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128 アリエル城⑫

 部屋に入ると、アイリスの前に異世界住人が集まっていた。

 空中で指を動かしながら何か見ているようだった。


「皆さんが持っているのは、アリエル王国のギルドの武器。初期配布の武器というらしいですね。魔王ヴィル様・・・あっ・・・・」

「・・・・・・・」

 アイリスを無視して、隅の小さなソファーにセラを寝かせる。


「大丈夫?」

 サタニアがマントをかけ直していた。

 汗を掻いて、苦しそうだ。


「クーリエ、早く治せ」

「中途半端に漬かってしまったので、やはり正気に戻すには、アース族が必要なのですが・・・そうですね。まだ、アイリス様のお話の途中ですから」


「早くしなさい! セラが・・・」

「あぁっ・・・・」

 セラが苦しそうにしていた。


「はい。でも、このように完全にはできなかったから苦しんでいるのです。最後まで大人しくされていたのでしたら、ちゃんと馴染めたのですが」

「よくもそんな・・・」


「セラは魔族だ。異世界住人には渡さない」

 怒りで頭が震えた。

 サタニアが止めなければ、斬っていたな。


 クーリエがセラをじっと見つめている。


「何のためにわざわざ人間と魔族が一緒にいなきゃいけないのよ」

「異世界では魔族というものも、かなり魅力的に描かれているようで、皆様こちらの世界の魔族に興味を持っているんですよ。会ってみたいと」

「い・・・いやらしいわ」

 サタニアが何かを感じ取って、口に手を当てた。


「その子・・・・」

 異世界住人の一人がこちらに駆け寄ってきた。

 短髪で細身の男だ。


「可哀そうだからさ。俺に何かできることがあれば、手伝うよ。アース族の力が必要なんだろう?」

「カナト様、まだ説明の途中ですからアイリス様のところへ」


「いや、俺は大体わかった。魔導士だ。ステータスの味方、地図、魔法の使い方もなんとなく理解した。うん・・・見方も完璧だな。向こうの世界で、俺がやってたゲームの仕組みと似てるよ」

 指を動かして、何かを見ながら言う。

 サタニアが不満そうに睨みつけていた。


「君は、魔王だっけ?」

「だからなんだ?」

「いやいや、俺は別に敵対しているわけではないし。とにかくこっちの世界に来たばかりだ。今は、魔族だろうが、純粋に彼女を助けたいだけだよ」

 青い真剣な瞳で訴えてきた。


「この方なら大丈夫でしょうが、いかがいたしましょうか?」


「・・・・・・」

 悶えるセラを見つめてから、一歩下がった。

 異世界住人は信用できないが・・・今は、仕方ない。


「では、方法をお伝えします・・・・」

「えっ!? そ、そんなこと」

 クーリエが耳元で何かを話すと、異世界住人がたじろいでいた。


「俺は別にそんなつもりじゃ・・・もっと、健全な方法とか」

「止めますか? 彼女は苦しいままですが・・・」

「いや、だって、『魔族少女』みたいなシチュじゃないか」


「ん? 何言ってるんだ?」

「ま・・・『魔族少女』・・・」

 サタニアが小さく呟いて、セラから離れた。


「彼女は魔族の中でも特に美しい吸血鬼族です。どうしますか? 今の彼女は貴方を求めています」

 セラがマントから手を出して、カナタの指を握りしめていた。

 眉を動かして、辛そうにしている。


「?」

「でも、だって・・・・」

 こちらをちらちら見ながら戸惑っている。




 サタニアが息を吐いて、異世界住人の集まりのほうへ歩いていく。

「ヴィルもこっちに来るのよ」


「セラはいいのかよ」

「カナトが、いろいろするの」

「・・・・・・・」

 なんとなくピンときた。


「・・・え、あの男が言ってた『魔族少女』のシチュって」

「私がやったゲームじゃないから。でも、聞いた話だと、魔族の少女の呪いを解くにはそうゆうことをしなきゃいけないって・・・いいでしょ」

「・・・・・・」

 異世界住人たちはアイリスの話に夢中で気づいていないようだ。


 サタニアが咳をしながら、離れていく。 





「私たちは、魔族からダンジョンを奪い返すためにパーティーを結成します。城下町は皆様のもの。自由にお使いください。本日、結婚式に出席されていたサンフォルン王国の方々も、城下町にいますので、気軽に話せば仲間に・・・」

 アイリスがはきはきとしゃべっていた。


 タンッ


 マントを後ろにやって、アイリスの横に立つ。


「俺は別にお前と敵対しているわけじゃないけどな」

「魔王ヴィル様っ」

 アイリスに話しかけると、異世界住人が動揺していた。


「ど、どうゆう設定だ?」

「確かに、あれが、魔王・・・だよな?」

「ん? どうゆうことだ? 聖女と魔王は仲がいいのか?」

 顔を見合わせながら、こそこそ話している。


「そうゆう設定じゃないんです。とにかくアース族のみんなはダンジョンを攻略していって、レベルを上げてください」

 アイリスが大きな声を出す。


「へぇ、導きの聖女らしいじゃん」

「からかわないで。魔王ヴィル様もちゃんと魔族を配置してね」


「そりゃ、配置するだろ。つか、さっきの結婚式のイベントとこの一連の流れ、なんだったんだ? 中途半端だし、用がないならとっとと魔王城に戻るぞ」


「魔王城・・・な、なんだかマキアのご飯が食べたくなってきた」

 アイリスが頬に手を当てながら言う。


「城のごはんより美味しいしな。魔王城にいたら・・・・て、アイリス、やっぱり・・・」

「え・・・・」

 アイリスが目を丸くした。


『アイリス』


「テラ・・・」

 いつの間にか、前に透けているテラが立っていた。

 異世界住人は五感があるらしいが、相変わらずこいつは3Dホログラムで透けていた。



『皆さん驚きましたか?』

 異世界住人に呼び掛けていた。


「そりゃ・・・なぁ・・・」

「話と違うっていうか・・・」

「聖女アイリスと魔王が仲がいいなんて、聞いていなかったし。ほら、ステータス情報にも、そうゆう話は載ってないんだよな」

「ダンジョン攻略していいの? こっちが悪者にならない?」

 一人が短剣をくるくる回しながら言う。


「違う。ダンジョンにはちゃんと目的があって、それは私から話す予定じゃなくて・・・」

 アイリスが戸惑いながら話していた。

 アイリスの目的が、いまいちよくわからない。


「導きの聖女は、もういいだろ。アイリス、魔王城に戻るぞ」

「あっ・・・・」

 アイリスの手首を掴もうとしたときだった。



 ドクン


 めまいがするほどの心音が鳴る。

 腕に青い稲妻のような光が走り、膨らんでいった。


 ドンッ ガガガガッ


「ヴィル!?」

「くっ・・・・・」


「アイリス!!!!!」

 巨大化した竜のような腕が、アイリスの体を壁に押し付けていた。


「な・・・なんだ? これは、テラ、俺の体に何をした?」

『魔王らしく・・・ですね。あの女は恐ろしいです』


「!?」

 腹に力を入れて、腕を下ろす。

 アイリスがどさっとその場に落ちて、気を失っていた。


 十戒軍の魔導士が駆け寄る。


「ごほっ・・・私は大丈夫・・・・」

 咄嗟にアイリスが自分にヒールをかけていた。



「なっ・・・」

 大理石を蹴って、アイリスから距離をとる。


「ヴィル、大丈夫?」

「あ・・・あぁ・・・・・・」

 サタニアが駆け寄ってきて、腕に触れようとした。

 深呼吸しながら、しばらくすると、腕が元に戻っていった。


「どうゆうことだ・・・今のはなんだ?」

『魔王ヴィル、異世界住人の待機部屋に行っただろう?』

「・・・・・」

 息を整えながら体勢を低くする。

 首筋を汗が伝った。


『そこではね、あらかじめ魔法を用意してたんだ。魔王ヴィル、君のためだけに、何年も前から用意された魔法だ。君が通るだけで、かかる魔法・・・』

「どうゆう意味だ?」


 テラが老人から青年のような姿になって、にやりと笑った。


『魔王ヴィルにかかった魔法は、愛する者に触れれば力が暴走し、ドラゴン化するというものだよ。危うく、アイリスを殺すところだったな』


「!?」


『聖女と魔王は、当然、相いれないものだろ?』



 ― 魔王のデスソード― 


 左手でテラの体を切ったが、すっと抜けてしまった。


「なぜ、お前が俺にそんなことできる?」


『俺には知り合いがいるんだよ。この世界、最強の魔女が』

「魔女?」

 マーリンよりも強いということか?


 そんな奴、見たことないが・・・。


『はははは、魔王ヴィル、その呪いを解くには・・・願いを叶えるダンジョンしかない』

「は・・・・願いを叶えるダンジョン?」

『そうだ。この世界に存在する、希望のダンジョン』

 テラが両手を広げながら言う。


『何もしなければ、いずれ闇に呑まれ理性の効かないドラゴン化するだろう。そっちのほうが都合がいいらしくてね。彼女が授けた力だよ』

「誰のことを言ってる? お前に協力者がいるのか?」


『さぁね』

 テラが楽しそうに笑う。


「アイリス様に誰か薬草を」

「俺、持ってるよ」


「私は自分で回復できるから・・・それよりも今の状況を把握して」

 数人の異世界住人がアイリスの周りに集まっていた。

 アイリスの呼吸は正常、魔力も正常の範囲だった。


「テラ・・・・」

『魔王ヴィル。魔王になった君の困った顔がずっと見たかった。アース族の敵として振舞ってもらうよ』


「・・・・・・」

 右腕を押さえながら、アイリスのほうを見る。

 賢者の服を着た少女が、異世界住人に薬草の使い方を説明していた。 

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