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ドラゴンダンス  作者: 梅の種
1/4

竜の支配と出会い

~プロローグ~


 ドラゴン。それは、この世界————ルミナス————に突如として現れた厄災。村を焼き、街を壊し、国を滅ぼす。

 人々は、その禍々しいドラゴンの姿に恐怖した。



 ここは、モルゲン村。とてものどかでわたしの大好きな村。

 今日は、お母さんが風邪でお父さんも村を守るお仕事があるから、わたしが代わりにお買い物をするの。

「おじさん、リンゴをひとつください!」

「お、ソフィーちゃん、おつかいかい? 偉いねえ」

「うん。お母さんが風邪だから……」

「そうかいそうかい、だったら、サービスしないとね」

 おじさんは、リンゴを二つ、わたしのカゴに入れた。

「え、おじさん? わたしひとつって……」

「いいのいいの。それじゃあ、お母さんによろしくねえ」

「……うん!」

「おい、親父! 北の空から、何かデカいモンが飛んできてる!」

 男の人がお店まで走ってきた。とても慌ててる様子だった。

「何をバカなこと言ってるんだ! ソフィーちゃんにバカがうつるだ……って、おいおい冗談じゃねえ!」

 北の方を見ると、物凄い速さで飛んでくる怪物の姿があった。

「は、早くお母さんに伝えなくちゃ!!」

「ってソフィーちゃん!!」

 わたしは、怖いと思うよりも先に走り出していた。

 でも、それよりも速く、大きな影がわたしの上を過ぎていった。

「…………!!」

 嫌な予感がしたと同時に、何かが崩れる音が平和だったはずの村に響き渡った。

 早く、お母さんに!!

 そこの角を曲がったら、わたしのお家がある!


「な、なんで……!?」

 わたしのお家なのに。

 そこには、わたしのお家はなかった。

 代わりに、黒くて大きな怪物が瓦礫の上にその鱗に覆われた四つ足で立っていた。

 それっじゃあ、お母さんは、もう……。

 次の瞬間には、その怪物は口から火を出して、他の家々を燃やしていった。

 村の人たちの叫び声が聞こえる。幸せが崩れる音だ。

 きっと、わたしも死んじゃう。そう思った。

「ソフィー!!」

「お父さん!」

 駆け付けたお父さんが、わたしを怪物から庇うように立った。

 その手には、昔、お母さんを魔物から守ったときに使った剣が握られていた。

「ソフィー、早くここから逃げなさい!」

「でも!!」

「ソフィー!!」

 いやだ。

「お父さんは、ソフィーも失いたくないんだ!」

 いやだ。

「ソフィー、逃げろ!!」

「いやだよ!!」

 顔を上げたとき、目の前が赤く染まった。

「え、お父さん……?」

 お父さんが立っていたはずの場所に赤いモノがあった。

「や、やだ、こんなの……」


 

~第一話 ドラゴンキラー~



「…………!!」

 嫌な夢、見ちゃったわね。

 あの後は、確か……、気絶して倒れていた私を師匠が拾ってくれたのよね。血まみれで倒れていたから、最初は死んでいると思ったって。今思えば、私がこうして生きているのは、あの怪物が血まみれだった私を死んだものと勘違いしてくれたからなのよね。

 ……師匠には、色々なことを教わったわね。

 村を襲った怪物、ドラゴンのこと。体術、剣術。

 そのおかげで、一騎当千なんて言われて浮かれてたこともあったっけ。

 これならドラゴンを倒せるって。

 でも、それじゃ足りなかった。ドラゴンは、もっと強かった……。

 実際に、師匠と旅をしていたときにドラゴンに襲われた。

 私は防戦一方で攻撃なんてできなかった。

 師匠が命を懸けて私を守ってくれたから、こうしていられるけど、あのときは未熟だった。

 ドラゴンが現れてから、十年の時が経った今でも被害は広がっている。この十年、多くの国が滅び、数多の街が壊れ、幾多の村が焼かれた。

 私はドラゴンを絶滅させなくちゃいけないんだ。

「……って、もの思いにふけっている場合じゃないわね」

 私は、王都ヘリオスにある宿の一室で自分にそんなツッコミを入れた。

「昨日到着したばかりだったから、疲れているのね、きっと」

 王都ヘリオス。ルミナスの中心にして、ルミナスを統べる王国。唯一、ドラゴンを退けた国である。

 その国を訪れるのは、安寧を求める者、住む場所を焼かれた者、理由は様々だ。

 でも、私は違う。

「この王都ヘリオスに、ドラゴンキラーがいるのよね……」

 初めてドラゴンを殺した男だって師匠が言っていた。

 この王都ヘリオスがドラゴンに襲われたにも関わらず壊滅していないのは、ドラゴンキラーがいたからだという。

「でも、それだとおかしいわよね。ドラゴンを殺せるんだったら、なんで『退けた』のかしら」

 案外、噂の域を出ていないのかもしれない。

「ま、当てがないよりはマシよね」

 さて、昨日は何もできなかったし、そのドラゴンキラーの情報を探しに行きましょうか。

 酒場あたりなら、知ってそうな人がいるかしら。酒場だったら、血の気の多い連中も多いでしょうし。


 部屋を出て、宿のカウンターで酒場の場所を聞いた。

 宿のおばちゃんには、「お嬢ちゃんにはまだ早い」なんて言われたけど。

「ここね……」

 街の方は王都らしく華やかだったけど、この辺は治安が悪そうね。心なしか、少し薄暗い気がする。

 そういえば、ここに来るまでにドラゴンキラーのことをそれとなく聞いたけど、なんかはぐらかされたりして、あんまりいい顔はされなかったわね。

 本当に知っている人はいるのかしら。

「なんにせよ、ここを当たってみるしかないわね」

 私は少し深呼吸してから、店の中に入った。

「……いらっしゃい。嬢ちゃん、ここは喫茶店じゃないぜ」

 私が店に入るなり、店主のおじさんがそんな嫌味なことを言う。

 周りの客も、へらへらと笑っている。

「おいおい、急にガキ臭くなったなあ」

 下品な笑い方ね。

「……ドラゴンキラーについて、知っていることがあったら聞きたいのだけれど」

 私は、そんな下種な客を無視して、さっそく聞いてみた。

 すると、今まで騒がしかった店内がまるで凍り付いた。

「嬢ちゃん、あまりその話題について触れない方がいい」

 客から睨まれているのを感じる。

「どうしてか……ッ!?」

 言い終える前に、背後から客が斬りかかってきた。

 私はそれをなんとか回避した。

 背後を取られるなんて、抜かったわね。

「ずいぶんご機嫌なお客さんね」

「うるせえ!」

 お酒が回っているのか、太刀筋はボケている。

「ちょっと店主のおじさん! 王都ってこんなに物騒なの!?」

 私は、振り下ろされる剣を横に跳んで回避し、回し蹴りでその暴徒と化した客を壁まで飛ばした。そして、スカートの裾で隠していたナイフを投げ、その客を磔にした。

 店内は、私がドラゴンキラーの話題を出したときとは違う静寂に包まれた。

「……それで、ドラゴンキラーについて知っていることを教えてほしいのだけど」

「……はあ、お嬢ちゃんには逆らわない方がいいな」

 なんか、脅しみたいになっちゃったわね。

 できれば、穏便に進めたかったのだけど。

「ドラゴンキラーがどうしてドラゴンを殺せるか、わかるか」

 店主は、私をカウンター席に座るよう促し、ミルクをグラスに注いだ。

 子供扱いは変わらないのね。

「いいえ、知らないわ」

「……ドラゴンキラーの力は、精霊の力に等しいとされているんだ。いやそれ以上だとも言われているな」

 精霊。このルミナスを守護している神に遣わされた存在、だったかしら。その力も絶大で、精霊は様々な物質を司る、らしい。これは、その精霊だった師匠に教えてもったこと。

「それなのに、どうしてかしら。それでドラゴンが倒せるんでしょう?」

「ヤツの力が精霊を殺したことで得られた力だとしても、そんなことが言えるのか?」

「精霊を、殺す?」

「そうさ、精霊は俺ら王都に住む奴らにとっちゃ、救いの存在なんだ。しかも、その精霊がドラゴンから街を守ってくれるとも言われていたんだ」

 店主は、悔しそうにそう言い、その目はどこかうるんでいるように見えた。

 客の中には、悔しそうにテーブルに拳を叩きつける者もいた。

 ……精霊信仰。

 私の頭の中にそんな言葉が浮かんだ。

 これも、師匠からの受け売りだけど、古くから精霊を信じ、崇めていた人たちが、ドラゴンの恐怖から精霊に救いを求めるようになったとか。

 もっとも、十年前ドラゴンが現れてから、精霊は人々に姿を見せなくなったとも言われてるけどね。それがドラゴンキラーが精霊を殺したからなんて思ってないけれど。

「でも、そのドラゴンキラーのおかげで、ドラゴンから街は救われたんじゃないの?」

「精霊がドラゴンから街を守ってくれるのにか? なのに、そのドラゴンキラーは精霊を殺した。その意味がわかるか!!」

 店主の声が、静まり返った店の中に響いた。

「……もういい、帰ってくれ。ドラゴンキラーに会いたきゃ、王都を出て北にある霊峰セレーネを目指すといい。その山の麓にそいつが住んでるんだとさ」

「そう、嫌なこと聞いたわね。あんたも、磔にして悪かったわね」

 私は、壁に刺さったナイフをすべて回収し、店を後にした。


 それにしても、いくら精霊信仰が盛んだからってあそこまで攻撃的になるのかしら。話もところどころおかしかったし、ドラゴンキラーっていう単語を聞くだけであそこまで豹変するものかしら。

 少し引っかかるけど、私自身、実際に精霊信仰を目にしたのは初めてだし、ああいうものなのよね、きっと。

 私は、少しの違和感を抱きながら、宿に戻った。


 宿に戻ると、おばさんが笑顔で迎えてくれた。

「あら、お嬢ちゃん、早かったわねえ。酒場はどうだった?」

「情報は得られたわ。ありがとう、おばさん」

「いいや、気にすることじゃないさ」

「早速で悪いのだけど、明日、ここを出ようと思うの」

「あら、もうかい? 今度はどこに行くんだい?」

「ちょっと、霊峰セレーネの方まで」

 と言うと、おばさんがぎょっとした目をした。

「なんでそんな危ない場所に。ドラゴンだって出るかもしれないんだよ」

「そのドラゴンを倒す手がかりを探しに行くの」

「それにしても危険だよ、それにあのドラゴンキラーとかいう男もいるし」

 やっぱり酒場で聞いたことは本当だったのね。

 うん、明日行くことは確定したわね。

「まあ、もう決めたことだから」

「……そうかい、気をつけるんだよ」

 私は軽く会釈してから部屋に戻った。

 さて、明日からは野宿が続きそうね。まさか、霊峰セレーネにまで行かなきゃいけないなんてね。

 ドラゴンキラーがどんな奴だろうと、ドラゴンを殺す手がかりなことには間違いない。



 翌日。

 私は、朝早くに王都ヘリオスを発った。

 霊峰セレーネは、ドラゴンが現れる前までは、神が住む山として人々から崇められていたらしい。

「そのおかげで、街道も整備されているから助かるのよね」

 霊峰セレーネまで、かなり遠い。

 王都で馬を借りられないか聞いたけど、霊峰セレーネまで行くと言うと、そんな危ないところに行くのに馬は貸せない、と言われてしまった。

 日はもうそろそろ傾き始めようとしている。それでも、この調子だったら明日には到着しそうね。

「……休めそうな場所を探さないといけないわね」

 と、周囲を見渡していたときだった。


 ゴオオオオオオオオオオ。


 何か、聞こえる。

「……この感じ、覚えがある」

 音のする方角は、北。

 これ、やっぱり——————。

「ドラゴン……ッ!」

 やり過ごす、っていうのは無理みたい。完全に私に向かって飛んできている。

 やるしかない、わね。

 今の装備は剣にナイフが四本。今の私なら、退けるくらいはできるかもしれない。

「心を落ち着かせて、私。復讐に心を支配されてはいけない」

 私は、師匠から教わったことを復唱する。

 復讐に心を支配されたから、師匠を失ってしまった。今度は自分の命を失う。

 私は深呼吸して、ドラゴンを見据える。

「…………来るッ!!」

 剣を抜き、ドラゴンの第一撃を受け流す。

 それでもかなりの衝撃が襲い、体勢を一瞬崩してしまう。

 二撃目が来る。

 かわすしかない……ッ。

 二撃目の空中からの突進を横に跳んでかわす。

「そこッ!」

 私は、タイミングを合わせてナイフをドラゴンの目に投げた。

「当たった!」

 大きな音を立ててドラゴンが落ちた。

 いける、そう確信したときだった。


 キュオオオッ!!


 ドラゴンは咆哮し、すぐに立ち上がった。

 そして、尻尾がなびく。

「ガフッ!」

 私はその尻尾をなんとか剣で防いだけど、吹き飛ばされてしまった。

 軽い動作だったのに、なんて重さなの……?!

「ふふ、これじゃあ、退けるのも無理かもしれないわね……」

 私は体勢を整え、ドラゴンを見据える。

 ドラゴンも私の方に向き直り、グルルルル、と喉を鳴らす。

「ははは……、さっきので怒らせちゃったみたいね」


 ギュオオオオオッ!!


 ドラゴンは、地面を揺らしながら突進してくる。

 その瞬間だった。

「……ッ!!」

 なに、これ……?

 ドラゴンの脚に、なにか見える……? 光にも似たなにかが見える。

「これは、賭けね……」

 私は、光っている部分に狙いを澄まして構える。

 ここでやらなきゃ、ドラゴンは殺せない……!!

「そこだあああッ!!」

 突進してくるドラゴンの懐に飛び込み、その光っている部分を斬りつけた。

 手応えはある。やれたかしら。

 振り向き、ドラゴンの様子を確認する。

「……よし、倒れてる!」

 あの光は、ドラゴンの弱点かなにかだったのかもしれないわね。

 さて、あとはとどめを刺すだけね。

 そう思って、近づいた瞬間、

「くっ……」

 思ったより立ち上がるのが早かった。

 それでも、かなり弱ってるはず……。いけるかもしれない。

 ドラゴンは、前脚を振り下ろす。

「…………ッ!!」

 速いッ!! 相当なダメージを与えた感覚はあったのに、まだこんな力が残っていたなんて……。

 これは、防げそうにないわね……。


 と、諦めたそのときだった。

 ドラゴンの前脚が振り下ろされず、その前脚が落ちた。

 次いで、翼、尾、最後に首と落とされていった。

「え……」

 そして、私より一つか二つ年上(だと思う)の青年が私の目の前に立った。

「へえ、お前、結構やるな」

 それに、どこか私に似た青年は剣についたドラゴンの血を振るい落としそんなことを言った。

「あ、あんたは……?」

 あんなに強かったドラゴンがこんな簡単にだなんて……。

 まさか、この男が、

「ドラゴンキラー……?」

「まあ、周りからはそんなふうに呼ばれてるな」

 やっぱり。だとしたら、王都で聞いたあの話は、嘘かもしれないわね。

「それで、お前はどうしてこんなところに来た。この辺はドラゴンが出やすいっていうの、知らなかったか?」

「いいえ、私は、あなたにドラゴンの殺し方を教えてもらいたくてここに来たの」

 私は首を横に振ってからそう答えた。

「またまた珍しい。お前、俺がどうやってドラゴンを殺せるようになったか、聞いてないのか?」

「……精霊を、殺したんでしょう?」

 ドラゴンキラーは、私の言葉に頷いてから、

「その通り。俺が、怖くないのか?」

「確かに、本当に精霊を殺して得た力なら、私はあなたに手がかりは聞いても、ドラゴンの殺し方なんて聞かないでしょうね」

「っていうと?」

「あなたは、精霊を殺していない。そうでしょう?」

「へえ、何を理由にそう思うんだ?」

「私が、精霊と何年か旅をしていたから、かしら」

 ドラゴンキラーはそれを聞いてぴくっと反応を露わにした。

「……精霊と旅、ね」

「えっ?」

「なるほど。……俺は、精霊から力を受け継いだんだ、それも複数の精霊から」

「受け継いだ……?」

 どういうこと?

「まあ、俺が殺したわけじゃねえってことで」

「なんか、引っかかる言い方ね」

 ……さすがに今会ったばかりの人に全貌を明らかにするほどバカじゃないよね。

「……で? ドラゴンの殺し方なんて聞きに来るあたり、今の話じゃ、満足できてないだろ?」

 彼は、一度ドラゴンの死体に目をやり、そんなことを聞いた。

「……率直に言うと、あなたのもとで特訓したいの」

「いいぜ」

「即決!?」

 まさかの快諾。

 なにか、要求されるものだと思ってた。

「い、いいの……?」

「ああ、お前も、精霊から力を受け継いでるんだろ?」

 ん?

 私も、受け継いでる?

「ただの人間、それもお前みたいな華奢な女がドラゴンパピーとはいえ、ドラゴンに傷をつけられるはずがない。……見えたんだろ? 光が」

「…………!」

「やっぱりな。じゃあ、ついてこい」

 ドラゴンキラーは私の腕を引き、少し離れた場所に待機させていた馬まで私をつれて行った。



 馬を少し走らせると、霊峰セレーネの麓にある森に差し掛かった。

「確か、このあたりにあなたの拠点があると聞いたのだけれど」

「ああ、もうすぐだな」

「結構早く着くのね。この馬、何か仕掛けがあるの?」

 この馬、普通の馬よりも明らかに速い。

「ん? ああ、こいつも精霊の力を受け継いでいるからな」

 この馬も? やっぱりこの男、精霊を殺してないにせよ、精霊とは結構親密な関係にあるのかもしれないわね。

 と、思考を巡らせていると、

「よし、着いた。ここが俺の家だ」

 一軒の小屋を月明かりが照らしていた。

 ドラゴンキラーなんて大層な呼び名があるにしては、少しみすぼらしいわね……。

「……なんだよ、その顔。不満か、俺がここに住んでたら不満か」

「い、いえ、そんなことは思ってないわよ!」

 意外と鋭いわね。

「ええと、さ、入りましょう。あなたには聞きたいことがまだあるんだから」

「なんか、はぐらかされた気が……。まあ、いい。入れ」

 ドラゴンキラーは、馬小屋に馬をつなぐと、私を小屋の中へ案内する。

「ふぅん、生活感がまるでないわね」

「物はあまり置かない主義なんだ。根無し草なお前に言われたくないな」

 月明かりに照らされながら、ドラゴンキラーは明かりを灯す。


「ドラゴンキラー、あなた、私にもドラゴンを殺せる力があるような反応をしていたわね。一体どういうことなの?」

「それはさっき確認しただろ。お前、光が見えたんだろ? それが、お前の言うドラゴンを殺せる力だ」

 確かに、光っている部分を攻撃したら、かなりのダメージを与えることができた。

 けど……。

「だけど、その光っている部分を攻撃したら、ドラゴンは凶暴になったわ。あんな状態になったら、手の付けようがないじゃない」

「そりゃ、ドラゴンも攻撃されたら怒るだろ」

 それもそうよね。

 ってそうじゃなく。

「私にはひとつしか光が見えなかったわ。あなたには、複数見えていたように思えるのだけど?」

「アレンだ」

「え?」

「アレン=ルイス、俺の名前だ。俺は、多くの精霊から力を受け継いでいる。お前よりも……、そういえば、お前の名前を聞いていなかったな」

 ドラゴンキラー、アレンは言いかけて、そんなことを聞いた。名前を重んじる人なのか、人から勝手につけられた呼称に良い思いをしていないのかはわからないけれど。

「あ、最初に名乗るべきだったわね。私は、ソフィー=バートンよ。それで、私よりも、なにかしら?」

「ああ、悪い。ソフィーより、俺の方が精霊の力が強いのは当然のことだと言いたかったんだ」

 なるほど、精霊の力っていうのがあの弱点が見えるようになる力なのね。

 それにしても、私も精霊の力を受け継いでいるってどういうことなのかしら。確かに、私をドラゴンから命がけで守ってくれた師匠は精霊だったけれど、力を受け継ぐみたいなことは身に覚えがないわね。

「どうした?」

 アレンは、しばらく無言で考えていた私を不思議に思ったのか、顔を覗き込むように聞いた。

「いえ、ただ、精霊の力を受け継ぐなんてことまったく身に覚えがないのよ。精霊の力っていうのは、どうやって受け継がれるの?」

「そのソフィーと一緒にいた精霊は、それを伝えずに逝ったのか」

 呟くように、彼は言った。

 私の師匠について、なにか知ってるのかしら?

「……師匠は、私には対人用の訓練しかさせなかった。そういうドラゴンに対する情報は基本的なことしか教えてもらえなかったの。精霊の力っていうのは、どうやって受け継がれるの?」

「……精霊はその命が終わるとき、自身の力を他者に託すことができるらしい」

「…………!!」

 え、つまり、師匠が庇ってくれたあのときに……?

 それに、精霊の命が終わるときっていうことは、アレンは……。

「あなた、まさかとは思うけれど……」

「殺ってねえよ」

 彼は最初に言っただろう、と付け足してから、

「……俺は、精霊の里で育ったんだ」

「精霊の里……?」

「霊峰セレーネにあった精霊が生まれ、精霊たちが平和に暮らしていた楽園だ」

 そんな場所があっただなんて。

「続けるぞ。……十年前、ドラゴンが出現したのは、霊峰セレーネだった。当然、里は突如現れた多くのドラゴンによって襲われ、里の有力な精霊たちがドラゴンに立ち向かっていき命を落としていった。……その命を落としていった精霊たちから力を受け継いだ俺が、ドラゴンたちをその力で殺した。もっとも、何頭かドラゴンを逃がしてしまったし、ドラゴンは今もその数を増やしているけどな」

「そんな、ことが……」

 それが、十年前に起こったというの? 一頭でも村ひとつを焼き払うことができるドラゴンが何頭も襲ってくるなんて。

「うっ……!!」

 十年前、目の前で起こった惨劇がフラッシュバックし、嗚咽してしまった。

「大丈夫か」

「え、ええ。それにしても、知らないことが多すぎるわ。精霊っていうのは、十年前に姿を消したと教わったけど、まさかドラゴンが原因だったなんてね。でも、私の師匠のようにその精霊の里を離れていた精霊はいないの?」

「俺の知る限り、お前の師匠くらいだな、里を離れるような物好きは」

「それじゃあ、精霊はもう……」

「ドラゴンに全滅させられた」

 その言葉は、彼の口から意外とあっさり発せられた。

 そこで、私はなにか引っ掛かりを感じた。

 王都で古くから伝わるという精霊信仰。

 精霊を殺したことでドラゴンを殺す力を得たとされるドラゴンキラーの噂。

 ドラゴンキラーは王都に襲来したドラゴンを殺さずに退けたということ。

 霊峰セレーネにドラゴンがよく出るという情報。

 これらの情報に違和感がある。

 と、考えていると、アレンが立ち上がった。

「さて、今日はもう遅い、さっさと寝よう。明日は王都に出かけることにした」

「え、王都……?」

「……すべての元凶を断つ」

 元凶……?

「どういうこと?」

「ドラゴンをルミナスに放った張本人、ヘリオス王を殺す」

初めまして。梅の種です。投稿第一回目ということで、色々読みにくかった部分あると思いますが、読んでくださりありがとうございました。不定期更新になると思うので、気長に生暖かい目で見てやってください。

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