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104 サタニアの恐怖

 ルークは俺に警戒する様子は無く、あっさりと城の中にある部屋まで通すと言った。

 人間か魔族か気にする素振りもない。


「サタニアは魔王だけどね、なかなか周囲と馴染めそうにないからさ。君と楽しそうに酒を飲んでる姿を見たときは驚いたよ」

「・・・・」


 楽しそうに・・・あれがか?


「ルーク、私たちを部屋に呼んでどうするつもり?」

「別に怪しいことはない。君が友達を連れてくるなんて初めてじゃないか。今夜泊まる場所も無いんだろう?」

「・・・私たちは、ダンジョンに行きたいの」

 少し弱ったような声で言う。


「なるほど、ダンジョンね。あーダンジョン、そうだなー今は駄目、かな。明日になればいいよ。『偶像の禁止』が集まってるからね」

「・・・・・・」

「怯えないでよ。君の兄みたいなものじゃないか、血は繋がっていないとはいえ、可愛い妹に悪いことはしない」


「妹?」

「サタニアはまだ14歳だ。兄みたいな存在が必要だろう?」

「・・・・・・・・」

 近づいてきた浮浪者のような女性に、粉を包んだ紙を渡していた。


 受け取った粉をその場で吸っている。

 周囲の人間がハッピーだとか、気味の悪い言葉をかけていた。


「あ、これね、幸福の魔法がかかる粉」

「・・・・どうしてその粉を渡している?」

「ここは神と繋がるための国にならなければいけない。全国民の浄化の粉が必要なだけさ」

「浄化ねぇ・・・」


 サタニアのほうを見ても何も反応が無い。

 ミハイル王国の城下町を抜けて、城の中へ入っていく。


 城の警備は薄かった。

 ミハイル王国の王は世界一安全な国として、常に城門を開けて、中に人が入れるように指示しているのだと言っていた。

 ハッピーになった人間は城に何かすることが無いと、城の扉の前で粉を振りかけられた。


「ん? 粉を振りかけてハッピーにならないってことは、君は魔族なのかな?」

「そうだ」

 粉を払う。


「へぇ、サタニアが魔族を連れてくれる日が来るとはね。魔族が弱体化してるから、人間側に寄っているのかと思ったよ」

「早く案内して、ここは人間臭いわ」

「はいはい。魔王サタニア」

 サタニアが俺の服の裾を抓んで離した。

 嫌悪感を押さえるような表情を浮かべていた。




「この部屋は俺に与えられた部屋なんだけどね、今は客間として使ってる。サタニアも来たことあるよね?」

「・・・・・・・・」

「機嫌が悪いなー。ダンジョンへは明日連れて行ってあげよう。君たちからは血の匂いがするし、取り付けられた風呂でゆっくり洗い流してくれ」

 目を細くしてにやりと笑った。


 こいつ、気づいていたのか。


「魔族の王が人間に殺意を抱くのは当然のこと。ただ、神聖な場所に行く前には、ちゃんと体を洗い流してくれよ」

 急に高笑いしだすと、部屋から出ていった。

 終始気持ちの悪い奴だな。


 サタニアはルークが出て行った後も、落ち着かない様子だった。

 部屋をうろうろしている。


「サタニア、あの男が怖いのか?」

「怖いわけ・・・ないじゃない」

 言い淀みながら視線を逸らす。わかりやすい奴だな。


「お前が殺せないなら、俺が殺してやるか?」


「いい。奴がいないと、十戒軍の情報源が途絶えてしまうから」

「・・・・・・」

 あの男と会ってからサタニアの様子がおかしかった。

 何かに責められているような表情をしている。



 窓からミハイル王国の城下町を見下ろした。

 人間たちが魂の抜け落ちたような笑顔で、武器も持たずに、楽しそうに踊ったりしている。


 神と繋がる国というのはどうゆうことなのだろう。

 まぁ、ダンジョンに行ってみればわかることか。


 エヴァンとリョクを置いてここまで来てしまったけど、あいつらならどうにかなるだろう。

 後でエヴァンに文句を言われそうだな。まぁ、リョクといるなら問題ないか。


「はぁ・・・すっかり酔いが冷めちゃったわ」

「酒飲んでいい年齢じゃないだろうが」

「魔族にはそうゆうのないわよ」

 日が暮れると、サタニアが元に戻ってきた。


 ベッドに寝転がって、ごろごろしている。


「ねぇ、ヴィル、一緒にお風呂入ろっか?」

「いいって。お前は後で入れ」

 文句を言うサタニアを無視してバスルームに入る。

 水源が豊かなだけあって、泉のように湯が溢れ出していた。



 泡風呂なのか。ギルドにいたとき、王族が愛用しているとか聞いたことあったな。

 本当かどうかは知らないが。


「ヴィルー」

 

 バッシャーン


「うわっ、何入って来てるんだよ」

「いいじゃない、魔王城にいたころは、魔族たちと入ってたんでしょ?」

「・・・・・・・」


「泡のお風呂は裸が見えないし・・・」

「やっぱ、見られたくないんだろうが」

「まだ、ちょっと早いだけよ」

 サタニアが髪をお団子に結って、泡をふっと吹いた。


「リョクも女魔族よ? 本当は欲に忠実ならはず」

「お前の妄想にリョクも混ぜるな」

「冗談だってば。私はヴィルにしか興味がないから」


「・・・趣味悪いな」


「そう?」

 サタニアが笑いながら、泡を手ですくっていた。


「お前はなぜ、そんなにルークに怯える。お前が魔女のウィッチソードを抜けばすぐに殺せるだろ?」

「・・・・ルークは私にとって兄といえば、兄みたいな存在なのよ。私は十戒軍に魔王として召喚されてから、ルークに色々聞いてる」

「慕ってるのか?」


「・・・そうゆうわけじゃない。でも兄のような存在には逆らえないというか、なぜか変なのよ。何をされたわけでもない。でも、どうしても反抗できない」

「・・・・・・」

 長いまつげを、下に向ける。


「時折、ルークに上手く利用されてるんじゃないかって思う。いえ、きっと、私はあいつらの計画の中に入り込んでしまってる。でも、抜け出せないの。明日、ダンジョンに行けばわかるわ」

「へぇ、魔王なのにな」


「フン、なんとでも言って、私は気にしないから・・・」


 バッシャーン


「ん? どうした?」

「・・・ちょっと、のぼせただけ・・・・」

 すぐにローブを羽織って、バスルームから出ていった。


「・・・・・・」

 同じ魔王なのにな。



「この部屋には本がないのか。本がないと手持無沙汰だな」

「ないわ。ルークが本はおかない主義だから」


「で? サタニア、さっきからどうしたんだよ」

「・・・・・」

 ネグリジェのような薄いワンピースを着たサタニアが、部屋の隅っこでうずくまっていた。


「変だと思った? 急に入ってきて、急に恥ずかしくなるなんて」

「まぁな。魔族らしくはないと思ったよ」


「・・・・別にいいもの。私は魔王だから」

 サタニアは口調のわりに幼いよな。


「ザガンはすぐ胸を揉むだろ? やられてないのか?」

「私はやられたことないわ! 魔王にそんなことするわけないでしょ」

「そりゃそうか」

 サタニアが頬を膨らませる。


「馬鹿だって思うでしょ。魔王なのにこんなことも怖がってって」

 椅子に膝を抱えて座りながらぶつぶつ言う。


「思わないって。そこまで離れてると話しにくいからこっちに来い」

「・・・・・・」

「何もしないって」

 サタニアがしぶしぶ近づいて、ソファーの横にすとんと座った。

 まだ少し濡れた髪をタオルで拭いている。


「ヴィル、記憶を見せて?」

「堂々と言うなよ」

「ダメ?」

「ダメだ」


「ケチ・・・」

 サタニアが窓に映る自分の姿を見ていた。


「ヴィルにも大切な記憶があることは知ってる。そこだけは、見てないから安心して」

「・・・!?」

「私は気遣いのできる女なのよ」


 窓ガラスに手を当てながら言う。


「お前な・・・」

「ヴィル・・・私、ヴィルの言う通りルークが怖いの。時折、何をされるんだろうって・・・でも、裏切れない。絶対的な存在なの。ヴィルは大切で・・・十戒軍がよくないのはわかってるのに」

「サタニア?」


「何もできない。私は・・・・自分がわからないの」

 アメジストのような瞳が、明かりのせいか少しだけ潤んでいるように見えた。


「ねぇ・・・ヴィルの大切な者は誰? 絶対的な存在はいるの?」

「さぁな」

「アイリスはダメよ」

「嫌いなのか?」


「・・・さぁ、どうかしら?」

 サタニアの意地悪い笑みを浮かべて、目を拭っていた。

 月が傾いていく。

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