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96 歪の4人

「魔王ヴィル様?」

「起きたか」

 アイリスが目を擦りながら話しかけてくる。

 前髪の寝癖がぴんと跳ねていた。


「おはよう。あれ? 魔王ヴィル様、寝てないの?」

「まぁ・・・少し寝たよ」

 水で喉を潤す。


「なんか夢を見てた気がする」

「どんな?」

「魔王ヴィル様が女魔族とイチャイチャしてる夢」


「・・・夢は夢だ」

 咽そうになった。

 アイリスが首をかしげて、唸っていた。


「うん、夢は人間が浅い眠りのときに見るもの。熟睡できなかったのかな? すごく、深い夢だった気がするのに。魔王ヴィル様は夢を見る?」

「夢か。見ていても覚えてないな」


「私ね、夢を見るのが好きなの。夢にはこれから起こることへの、ヒントが含まれてるから」

「へぇ・・・」

 アイリスの能力の一つなんだろうか。


 焚火の炎で城下町から取ってきた簡易食材を煮ていた。

 肉を乾燥させたものと米、薬草類だ。 

 正直、まずいことがわかっているから、食欲がそそられない。


 早く魔王城で、マキアが作るご飯が食べたい。


「水、汲んでくるよ。アイリスはここで待ってろ」

「あ、私が行ってくるよ。食事の前に、手を洗ってきたかったの。土がついちゃったから」


「!!」

 風の流れが変わる。


 上か。


 - 魔王のデスソード - 


 キィンッ


「っ・・・・」

 アメジストのような瞳を持つサタニアが、剣を振って降りてきた。

 魔王のデスソードで弾く。


「サタニア・・・」

「ふふ、会いたかったわ。また、アイリスと一緒なのね」


「え?」

 サタニアが剣を持ち直して、アイリスを睨みつける。


「サタニア・・・話がしたい。上がれるか?」

「もちろん」

「魔王ヴィル様!」


「じゃあね、アイリス」

 サタニアが目を細めて手を振る。


「え・・・どうして、私の名前を?」

「アイリス、結界の中で待ってろ。出るなよ」

 アイリスの返事を聞く前に、地面を蹴った。飛び上がる。

 周辺で一番高い木の上で、足を降ろした。




「はぁ・・・やっとヴィルを見つけたわ」

 サタニアが髪を後ろにやって、微笑んだ。


「サタニアは過去を覚えてるのか?」

 サタニアが首を傾げながら、唇を手に当てる。


「それより、楽しかった? 久しぶりの人間は」

「俺の質問に答えろ。殺すぞ」


「脅さないでよ。ちょっと聞いてみたかっただけなのに」

 つまらなそうに、一つ上の枝に腰を掛けていた。


「ヴィルはアリエル王国のほうにいると思って。私だって探したんだから」

「アイリスを狙って剣を振ったのはなぜだ?」


「ただ、興味があるから近づいてみただけ」

「興味って・・・」

「殺意がないのはわかったでしょ? アイリスがアレを発動させたせいで、時間軸を書き替えられたんだから。どんな力を持ってるのか確認したかっただけ。でも、反応は遅かった・・・アイリスは何者なのかしら・・・」

 手を後ろにやって屈む。


「記憶があるんだな?」

「もちろん・・・私はね」

 紫の長い髪がさらさらと揺れる。


「他は何もかも変わった。いきなりこんなことになるなんて」

「どうなって、魔王になったんだ?」


「”名無し”がオーバーライド(上書き)したのは覚えてる。瞬きすると、ダンジョンにいたはずなのにいきなり魔王の椅子に座ってた。上位魔族は優秀なのに、なぜか魔族のダンジョンは一つしかないような状態になってて・・・」


「魔族としては危機的状況らしいな」

「そう。でも、ヴィルのことは、みんな覚えていない。私が魔王であることに違和感はないの。魔族は弱体化していっても、私に信頼を置いている」


 魔王のデスソードを解いた。


「でも・・・自分でもわかったわ。私は、ヴィルの言う通り魔王じゃないのね。何か嵌められているようで癪よ」

 奥歯を噛んで悔しそうにする。


「こんなに魔族が弱くなるなんて」

「だろうな。これからどうするか? 元の時間軸には戻れない、俺と魔王の椅子を掛けて戦・・・」

「んーじゃあ、とりあえず、キスしましょ」


「は? 全然関係ねぇだろ。ちょっ・・・」

「・・・・ん?」

 小さな唇で舌を突っ込んできた。


 甘い木の実の味がする。

 脳がとろんとなっていって・・・こいつの能力を自力で解毒して・・・。


「止めろって」

「あっ・・・えぇ!? もうシエルとしたの?」

 サタニアを突き放す。


「!!!!」

 サタニアがあどけなさの残る頬を火照らせていた。


「しかも、こんな・・・・・わ・・・」

「だから、勝手に覗くなって言っただろ。人の記憶を」

「わ、私だって、いろいろと知識があるんだから。馬鹿にしないで」

 ツンとして、口を尖らせる。


「知識って・・・」

「経験はない・・・けど、こうゆうのは知識が大事でしょ? 知識で勝負よ」

「言ってることめちゃくちゃだぞ」

 サタニアの動揺が伝わってきた。



 バサーッ


 ドラゴンが下りてきて、木々がゆさゆさと揺れていた。

 サタニアがはっとして、体勢を整える。


「魔王ヴィル様!」

 リョクがドラゴンの首からひょこっと顔を出して、手を振っていた。


「サタニア、あのドラゴンは? エヴァンか?」

「そう。王国騎士団長しているけど、目覚めたらドラゴン化して魔王城にいた・・・とかよくわからないの状態なのよね。リョクも一緒よ」

「なかなか、強引だな」 


 変わったのは、俺が魔王ではなくなり、サタニアが魔王になったということだけのようだ。

 アイリスの望んだこと・・・なのか?


 ザザー


 エヴァン(ドラゴン)がゆっくり着地する。


「ありがとな、エヴァン」


「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

 サタニアと目が合う。


「さすがに、その状態じゃ話しにくいな」

「同感ね」


「え? どうしましたか?」

「・・・・・・」

 ドラゴンになりきってるエヴァンを見つめる。

 リョクが首をかしげていた。


「リョク、この辺は薬草があるの。あまり遠くに行かないように、摘んできてくれない? 魔王城にはないものもあるから」

「そうなのですね。かしこまりました。サタニア様」

 リョクがエヴァン(ドラゴン)を撫でてから、ふわっと降りていく。 


 ザッ


 エヴァンがドラゴン化を解いて、人間の体に戻る。

 目つきの悪い顔で、睨んできた。


「ヴィル、アイリス様はどうしたんだ? 王国は混乱してるぞ」

「お前がそれを言うか?」

「そうよ。そんな混乱の中、王国騎士団長がうろうろしていいの?」


「俺はリョクちゃんといることのほうが重要だ」

「リョクって・・・本当、そればっか」

 サタニアが呆れたようなため息をついていた。


「ヴィルたちはここで何してたの?」

「魔王城に向かう途中だ」

「なるほど。サタニアが魔王とか、ありえない状況だもんね」


「ありえないは余計よ」

 サタニアがエヴァンを睨みつける。


「もうっ、せっかくヴィルといちゃいちゃしてたのに。エヴァンが邪魔しにこなければもっと話せたんだから」

「あ、そ」

 サタニアが少し不満そうに、顔をしかめていた。


「あのとき十戒軍はアイリス様だけを狙っていた。俺とリョクちゃんは無視だ。というより、気が回ってなかったんだろうな」

「・・・・・・・・・・」

 エヴァンが腕を組んで話す。


「あそこでアイリス様を助けられれば・・・な。十戒軍が武器を出すと、急にリョクが息苦しくなって、呼吸が止まる寸前までいった。オーバーライド(上書き)で、魔王城に戻ったら治ったって。なんだったんだろうな・・・」

 エヴァンが落ちかけている木の葉に触れる。

 リョクは、十戒軍の持つガラスのような水晶にも反応していたな。


 なぜ、リョクが・・・?


「前回の時間軸の記憶があるのは、ヴィルとエヴァン、私の4人で間違いないのね?」

「そうらしい」


「・・・・・・・」

 エヴァンが口に手を当てて、何か考え事をしていた。


「サタニア、お前は十戒軍に召喚された魔王なんだろう?」

「そうよ。魔族の王になるようにって、この世界に来た」

 水面の上を歩きながら話す。


「サタニアは最後に俺たちのいたダンジョンに戻って、十戒軍の様子を見てきてくれ。この時間軸での、あいつらの動きが見えない」


「な・・・私が魔王なのに指図されなきゃいけないの?」


「サタニアが魔王だからダンジョンが1つしか残らない事態になってるんでしょ?」

「うっ・・・それを言われちゃうと、何も言えない」

 エヴァンが意地悪く言う。

 サタニアが口をもにょもにょさせてから、目を逸らした。


「わかったわ。その間、ヴィルたちはどこに行ってるの?」

「俺たちはこの辺りの、人間に奪われたダンジョンに寄っていこう。今のダンジョンの状態が知りたい。ここから北東にいき一番近いダンジョンで待ってる。エヴァン、お前も来いよ」


「あぁ・・・了解だ」

「?」


「・・・・・・」

 何か違うことを考えているのか、エヴァンがやけに素直だな。


「私が来るまで、ちゃんと、ダンジョンにいるのよ」

「あぁ、サタニアも気を付けろよ」

「もちろん、これでも魔王の力を持っているんだからね。安心して」

 ふっと不敵な笑みを浮かべて、飛び上がっていった。





「魔王ヴィル様!!!」

 エヴァンたちと解散して、結界の中に入るとすぐにアイリスが駆け寄ってきた。


「何かあったのか?」

「魔王ヴィル様と離れたくない、離れると私が私じゃないような・・・感覚になる」

「ん・・・・・・?」

 

 少し震えている気がした。


「落ち着けって。アイリスはアイリスだろ?」

「そうだけど・・・私が私じゃない。私は何者・・・?」

 真剣な目でこちらを見上げる。


「急に、どうした? 何かあったのか?」

「ううん・・・・・でも、自分の中にある異常が・・・わからなくて。私を形作るものは・・・何が私を形作るの?」

 ぼうっとしながら呟く。


「・・・・・・・・・・」

 アイリスの様子が明らかにおかしい。


 何かがずれてきている。

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