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ドラゴンダンス  作者: 梅の種
3/4

竜神とドラゴン

 アルトリウスとの戦闘から一日が立ち、私たちはアルトの町を出てセレーネの麓にあるアレンの家に戻っていた。

 とりあえず私は、師匠が遺した剣をアルトの町で手に入れたこと、おっさんの実力についてアレンに話した。

「へえ、おっさんがね」

 アレン自身もおっさんの実力を実際に見たことはなかったらしく、とても興味深そうに話を聞いていた。

「そうだ、昨日はアルトリウスと戦うつもりじゃなかったのよね?」

「え、ああ、そうだな。本当だったら城に忍び込んでアルトリウスがどういうやつなのか、ソフィーに見てもらいたかったんだ。戦闘なんてするつもりはなかったな」

 軽く言っているが、忍び込むっていうのもなかなか難しかったような気がする。

「それが、まさか向こうから仕掛けてくるなんてな。あれは、俺たちが王都に来るってことを知っていたような動きだった」

 おどけてみせているが、アレンは少し悔しそうだった。

「私も、冷静さがなかったわ。あそこは、逃げるのが先だった」

 あれほど復讐に捕らわれないように心がけていたのに……。まだまだ自分が未熟だということを思い知らされた。

「……アレン、竜人ってみんなアルトリウスみたいな強敵ばかりなの?」

「いや、アルトリウス以外の竜人は、普通の人間と同じくらいの力しかない」

 どうやら、竜人は世代を重ねるごとに力が弱まっていったらしい。それこそ、この王都ができる前から竜人は存在していたのだから、普通の人間と交わって竜人の血が薄れていったのだろう。明確に竜人の末裔だといえるのは、ヘリオス王家くらいだという。

「……だけど、竜人の中にはある特殊な力を持って生まれることがある。ドラゴンの力と呼ばれるもので、身体能力増幅や地・水・火・風の四元素を扱えるという点は精霊の力と似ているが、根本的に違うところがある。それは、俺たち精霊の力を受け継いだ者と違って、産まれたときからその力を持っているという点だ」

 なるほど、能力には身体との相性があるみたいね。私たち人間は、精霊とかドラゴンみたいに特別な力なんて最初から持っていたわけじゃない。当然、順応するにも時間はかかるし、拒絶反応だって起こるかもしれない。私自身、発動させるのがやっとでコントロールなんてできない。

「それじゃあ、なんで精霊たちはドラゴンに負けたの?」

 本来の力の持ち主である精霊が、なんでドラゴンに負けたのか。アレンは精霊の力を使ってドラゴンを全滅させたのだから、ドラゴンより精霊の方が強いっていうのは確実だ。

「……あまり、当時のことを思い出したくはないんだけど、話さなくちゃいけないよな」

 しまった。アレンも、ドラゴンに故郷を焼かれた過去を持ってるということが抜けていた。

「理由はわからないけど、精霊の里がドラゴンに襲われる十年くらい前から、精霊は自身の能力を使うことができなくなったらしい。これは、精霊たちも原因はわからなかったらしい」

「それじゃあ、私、どういう能力が使えるかわからないってこと?」

 時間に干渉する能力はわかる。本来の力の持ち主である精霊が優秀であればあるほど、受け継がれる能力が多くなる、らしいから、私にいくつの能力があるかはわからない。

「……俺も、受け継いだのは十年前だからな、その間にどういう能力があるかとか制御の仕方は練習した。俺の場合、精霊たちからどういう能力があるか、少し聞いていたから、ある程度わかってはいたけどな」

 やっぱり、探っていくしかないみたいね。

「まあ、経験を積むしかないのよね……。それで、アルトリウスが最後に使おうとしていたあの剣が光っていたのは何だったの?」

「……あれがどういう攻撃かは、わからない。けど、アルトリウスは竜人の中でも史上最高の力を持っている。大昔、このルミナスに辿り着いて間もないころの竜人たちを率いていたっていうやつの領域に届くかもしれないって、精霊の里の長に聞いた。確か、竜人の神で竜神だったか」

 竜神、えらく大げさな肩書ね。でも、その肩書に劣らない力があるのは、この身で実感した。

「まあ、その当時の竜神は、前にも言ったように、アルトリウスと違って善人そのものだったらしいからな」

「……そういえば、アレンはアルトリウスと関わりがあったみたいだけど、どういう関係だったの?」

 王都にドラゴンが襲撃したときにアレンが撃退したから、そのときに関わったのだろうと思っていたけど、それにしては以前から知っていたように見えた。

「え、ああ、アルトリウスには、王都を襲ったドラゴンを撃退したときにちょっかいかけられてな。それで、ドラゴンキラーは王都では嫌われ者になったってな。その因縁ってやつ?」

 ……ごまかされた、ように思うけど、アレンにとってなにか、都合が悪いことだったのかもしれない。

「……そう」

 仕方ない、今はそれを汲みましょうか。

「他に、聞きたいことはあるか?」

「いえ、大丈夫。……ちょっと外で剣を振ってくるわ」

 なんにせよ、今は鍛錬を怠らないことね。

 私は立ち上がって、玄関の扉に手をかける。

「俺も付き合おうか?」

「いいわ。終わったら少し、湖の方で水浴びしたいし」

「……付き合うか?」

「なんでそうなるのよ!!」

 アレンは、私の反応を見て楽しんでるようだった。

 まあでも、少し考えすぎていた部分もあったし、なんか少し心が軽くなったような気がした。もしかしたら、アレンは私のことを気遣って冗談を言ったのかもしれないわね。

「…………ないわね」

 と、自分で否定したが、若干気持ちが浮いていることにこの頃の私は、気づいてなかったのかもしれない。


 それから、数時間が経った、と思う。日が少し傾き始めている。

「さて、この辺で、精霊の力を使う練習をしてみようかしら」

 目を閉じ、集中する。意識を丹田におき、深呼吸。

 足元から感じる大地の息吹、湖から聞こえる波の音、傾き始めたがまだ照り続ける太陽、頬を撫でる風、それらがすべて自分に集まってくる感覚がした。

 ……この感覚、時間制御じゃないわね。

 地水火風、すべてを掴めそう。

 そんな気がする。

 私はその感覚を集めることに集中する。

 光が自分に集まる。

「…………ッ!!」

 でも、それはすぐに霧散してしまった。

「はあ、はあ……、だめか」

 反動はそこまでないみたいだけど、コントロールが難しい。

 私は乱れる息を整えて、湖の方に目を向ける。

 もうすぐ夕方だし、早くしよう。


 濡れた体を拭いて、小屋に帰ろうとしたときのことだ。

 体が押されるような風が、山の方から吹いた。

 これは、もしかしてだけど、ドラゴン……?

 そう思って私は、風上の方へ振り向く。

「やっぱり……!」

 黒々としたドラゴンの姿があった。

 早くアレンを呼びに行かないと……。

「ソフィー!! この気配、ドラゴンか!?」

 小屋の方角からアレンが走ってきた。

「アレン! あそこ!」

 私はドラゴンを指を差す。

 というか、あのドラゴン、今まで見てきたドラゴンと色が違う。

「今回は少し手強いぞ。気ぃ引き締めて行けよ!」

 アレンは、剣を構えて言った。

 やっぱり、あのドラゴン、今までのと少し違うみたいね。


 グオオオオオオオッ!!


 ドラゴンの咆哮が近づいてくる。

 今回こそは、殺る。

 師匠が遺した剣を構え、ドラゴンを見据える。

 

 森の木々は鳴き、湖の水が震える。


 そして、黒い巨体が急降下してくる。


 速い……ッ!!

 私は、その突進を横に跳び込んで回避した。

 黒々とした巨体に集中する。

「弱点が見えない……?!」

 この黒いドラゴンに隙がないようだった。

「ソフィー、俺が翼をやる! 落ちたところにとどめを刺してくれ!」

 アレンはそう言うと、ドラゴンの頭を踏み台に翼を斬りつける。


 ギャオオオオオオオオオンッ!!!!


 ドラゴンの叫びとともに大地が揺れる。

「ソフィー、今だ!!」

 ちょっ、まだ準備ができてない!

 私は、体勢をすぐに整えて集中する。剣を構え、倒れてもがいているドラゴンを見据える。


「…………」

 これは、さっきの感覚……。

 全身に地水火風の力が湧いてくる。

 この力を使えばドラゴンを倒せる、と直感で感じた。

 私はその湧き上がる力を解き放ち、剣を振るった。

「はあああああああああッ!!」


 一閃。


 ドラゴンは叫ぶ暇もなく光の粒子となって霧散した。

「……はあ、はあ、やったわね」

 一点に集中したからか、体力をかなり消耗しているけど、時間制御よりは反動は少ないみたい。

「ソフィー、大丈夫か?」

「え、ええ。それよりも、私、ドラゴンを……!」

「ああ、話はあとでしっかり聞くから、今はとりあえず家に戻ろうぜ」

 私は、アレンに肩を借りて小屋まで戻った。


 小屋に戻った私は、少し休憩を挟み、ドラゴンを倒したときに湧き上がった力のことを話した。

「精霊の中でも、四元素を扱えるのはそういない。ソフィーの師匠は確か、スメラギって言ったか、間違いなく里の中でも有力な精霊だったんだろうな」

「アレンは、師匠……あ、スメラギのことは知ってたの?」

「いいや、精霊の里を出て行ったなんて精霊は聞いたことがなかったから、知らなかった」

 アレンはどこか悔しそうに私の剣に目を向けた。

 アレンって意外と好戦的なのかしら。悔しそうなのは、私の師匠と手合わせしたかった、ってのが理由だと思うわ。

「さて、と。ソフィーは、その力をどの程度制御できる?」

「……常に出力全開って感じかしらね」

 時間制御より反動は少ないと言っても、出力全開で能力を発動させたら体力を大きく消耗してしまう。アレンの質問は、それを懸念してのことだろう。

「そうか。まあ、ソフィーは、地水火風のイメージがうまくできていないみたいだからな。それができるようになったら、制御できるようになるさ」

「地水火風のイメージ……」

 そういえば、この能力を初めて発現させたとき、地水火風の要素が私の周りに揃っていたわね。

 

 グオオオオオオオッ!!


 なんて考えていると、そう遠くない位置からドラゴンの咆哮が聞こえてきた。

「なに、今の!?」

「こりゃ、やばいな。一度ここを離れるぞ」

 アレンは、扉を置け破る勢いで外に出た。私もそれに続く。


 グオオオオオオオッ!!


 咆哮が明らかに近づいている。

 嫌な予感がする。

「アレン、これって……」

 さっき戦ったドラゴンの咆哮と似ている。

 もしかしたら、……いや、そんなはずない。私がこの手でとどめを刺したはずだ。

「考えてる暇なんてないぜ」

 アレンはそう言うと、私の手を引いて無理やり外に連れ出した。

 その瞬間、私たちが今までいた小屋は激しい炎に包まれた。

 やはり、嫌な予感は当たってしまった。上空で羽ばたいているドラゴンは、さっき私たちと戦ったドラゴンだった。

「どういうこと……!?」

 私はそう呟くしかなかった。

「なに、もう一回倒せばいい話だ」

 アレンは剣を構え、戦闘態勢に入り、跳躍。

「ソフィー、馬を頼んだ!」

 馬を見ると、火に怯えているようだった。退路を塞がれるのはまずいわね。とりあえず安全な場所まで連れて行かないと。

 私は、馬を連れてその場から離れる。

 それにしても、なんであのドラゴンが? とどめを刺した感覚は確かにあった。

 なんて考えていたら、背後から何か巨大なものが落ちたような音がした。

「はああああああっ!!」

 見ると、アレンがドラゴンを地面にたたき落とし、その頭を剣で斬り落とした。

 アレンは、剣を鞘に納めると私の方に駆け寄った。

「ソフィー、早くここを離れるぞ!」

「ねえ、あのドラゴン、なんなの!?」

「わからない。……だけど、あのドラゴンはアルトリウスが仕向けたってことはわかる」

 アレンは馬に乗り、私の手を引いてその後ろに乗せる。

「よし、飛ばすからしっかりつかまっとけよ……って、お前は……」

 馬を出そうとしたそのとき、私たちの目の前に見覚えのある女性が立っていた。

「……私が再生したドラゴンはどうでした?」

 再生……?

「なんだか知らないけど、そこ、どいてくんない?」

「陛下に仇なす者は、私が始末します」

 どこか、遠くに語りかけるような口ぶりだった。

「会話する気はなしかよ」

 アレンはそう言うと、手綱を握り直し馬を走らせた。

 私は後ろを振り向き、小さくなっていくあの女を見る。

「あいつ、昨日アルトリウスといた……」

「ああ、アルトリウスが側近にする女だ。相当な力を持っていてもおかしくはない」

 確かに敵の本拠地に単身で乗り込んできたり、ドラゴンをけしかけてきたり、只者じゃない。

「じゃあ、あの女も竜人だったりするの?」

「いや、現代で竜人といえるのは王族だけだ」

「そう……」

 だとしたら、あの女が言っていた『再生』っていったい……?

 そこで、私は気づいた。

「ねえ、そろそろ森を抜けてもいいはずよね?」

 さっきからずっと緑しか見えない。アレンの馬ならそろそろ森を抜けてもおかしくない。

 道も道で補装されていた形跡がある。確か、霊峰セレーネに通じる道は整備されていた。昨日の今日で急に朽ちるなんてことはありえない。これが、あの女が言っていた『再生』なのだろうか。

「こりゃ、戦うしかないかもな。ソフィー、離すんじゃねえねえぞ」

 アレンは呟き、剣を抜いた。

「あら、もう気づかれたのですね」

 囁くように、だけどその声ははっきりと聞こえた。

 間違いない、あの女は強い。

 その時、周囲の木が一瞬揺れた気がした。

「なにかくる……」

 嫌な予感はすぐ当たる。ねじれた槍のような木が私たちに襲い掛かる。

「くっ……!!」

 アレンは、素早く剣でその木を斬り落とした。

「ソフィー、俺は降りてヤツを倒す。このままアルトの町まで行ってくれ」

「……わかった」

 アレンが馬から飛び降りたのを見て、私はすぐに手綱を握る。

 アレンの馬の手綱を握るのは初めてだけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。

「頼むわよ…………、馬」

 そういえば、この馬の名前聞いてなかったわね……。あとで聞くから、アルトの町にちゃんと来なさいよ、アレン。





 あの女が言っていた『再生』っていう能力。さっきはドラゴンを再生したって言ってたな。恐らくこの森は、道が整備される前の状態に再生されたってことだろう。こんなことができるのは、精霊の能力くらいか。

 さて。

「そこにいるんだろう? こそこそしてねぇで、出てきたらどうだ!」

「さすがにお気づきになられていましたか」

 茂みの奥からあの女が出てきた。長い金髪が特徴的で、こんな状況じゃなかったら、声をかけていただろうな。

「……そういえば、まだお名乗りしていませんでしたね。私は、イヴ=スチュアートと申します」

「そりゃご丁寧にどうも。これで、あんたの墓に名前を刻めるな」

「お上手ですね」

 この程度の挑発に易々と乗るタイプじゃないよな。

「それより武器を出しな。丸腰の女を斬れるほど、悪人じゃねえんだ」

「武器? 私は、物騒なものは持ち合わせていないので……」

 その刹那。俺の足元から槍のような木が勢いよく生えてきた。

 俺は、それをなんとかバックステップでかわした。

「ドラゴンキラーともあろうお方が、そのような油断をされるものではありませんよ」

「おお、こわ。こりゃ遠慮なんていらねえな」

 次々と襲い掛かる木を避けながら、反撃の機会を探る。

「おや、あなたはドラゴン専門で、私のような人間は専門外であられましたか? 先ほどから、防戦一方ではありませんか」

 避けているうちに、いくつか法則性のようなものが見えてきた。

 恐らく、一度に操れる数は三か四、攻撃をしたあとは一瞬の隙が生まれるみたいだ。

 ヤツの攻撃は一瞬、こっちが攻撃できるのも一瞬か。

「先ほどまでの軽口がまた聞きたいのですが、どうなさいましたか」

 やるならここか。

「聞きたきゃ聞かせてやんよ。お前がくたばった後でな!」

 俺は生えきった木の幹を蹴り、素早くイヴの背後へ回って斬りかかる。

「ぐぁああっ!」

 少し避けられたか。

 だけど……!

「さあ、観念しな! お前らが何企んでんのか、まだわかんねえけど、ドラゴンをこのルミナスに放った責任は取ってもらわなくちゃな」

 俺はイヴの喉元に剣を突き立てる。

「……ここまで、ですか。陛下、申し訳ありません」

 その時、バシャアンッ! と雷が俺の目の前に落ちた。

「なっ!?」

 俺はなんとかそれを避けたが、イヴの姿を見失ってしまった。

「これも、ヤツの能力か……」

 雷……、地水火風の四元素に含まれない属性か。精霊力の類なのか?

 それに、あの再生とかいう力。あんなに強力な能力なのに反動を受けていたようには見えなかった。やっぱり今のままじゃ、あいつらを倒すのは無理か。情報も欲しい。

「まあいい。早くソフィーんとこ行かないとな」

 空間転移、瞬狼(しゅんろう)……は、反動がえげつないから使いたくないけど、ここは早くソフィーと合流しておきたいしな。それに、アルトの町を襲うなんてことはないだろう。

 読んでくださりありがとうございます。不定期にゆっくり更新していくのでよろしくお願いします。

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