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122 アリエル城⑥

「彼らはまだ試作段階でしたね。異世界住人が言っていた通り、アバター・・・? 体を変えて、それぞれの体で、この世界に来るようになるでしょう」

 聖堂から少し離れた、丘の上まで来ると、アエルが翼を解いた。

 城下町の見下ろせる場所だった。 


 リョクが少し離れたところで薬草を摘んでいた。

 流行り病を治癒するのに必要な、花を見つけたらしい。


「ここまで話が進んでいるとは、正直、想定外でしたね」

「アバターか・・・この世界に入れるアバター・・・」

 エヴァンが口に手をあてながら話す。


「この世界はゲームの世界なの?」

「まさか」

「だって・・・」

 サタニアが口をもごもごさせた。


「うーん、それは半分あってて、半分あっていないといった感じでしょうか」

 アエルがタンポポの綿毛を吹きながら言う。


「もともとあったこの世界に、誰かが穴を開ける方法を見つけて、入ってきたというのが正しいでしょう。この世界にはいくつか異世界と通じる入り口があるのは知ってるでしょう?」

「・・・あぁ」

「どうやら、そこに目を付けたらしいです」


 ダンジョンの精霊のことか・・・。


「テラには力を持つ協力者がいるはずです」

「協力者? 十戒軍じゃなくて?」


「ははは、十戒軍は小物ですよ。もっと大きな力のある者。魔女のような何かが・・・ね」

「・・・・?」

 アエルが顔をしかめていた。


「そういや、十戒って異世界にもある言葉だよね」

 エヴァンが声を低くする。


「確か、十戒は旧約聖書の言葉だ。神から授かった、神の意志と呼ばれる戒律のことだ」

「エヴァン、よく知ってるわね」

「常識だろ」

 サタニアがちょっとむっとしていた。


「十戒って言葉に深い意味はないですよ。十戒軍の創設者はテラじゃないですし、まぁ、人間じゃないというか・・・・。とにかく今は、十戒軍の残党をテラが上手く利用しているだけです」

 雲が途切れて、草むらが明るくなっていく。


「・・・・・何者なんだ? テラは」

「異世界ではごくごく普通の人間。神を名乗る人間ですね」


「何よ、それ」

「痛いな。中二病かよ」

 エヴァンが掃き捨てるように言う。


「はははは、中二病、面白い言葉ですね。メモしておきましょう。あぁ! 脱線しました。テラが長らくアリエル王国で職業選択の神をやっていたのは知っているでしょう?」

「あぁ・・・」

「ある日、突然、職業選択の神になったんですよ。初めはそんなものありませんでした」


「・・・・・・・・」

 俺は人間だった頃、確かに何度も転職を繰り返すたびに、テラの元へ通っていた。


 記憶が霞んでいたが、職業決める神殿というところに、テラがいた。

 当たり前のように、俺もテラを神様だと思い、テラ様と呼んでいた。


「あれはね、テラの実験ですよ」

「どうゆうことだ?」

「では、逆に質問です。ヴィルは何のために、テラになりたい職業を伝えに行きましたか?」

 アエルが緑の瞳でこちらを覗き込む。


 何のため? 何のために行ったんだ?


「ヴィル・・・・・?」

「・・・・」

「転職により、剣士から魔法使いに、魔法使いから賢者に、どんどん職業を変えることができる。力を与えられたと思っているかもしれない。でも、本当は何もされてないんですよ。テラはただの異世界の人間としてあそこにいて、ギルドの人間からなりたい職業を聞き、この世界のデータを蓄積していただけなのです」


「!?」


「別に転職する際に、テラに言いに行く必要なんてなかったんですよ。ただ、ギルドで新たな職業を言えばいいだけの話だったのです」

 ぞくっとした。


「テラはただそこにいただけです。神と刷り込むために」

「・・・・・」

 考え直せば、妙なことばかりだったが。

 あのときは、テラに言えば、職業を変えられると信じていた。


 ギルドの人間も同じだ。


「ねぇ、異世界はどうなってるの? あの、気持ち悪い人間たちは何?」

「そうですよね。サタニアは異世界が気になりますよね」

 サタニアのほうを見ると、アエルがにやりとしていた。


「前も言った通り、異世界は転換期後の世界。仮想空間・・・肉体があるところとは別に世界を持つのがブームでして・・・ゲームっていうんですかね? 皆さん、現実世界が嫌なんですよ」

「・・・・・・」


「だから、異世界転移機能を利用して、向こうで肉体を持ったまま、こっちの世界に来ようとしているのです。向こうの人間からすると、VRゲームに入る感覚でしょうか」

 アエルが遠くを見つめながら言う。


「アエルは随分異世界に詳しいな。堕天使だろ?」

「テラが王国でこそこそやっているから、それとなく入ってくるんですよ。こうゆう情報が」

「へぇ・・・」

 草原がさぁっと波打つ。


「・・・・・」

「エヴァン、さっきから黙っているがどうした?」

「あぁ・・・うん・・・・」

 エヴァンが座ったまま、手を組んでいた。


「・・・・あいつらは、人間が一掃された街に来て、異世界住人同士でパーティーを組んで何が楽しいんだ?」

「くくくく、そうですよね」

 アエルが岩の上にひょいと座った。


「おそらく彼らは、動物的に逃げ場を求めているだけなんだと思います。異世界で満たせない欲望をこちらで満たそうと、人間たちが転移してくるのです」

 エヴァンとサタニアのほうを見る。


「異世界・・・あなたたちが元居た世界では、魔法使いや魔族のあふれるこの世界が、とても理想的に描かれているのでしょう? ヒーローになったり、周りからちやほやされたり、特殊な能力を持ったり。みんなそうゆうものを思い描いて来るはずです」

「・・・・・」


「先行として集められた異世界住人を見たでしょう。美少女が尽くしてくれる・・・なんて、異世界住人が好きそうなシチュエーションでしょ? ねぇ、サタニア」

「わ、私はそんなの知らないわ。み、見たことないし・・・興味も、なかったし」

 サタニアそっぽ向いて、腕を組んでいた。


 アエルが近づく。


「本当に?」

「うっ、うるさいわね。アエルには関係ないでしょ!」

 サタニアが首まで火照らせていた。


「アエル、アイリスはどうなる?」


「彼女は特別です。あまり深刻になる必要はありませんよ」

「特別?」

「いずれわかるでしょう。助けに行くならご自由に」

 サタニアがつまらなそうな顔をして聞いていた。


「どうします? 魔王ヴィル。私はどちらでもいいですよ。これから魔王城に戻りますか? アイリスを・・・」


「アイリスを連れ出す」

「えー」

 サタニアが頬を膨らませる


「ふふふ、私もそれがいいと思っていました。アイリスは無理をし過ぎますから」

 納得がいかなかった。

 王女だろうが、聖女だろうが関係ない。


「もう・・・本当に、アイリスばっかなんだから」

「テラはアイリスに異世界住人を案内させようとしているようですから、案内役を引き抜くのはいい考えかと思います。アイリスが納得するかはわかりませんけどね」

 アエルがため息交じりに言う。


「・・・・・・」

 エヴァンは口数少なくなっていた。

 リョクが少し離れた場所から、心配そうにエヴァンのほうを見つめている。

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