第十門
「まぁ、話は簡単だ俺の手首がめちゃんこ柔らかいただそれだけだ」
そう言うとザンバは自分の手首をもう片方の手でグニャグニャと曲げて見せる。
「なるほど」
(奴は刀の根本に俺の八咫烏を受けてその力を利用して手首と持ち手でくの字を作ったってことか)
それは言うが易しだが、やってることは到底誰にも真似できないことだった。
つまるところ手首が異常なほど曲がると言うことは刀を使う上で非常に強みとなる。
「いやしかし、お前さんすごいな。技術もそうだがその眼はすごい。俺も眼には自信があったがお前さんはそれ以上だ」
「だが、俺の最速は見切っていた」
「まぁね、その剣速は見たことがあった。まぁそいつはお前さんのより早い剣だったがな」
「しかもそれを見て生きてるってことは凌いだってことだろう」
「けけけ」
笑って誤魔化すザンバに会話を続けながらジンは、ずっと突破口を探していたが、自分の攻めの第六門と守りの第八門を破られて正直成功率の低い他の門に頼らなければならないだろうとそこまでの結論は出ていてた。
「さて、お前さんそれで打ち止めかい?」
結局、八門の原型である絶刀を使ったところで意味はない、ここは賭けに出るしかない。
(こういう場面もくるだろうって覚悟はしてたろーが!一か八か)
この技をしくじれば後はない。
「それじゃあ、さっさと終わらせるか」
「おお!いいねいいね!そう来なくっちゃ!」
ジンは見栄を張って強気言うと、刀を抜き右手で人差し指と中指と親指でつまむ様にして刀の平地の部分を持ち、左手で柄の頭を握りしめて上段に構える。
そして静かに瞳を閉じる。
「行くぞザンバ」
「かかか、こい、ガキ」
そう言うとゆらりゆらりと動き出すジンにザンバは余裕の笑みを崩さない。
ジンは心の中に全くの揺らぎのない水面に木の葉が浮くイメージをする。
(未熟)
ジンの思い浮かべるその木の葉が揺れ動く。
全く揺らぎのない水面で揺れ動く木の葉。
(集中しろ)
尚も揺れ動く木の葉は少しずつその揺れを大きくしていく。
「おいおい、どうしたよ?来ないならこっちから行くぞ?」
「うるさい、少し黙れ」
揺れ動く木の葉は止まることはなく、それは最早止まることはないであろうと思うくらいに揺れ動く。
(だめか)
ジンが諦めかけたその時に右手に触れる風を感じる。
(前にもこんな事あったな)
そう思ったジンが思い出すのはガクゼンとの修行だ。
「いいか小僧、集中ってのはしようとしてできるもんじゃねぇ、頭を空にしてなんてのは無理だ。ならそん時は思い出せ」
「何を?」
「てめーが死んで泣く奴をだよ」
思い出したジンは現実に戻る。
(師匠にしてはありがたいお言葉だ)
「ふふ」
「あん?今度はなんだ急に?」
「いや、すまん、少し思い出し笑いだ」
「お前さんこんな状況で思い出し笑いたーキモが座ってるね」
「ああ、俺も驚いてるさ」
(まだ死ねない)
ジンは思う、己が何がためにここにいるのか。
(守らなきゃいけない)
ジンは念う、己にとって覚悟とは何か。
(まだ何も成しちゃいない)
ジンは想う、己はなんであるか。
ジンが目を見開いた時、同時に揺れ動く木の葉が動きを止める。
(泣かせるわけにはいかない。オウカもリュウキも親父殿も母上もそして何よりリナリーを)
「いくぞ、ザンバ」
「やっとか小僧」
「思ったんだが、俺はジンって名前がある。覚えとけ」
「そういうのは俺に一太刀でも入れてから言えや」
「上等!」
ジンが音を立てずに地面を蹴って一足の元ザンバの面前に駆ける。
その速度にザンバは驚くが、焦りはせずジンの全ての示唆を確実に目で捉えている。
「第十門、緋剣、酒呑旺迅」




