表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

133/594

126 アリエル城⑩

「ふぅ・・・・ちょっと、動揺しちゃったわ」

「・・・・・・・」

 ちょっとどころじゃなかったけどな。

 しばらくして、冷静になったアイリスが咳払いしていた。


「で、何しようとしてたんだ?」

「えっと、挨拶にって思ったけど、後でもいいかな?」


「ねぇ、アイリス様。ちょっといい?」

 エヴァンがアイリスに近づいていく。


「どうして十戒軍といるの? 王国はいつ十戒軍を入れたの?」

「アリエル王国の兵士の一部は、最初から十戒軍。明かしてないだけ」


「じゃあ・・・・・・」

「もう命は狙われていない。心配しないで」

 髪を耳にかけながら言う。


「私は今度こそ失敗するわけにはいかない」

「アイリス様・・・君は・・・」

「・・・・・・・・」


「とにかく話は後だ。俺と来い」

 アイリスの手首をつかむ。


 ドクン・・・


「!?」

 手から右肘にかけて、うずくように、大きく脈を打った。

 はっとしてアイリスから手を放す。 


「魔王ヴィル様、どうしたの?」

「・・・・何でもない」

「?」

 右腕を触りながら離れた。


 今、確かに魔力が・・・。

 

「ヴィル、行きましょう」

 サタニアがすっと前に入ってくる。

「じゃあ、私たち、先に聖堂に行ってるわ。聖女アイリス、またあとで」

「えぇ・・・うん・・・」

 サタニアに押されるようにして、その場から離れていく。




「すぐ、デレデレするんだから。連れていくのか連れていかないのかはっきりしなさいよ」

「してないって」

「よりにもよって、私の前でイチャイチャするなんて。ずっと、入っていくの我慢してたんだからね」

 サタニアが頬を膨らませながら、こちらを見上げてくる。

 サタニアはアイリスとのことになると、特に機嫌が悪くなるな。


「・・・・・・・・・」

 腕をさする。


 あの、アイリスに触れたときに腕に感じたものはなんだったんだ?

 得たいの知れない力が溢れ出るような感覚だ。


 結界に触れた感覚とも違う・・・なんだ?


「んなことより、いいのか? アイリスにお前のことを明かさなくても」

「え・・・・・・」

「アイリスがこの世界のことを教えたんだろ?」


「いいわ。私はもう、サタニアなんだから。七海だった頃の私は、消えたの」

 視線を逸らして、髪を後ろに流した。





 聖堂に入ると、中は色とりどりの花が溢れていた。

 天井のガラスからは、太陽光が降り注いでいる。


「いらした方から、前のほうに座ってください」


 大勢の人に紛れて、俺たちが魔族だと疑う人間もいなかった。

 初めて異世界住人が来たとき、眠っていた人たちが、てきぱきと働いている。

 押されるがまま座った場所で、異世界住人が出てくるのを待っていた。


「ヴィルが魔王だってこと、知らない奴らばかりなんだろうな。それどころか、俺のことまで知らないようだし」

 エヴァンが皿から果物を取って食べている。


「よく食べれるね。毒があるかもしれないのよ」

「フルステータス転生の俺には毒も効かないしね」

「あ、そ」

 サタニアがツンとする。


「リョクは連れてこなくてよかったのか?」

「アエルといたほうが安全だしな。今もその辺にいるんだろう」

 適当にひと気のない場所を指した。


「リョクは天使だと思うか?」

「・・・わからない・・・」

 エヴァンがぼうっとしていた。


「ねぇ、見て。異世界住人ってなんで男ばっかなのかしら?」

「ん?」

「だって、見て、あの中央のあたりが異世界住人の席でしょ? 20席くらいあるのに、傍にいるのはエロい恰好した女の子ばかり」

 サタニアが相当機嫌が悪かった。


 言われてみれば、露出の高い服を着た少女が多い気がしたが・・・。

 メイドの服を着た子もちらほらいた。


「どうなんだろうな? 異世界に来たがってるのが男ばかりとか? いや、ギャルゲーやエロゲじゃあるまいし」

「この世界はゲームなんかじゃないのに。なんだか腹が立つわ」


「サタニア、随分機嫌が悪いね」

 エヴァンがブドウを食べながら言う。


「あまりカリカリしてると、ヴィルに嫌われるよ」

「そ・・・そんなの気にしてないもん。私は私よ」


「サタニアとアイリス様だったら、俺はサタニアを推しておくよ。立ち回り下手すぎて、気の毒になってきた」


「・・・・馬鹿にして・・・」

 サタニアが急にしおらしくなって、椅子に深々と座り直していた。


 右手を握ったり離したりしながら感触を確かめていた。

 あの感覚は、もうどこにも残っていなかった。

 考えすぎだろうか・・・?


「あれ、ユウスケじゃない?」

「本当だ。異世界住人か、随分集まってきたな」

 異世界住人らしき人たちが、聖堂に入ってくる。

 一見すると、異世界から来た者に、こっちの人間と大きな違いはなかった。


 でも、発する魔力が違う。

 この世界にはない、何かを感じた。


「へぇ・・・剣士に魔導士? あとは装備品がないからよくわからないけど」

「姿は、ほとんど、こっちの住人と変わらないみたいね。アバターだからか、かなり美形に作られてる」


「サタニアってそうゆうのが好みなの?」

「いちいち私にあてはめないでくれない?」

 サタニアとエヴァンが前のめりになっていた。


 中央の席が次々埋まっていく。

 少女たちが頭を下げながら案内していた。


 クーリエがこちらを見つけると、すっと駆け寄ってきた。

「魔王ご一行様、そちらでは様子が見にくいかと思いますので、もう少し前のほうにお願いします」

「・・・あぁ・・・」

 言われるがまま、立ち上がった。

 

「なんでそんなに俺たちに構うんだよ」

「とても大事なお客様なので。アース族の方々にとって」

「お客様ねぇ」

 サタニアがじとーっととした視線をクーリエに向けていた。


「クーリエって十戒軍でしょ?」


「はい。アース族とパーティーを組む場合は、後方支援に回るつもりです。こちらにお願いします。貴方たちの存在を、アース族に知ってもらいたいので」

 クーリエが人をよけながら、前を歩く。



「アバターの調子はどう?」

「あぁ、かなりいいよ。食べ物の味もするし、おなかも膨れる。完全に転移してきたって感じだ」

「こっちの魚のパイ包みもとっても美味しいの。食べてみて」

「ありがとう」

 異世界住人とこっちの人間の交流会のようになっていた。

 明らかに、結婚式がメインじゃないな。


「ねぇ、ここにいる十戒軍って何してるの?」

「アース族のサポートですね。そのように、テラ様から言われてるので」

「テラねぇ」


「私は光栄ですよ。もともと捨てられた身、十戒軍に拾われなかったら今の私はないのですから」

「ふうん」

 エヴァンが興味なさそうに足を伸ばしていた。


「なぁ、クーリエ、異世界転移とやらは上手くいってるの?」

「はい、もちろんです。異世界住人の方々も皆様、五感すべての感覚は確認済み。転移は順調だと、テラ様から聞いております」

「確認・・・って?」

 サタニアが顔を真っ赤にして頬を仰いだ。


「確認は確認です。どんなふうにしたのかは、ご想像にお任せしますけど」

 クーリエは何でもないそぶりをしている。

 サタニアがからかわれているようにしか見えなかった。



「こちらが皆様の席です」

 2列目に案内される。


「ピュイア様、聖女アイリス、アース族の方々もよく見えることでしょう」

「こんな前のほうの席で・・・何かいかがわしいことが起こったらどうしよう」

「いかがわしいって。一応結婚式なんだから、ありえないだろ」

「い、異世界住人なら、何を起こすかわからないわ。あいつら、みんなゲーム感覚で入ってきてるんだから。いつでもリセットできると思ってるんでしょ」

 サタニアが頬を手で覆ったまま、異世界住人を監視してる。


「でも、私は、ヴィルがいるから大丈夫。平常心よ」

「俺だってリョクがいるからね」

「お前ら・・・・」

 サタニアとエヴァンが、異世界住人の空気にやられている。


「おーい!!」

 ユウスケがクーリエに手を振っていた。


「クーリエ、俺の近くにおいでよ。一緒に行動するだろ?」

「はい、ご主人様」

 クーリエがユウスケのほうへ駆け寄っていった。



「ねぇ、クーリエって、誰かに操られてるんだと思う?」


「絶対自発的よ。あんなの」

「君の主観は聞いてないって」

 サタニアが顔を覆って、プルプル首を振っていた。


「こ、こんなところではおやめください。駄目ですよ」

 異世界住人の一人が、少女のスカートをめくろうとしていた。


「いいじゃん。さっき時間がなかったから、まだ感覚が確かじゃないんだよ」

「それは・・・そうなのですけど。ここでは恥ずかしいので」

「じゃあ、こうやって、少し場所を移動しよう。まだ、時間があるんだろう?」

「あっ・・・で、では、少しだけですよ」

 少女を抱きかかえて、端のほうに行くのが見えた。

 十戒軍のローブを羽織った少女が、異世界住人の相手をしていた。



「やりたい放題だね。無法地帯って感じだ。これだから、向こうの人間が来るのは嫌なんだよ」

「欲望のままって感じだな」

「魔族よりもね」

 異世界住人は男しかいないようだ。

 必ず、顔立ちの整った少女が2,3人ついて回っている。


 俺の想像している十戒軍とは、だいぶかけ離れてるな。

 戦闘要員は別にいるのか?


「あっちでもいちゃいちゃしてる・・・この世界をエロゲだと思ってない?」

「欲望のはけ口みたいなもんなんだろうね」


「最悪。こっちの人間なんて、あいつらにとってはゲームの登場人物くらいにしか思えないのよ。一応結婚式なのに、何やってるのかしら」

「肝心の結婚式は、いつ始まるんだろう。もう、なくてよくない?」

 エヴァンが呆れたように言う。


「・・・・・・・・・」

 異世界住人のいる空気は、違和感があった。

 微妙なズレのようなものを感じる。




「アリエル王国はこれから皆さんと作り上げるんです。頑張りましょうね。この料理はアリエル王国の野菜を使用していて・・・」

 少女たちが、異世界住人に一生懸命、この世界のことを説明していた。

 真剣に聞いている者もいれば、きょろきょろしている者もいる。


 アイリスの姿は・・・まだ見当たらないな。

 異世界住人は集まってきているのに。


「はぁ・・・。人間もあんなのばかりだし・・・俺も魔族がいいような気がする。ヴィル、俺も魔族に入れてくれない?」

「好きにしろよ。今更」

「え、マジで? 俺、魔族でいいの?」

 エヴァンが一瞬驚いたような顔をした。


「認めるよ。魔王が認めるならいいんじゃないか?」

「はは、そうだね。了解ー。俺もこれで堂々とリョクちゃんに魔族だって言えるよ」

 軽い感じで言いながら、背もたれに寄りかかっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ