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112 休息からの・・・

「随分遅かったわね」

 部屋に戻ると、サタニアが体を起こしていた。

 窓から、朝日が差し込んでいる。


「久々に、落ち着いて本が読めたからな」

「ふうん、本当はシエルといたんじゃないの? 私とはしてくれないくせに」

「する度胸もないだろ」

「じゅ・・・順序がなきゃ・・・そうゆうのができないだけなんだから。私だってヴィルと・・・・」

 もごもご文句を言いながら、服を直していた。

 マントを羽織る。


「アリエル王国へは転移魔法を使えるのか?」

「えぇ、転移できる場所は城下町から100メートルくらい離れたひとけのない場所、あとは魔方陣を張ってない。魔族とバレることはないようにね。目的はアイリスの救出でしょ?」

「あぁ」

 落ちこぼれのヴィルと言われるのは腹が立つが、まぁ仕方ない。


「何かすごく嫌な予感がするの。早く行きましょう」


「・・・・・?」

 サタニアがサファイアのネックレスを握り締めながら深刻な顔をしていた。 



 リョクの部屋をノックする。

「時間だ、行くぞ」

「2人とも起きてる?」

「・・・・・・・・」

 サタニアと顔を合わせる。全然、応答がない。


「おかしいな。リョクが起きていないなんて珍しい。いつもなら、回復薬を摘みに行っている時間帯だ。朝とるのが一番新鮮だと・・・」

「無理やり開けるわ。アイリスのことがあったから、躊躇しない」

「あぁ、そうだな」

 ドアを蹴破って吹き飛ばす。


「ふわぁ・・・ま、魔王ヴィル様、サタニア様」

 リョクが、エヴァン(ドラゴン)が同じベットで寝ていた。

 リョクはぶかぶかのパジャマを着ている。


「はぁ!?」

「なっ」

 動揺のあまり、サタニアの呼吸が止まっていた。


「リョク、早く着替えをしなさい。エヴァンも起きてるんでしょ?」

「すみません。すぐに準備します」

 エヴァンがむくっと起きて、こちらに歩いてきた。




 ぽん、と人間の姿になって、ドアを閉める。


「何やってるの? いつもあんな状態で寝てるの?」

「言っておくけど、何もしてないからな」

「当然よ。リョクはまだ子供なんだからね」

「俺だって、見た目は子供だ」


 サタニアが頬に手を当てる。


「そ・・・そんな、リョクは私よりもずっと年下なのに」

「誤解だって言ってるだろ。リョクが夜、寝ているはずなのになぜか泣くときがあるんだ。静かに涙を流す、理由はわからない。だから、ドラゴンになって・・・」

「密着して寝てるってこと?」


「言っておくけど人の体のときはやってないからな」

「それ以上って、何? 犯罪よ」

「ここは異世界だ。犯罪ではない!」

 サタニアが視線を背けた。

 エヴァンもむきになっている。


「そんなに羨ましかったら、サタニアだってヴィルと好きなようにすればいいだろ?」

「そうゆう問題じゃないわ」


「落ち着けって。大した話してるわけじゃないんだから殺気立つなよ。魔族が驚くだろうが」

 2人とも魔力を高めていた。

 配膳していた下位魔族がびくっとするほどだ。


 こんなくだらないことで・・・・。

 まぁ、2人にとっては重要なんだろうけどな。 


「すみません。僕も着替えてまいりました」

 リョクが元気よくドアから出てきた。


「・・・・・・」

「あれ? みなさん、どうしたんですか?」

「い・・・・一応確認だけど、エヴァンはリョクに何もしてないわよね?」

「サタニアっ」


「何か? んー、何か・・・僕たち一緒だとよく眠れてるよな」

「・・・・・・」

「エヴァンと話してると落ち着くんだ」


 エヴァンが無言でフードを深々と被りなおしていた。


「どうしたんですか?」

「な、何でもないわ。早く行くわよ」

 サタニアが、ズンズン前を歩いていった。





「転移魔法か。楽っちゃ楽だよな。俺はリョクを乗せて飛んでもいいんだけど」

「エヴァン、いつかリョクの前でボロ出すぞ」

「そこは徹底してるから、任せて」

 小声で話していた。


「リョク、人間に変化して。人間としてアリエル王国に潜入するから」

「はい。承知しました」


「エヴァン、お前が一番危ないんだからな。気を付けろよ」

「はいはい」

 エヴァンがフードを深く被った。

 サタニアが手を翳して、転移魔法の魔法陣を展開させる。



 シュンッ


 3回瞬きをすると、アリエル王国の城下町が見える場所に立っていた。


「わ・・・サタニア様、さすがです」

「ありがと」

 サタニアが得意げになった。

 リョクが物珍しそうに、城のほうを眺めている。


 アリエル王国に来たのは、初めてだったか。



「おかしい・・・・」

 突然、エヴァンが顔色を変えて、城下町の入口に向かって飛んでいった。


「え・・・?」

「サタニアはリョクと一緒にいてくれ」

「ちょっと待っ・・・」

 地面を蹴って、エヴァンを追いかけていく。


 城下町まで来ると、ざっと砂埃を上げて、立ち止まった。

 エヴァンが呆然と立ち尽くしている。


「急にどうしたんだよ。バレるとまずいんだから、フードで顔を隠せって」

「待て」

 フードを引っ張ると、エヴァンが手を止めた。


「ヴィル、見ろ。この城下町、誰も人がいない・・・」

「え・・・・・」

「人の気配が・・・ない・・・」

 背筋が凍りつくようだった。


 顔を上げると、無人になった城下町が広がっていた。


「嘘だろ・・・・」

 ギルド、食料店、武器屋、薬局・・・全て建物はあり、物も並べられていたが、道行く人すらいない。

 腐るほど見たアリエル王国城下町は、人間だけが忽然と消えていた。 

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