負で敵うわけないじゃん」


 パリンッ


 槍のような雷が、バリアを破って、2人の体を貫いた。

 一瞬にして、魂が抜けてその場に倒れる。


「だっ・・・だ、大丈夫ですか?」

 ユイナが死体に駆け寄っていった。


「ガキだろうが何だろうが、戦場に出れば同じだ。弱いか、強いかしかない」

 エヴァンが土を蹴って、ほかの人間のほうを見つめる。

 ユイナが膝をついていた。


「そんな・・・な、なんてひどい。こんなに簡単に人間を・・・うぅっ」

 倒れた2人の近くで、口を手を当てていた。

 ユイナのほうへ歩いていく。


「戦場で、ぎゃーぎゃー喚くな」

「!?」

 ユイナの額に剣を突きつける。


「お前が戦ってみせろ。人間はあと3人残っている」

「・・・・・」

 呆然としていた3人を睨みつけると、震えながら何か話していた。


「・・・嫌・・・・です」

「命令だ」


「わ・・・私は、人殺しなんてしたくありません! 肉体の感覚はさっき取りました。いつ、死んでもいいです。もし、殺すというなら、今、殺してください!」

「そうか。じゃあ、殺そう」


 魔王のデスソードを振り下ろそうとしたときだった。

 エヴァンが前に回り込む。


 ドンッ ドドドッドドドドドド


「うぐっ・・・・」

 エヴァンがユイナを思いっきり蹴り飛ばした。

 体が草原をバウンドして、岩にあたって倒れる。


「・・・か・・・体が・・・・」

 ユイナがその場に崩れ落ちる。

 口から血が出ていた。


 バンッ


 俺が動くよりも早く、エヴァンがユイナを岩に押さえつける。


「前も話しただろ? 異世界住人が来たせいで、俺の部下、城下町の人間はすべて消えた!」

「っ・・・」

「あいつらに思い入れがあるわけではない! 正直、駒としか思ってなかった。でもな・・・」

 ユイナの胸倉をつかんで持ち上げる。


「戦闘員も非戦闘員も関係なく抹消させて、代わりに来た奴が、綺麗事抜かして簡単に死のうとするなよ! どんな理由があろうと、お前が誰かを犠牲にしてこの世界に存在していることには変わりないっ」

 かすれた声で叫んでいた。


「死ぬなら苦しんで死ね! 楽に死のうとするなら、俺は絶対お前を殺さないからな!」

 草原に響き渡る。


 3人の人間も、その場に立ち尽くしていた。

 ユイナがだらんとした手をエヴァンに伸ばす。


「・・・泣いてるの・・・ですか?」

「違う! お前が憎くて仕方がないだけだ。お前が死にたいなら・・・・俺はこの憎しみを、どこへ向けたらいい!?」

「・・・・・・・・・」


「エヴァン、その辺にしておけ」

「くっ・・・・・・・」

「もうあばらが3本折れている。内臓が傷つけば、自然と死んでしまう」

 エヴァンがゆっくりと離れて、剣を仕舞った。


 ― 肉体回復ヒール― 


 お腹と背中に手を当てて、ユイナの傷を治癒する。


「あ・・・・・体が・・・」

「いいか。もう一度言う。戦え。あの人間を殺せ。命令だ」

「・・・・・」

 目を見て言う。ユイナが少し沈黙していた。


「・・・・わかりました・・・」

 ユイナが口の血を拭いて、立ち上がる。

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