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127 アリエル城⑪

 サンフォルン王国の王子は30代後半くらいの男だった。

 浅黒い褐色の肌をもつ、眉毛の太い、身長が高めの人間だ。


「なるほど、あっち側がサンフォルン王国貴族ってことか」

「サンフォルン王国もかなり複雑でね。あのマフニ王子は第一王子で唯一の権力者、元は十戒軍と敵対していた」

「そうなのか?」

「あぁ、今は違うみたいだね。どうして、住民が消えて異世界住人が入ってくる今、アリエル王国の王女と結婚しようと思ったのかは疑問だよ」

 エヴァンが言うと、ふわっとアエルが横に現れた。


「愛が生まれたからだとは思わないのですね?」


「いきなり出てくるなって。リョクは?」

「お手洗いです」

「あ、そ」

 アエルが口に手を当てながら異世界住人のほうを眺めていた。


「あれが・・・へぇ・・・随分と、顔立ちの整った方ばかりですね。あ、私、男が好きという趣味はありませんよ。やっぱり、いい匂いのする女性が好きですけどね」

 飾った花を一本取って、匂いを嗅いでいた。


「どうしてあんな近くに女を置いておく必要があるのかしら」


「異世界転移したばかりだと、みんな不安ではないですか。あの子たちは、こちらの世界への恐怖心を和らげるような役割なのでしょう。可愛らしい子が傍にいるってだけで、癒されるものですよ。サタニアみたいにね」

「ふん、白々しい」

 サタニアがツンとしながら、髪を後ろにやる。




「皆様、静粛に」

 少女が民衆に呼び掛けていた。

 隣にテラが立っている。


「ピュイア王女の準備が整いました。式を始めたいと思います」

 オルガンの音が鳴り響く。


 中央を見ると、扉が開き、真っ白なウェディングドレスに身を包んだピュイアが歩いていた。

 アイリスが後ろについている。


「ウェディングドレス! いいな、着てみたいな」

 サタニアが急に興奮気味に言う。


「散々ミハイル王国でドレス着てたじゃないか。もっといろいろ着てたんだろ?」

「あ、あんなの思い出させないでよ。あそこにいたこと自体、黒歴史なんだからっ」


「へぇ・・・黒歴史ねぇ」

「白いドレスを着てみたいの。純白の、ね」

 サタニアがぼうっとしながらピュイアのほうを眺めていた。


「・・・・・・」

 どのタイミングで、アイリスをさらおうか考えていた。

 アイリスは、まだ俺たちがいることに気づいていないみたいだな。


 アイリスが遠くに向かって祈ってから、頭を深々と下げていた。


「ヴィル、ピュイアもついでにさらいませんか? 面白いかもしれないじゃないですか」

「俺を人さらいみたいに言うなよ。別に人間に興味があるわけじゃない」

「つれないですね」

「・・・・・・」

「興味があるのはアイリスだけだというと、サタニアが怒りますよ。気を付けてくださいね」

 アエルがそっと耳打ちしてくる。


「肝に銘じておくよ」

「・・・・・」

 サタニアが眉をぴくっとさせていた。



 アイリスがピュイアと何か会話してから、テラの横に立つ。


『本日は新たな2人の門出にお集まりいただきありがとうございます。アース族の皆様もようこそおいでくださいました』

 テラが民衆に向かって話していた。

 あいつは、異世界住人たちとは体が違う。


 3Dホログラムのままだった。


『この場はオンライン通信不可となっていますので、お気を付けくださいね。皆様は、もうこの世界の住人なのです』


 ワアァァァァァ


 異世界住人から歓声が上がる。

 テラの声が聞こえているのは・・・異世界住人と十戒軍の一部みたいだな。

 皿を下げている男性が、こちらを見て一瞬驚いていた。


『これから始まるこの世界での日々を、ぜひ楽しみにしていてくださいね』


「神様もこの場に来ておりますよ。ピュイア、貴方の美しい姿、姉としてとてもうれしく思います」

「はい・・・」

 アイリスの声は透き通るようだった。

 ピュイアがベールをかぶったまま頷いていた。


「なんか退屈だな」

 あくびが出そうだ。


「ヴィル、魔王らしくぶち壊して来たら?」

「お前こそ子供らしく騒いできたらいいじゃん」


「お二人とも、十戒軍、テラ、異世界住人を交えた式がこんなに退屈なまま終わるわけないでしょうが」

「ん?」

「お楽しみはこれからですよ」

 アエルが口角を上げていた。


「おっと、リョクがお手洗いから帰ってきたようなので、私はこの辺で失礼します。もし、サンフォルン王国の堕天使らしき人物が見えたら知らせてくださいね。まぁ、彼はめったに顔を出さないので、無いとは思いますが」

「・・・・・・」

 黒い羽を一つ落として、すっと消えていった。


「どうゆう意味だろうな?」

「あいつの言ってることまともに受け止めてたら、身が持たないぞ」

「それもそうか。ヴィル、寝てたら起こして」

「寝るなって」

 サタニアが息をついて、ピュイアを見つめている。



 式が順調に進んでいった。

 異世界住人に特に目立った動きもないな。


「なぁ、エヴァン、って寝てるし」

 エヴァンをゆすろうとしたとき。


「!!」

 突然、天井にミシっと亀裂の入るような音がした。


 ダァンッ


「きゃー」

 民衆の悲鳴が上がった。

 天井を突き破って、卵型の大きな物体が落ちてきた。


 十戒軍に連れられて、ピュイア王女とマフニ王子が隣にはける。


「なんか、始まったみたいね」

「あぁ」

 身構える。サタニアが魔女のウィッチソードを出していた。


『なんということでしょう。式に魔族が落ちてきてしまいました』

「魔族だと?」

 テラが異世界住人に大げさにアピールしながら、物体に近づいていく。


「あぅっ・・・・・」


 ドサッ


 中を開けると、裸のセラが出てきた。 


「ヴィルっ」


 ― 魔王のデスソード


 地面を蹴って飛び上がり、中央に降りる。

「うわっ」

「誰だ? お前は」

「どけろ」


 ドンッ


 剣を地面に刺して、雷を放つ。近づいて来る人間たちを蹴散らした。

 セラの横にしゃがむ。

 すぐに、サタニアが自分のマントをセラにかけた。


「サタニアさ・・・魔王ヴィル様・・・・?」

「何があった!? 大丈夫か?」

 鼓動が早くなっている。


「ま・・・魔王ヴィル様・・・油断しました。内側から突き破ろうといたんですけど、力が、抜けて・・・」

 割れた卵型の物体の中は、液体のようなものでぬるぬるしていた。

 あれを浮かせて、魔王城から連れてきただと?


「この液体、何かおかしいのです・・・体が・・・あぁっ・・・」

 セラは自分で起き上がれなかった。

 抱きかかえると太ももをこすりながら、悶えていた。


「あぁ・・・うぅ・・・体が・・・・」

「どうしたの? 特におかしなところはないのに」

 サタニアがセラの額に手をあてる。


「何をした!?」

『たいそうなことはしていないよ』

 テラが平然としていた。


『ここに運ぶ宙船の中に、ちょっとした湯船のようなものを取り付けていたようなものだ。本当はもう少し縛っておくつもりだったんだけど、抵抗したのかな?』

「は?」


『途中だから、そんなに苦しいのだよ』

 クーリエがピュイアの前を通ってこちらに向かってくる。


「私から補足させていただきます。彼女は式の終了後、異世界住人であるアース族の方々に魔族というものをレクチャーするためにここに連れてきました」

「っ・・・」


「空飛ぶ物体はサンフォルン王国、十戒軍の技術ですが、さすがに魔族をずっと閉じ込めておくのは無理だったようですね」

「馬鹿なこと言わないで!」

 サタニアが魔女のウィッチソードを出して、立ち上がる。


 クーリエに向かって振り下ろそうとしたとき、ユウスケが飛び出てきた。


 バチン 


「クーリエには手を出すな」

 ユウスケが剣を両手で持って睨みつけていた。


「じゃあ、貴方を殺すまでよ」

「うわっ」

 サタニアが一瞬でユウスケの剣を弾いて、地面に落とした。


 カラン カラン・・・・


「やっぱり、弱いじゃない」

「くっ」

「落ち着いてください。これから、彼女を治す方法をお伝えします。別に彼女に毒をかけたわけじゃありません。人間の生まれ変わる魔法といったところでしょうか。さぁ、ご主人様、こちらへ・・・」

 クーリエがユウスケの腕を掴んでしっとりと言う。


「・・・っ・・・ぁ・・・・」

「苦しいのか?」

「どうしたの?」

「体が熱くて・・・体がおかしい・・・です。中から、どうしてか・・あつっ・・・」

 腕の中で体を仰け反らせていた。


 異世界住人たちが、女たちと一緒にわらわら近づいてくる。

 こいつら全員、殺してやろうか?


『神聖な式の途中です。皆さん奥の部屋に行きましょう。アイリスもこちらへ・・・導きの聖女、役目を』


「は、はい・・・アース族の皆さん、私についてきてください」

「アイリス・・・」

 アイリスが異世界住人の間を通って、何があったのかを説明しているようだった。

 テラがクーリエと共に、聖堂脇の扉を開いている。





「この聖堂ごと、潰してやる」

「そうね」


「待ってください」

 セラを連れて飛び上がろうとすると、アエルに止められた。


「今はテラの言うことを聞いたほうが無難です」

「どうしてだ?」


「その、魔族の少女が悶えてるのは、アース族しか治せないはず。ヴィルの魔法でも無理なようです。特殊なことをされましたね。十戒軍が異世界と混じると恐ろしいですね・・・あぁ、これは儀式のような意味もあるのかもしれませんが」

「・・・・・・?」

 アエルが口に手を当てる。


「それにヴィルは・・・いや、今はいいでしょう。早く行動を起こした方がいいですよ。手遅れになります」

「!?」

「魔王ヴィル様・・・く・・・」

 頬を火照らせながら息を漏らしていた。


「・・・・わかったよ」

 舌打ちをして、テラの後に続いていく。

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