殿
「ぐああ!」
「嫌だ死にたくない!」
「待ってくれ!」
聴こえてくるのは悲痛な叫びだ。
ジン達は決死の撤退を続ける中で次から次へと仲間が命を消していく。
目を背けたくなるような地獄を見ながらジンは檄を飛ばす。
「あと少しだ!走れ!」
ジンは縦横無尽にあってないような隊列を駆け回って味方の援護をする。
「なんだこのガキ!がは!」
「ちょこまか動きやがって!ぐあ!」
ジンは躊躇うことなく目の前の命を奪う。
(価値観がぶっ壊れそうだ)
ジンは冷静な頭でそう思うが、手を止めることはない。
「抜けるぞおおお!」
目の前の男がそう叫ぶと急に敵がいなくなる。
「抜けた!走れ!前のやつの背中だけ見て走れ!」
ジンは敵中を抜けたが追っては必ずいると確信して尚も支持を続ける。
「隊長!追ってです!」
トールの声にジンが舌打ちをして返事をする。
「わかった!俺はケツまで下がる!」
「私も行きます!」
「僕もついていきます!」
「トールは残れ!ここから指示を出し続けろ!このタイミングでバラバラになったら死活問題だ!」
「でも!」
「命令だ!いくぞミシェル!」
「はい!」
そう言うとジンとミシェルはスピードを落として最後尾に下がっていく。
ジンが最後尾に着くと一番後ろの人間から槍で突かれて命を奪われていく。
「これは無理か」
ジンが最後尾に突っ込むと5、6人を千切りにして一瞬の間を作る、ジンの凄まじい剣技に帝国兵がたじろぎ間ができたのだ。
だが、敵の追っ手の数は50ほどいた。
ジンは一瞬で逡巡して結論を出す。
「今から殿を募る!ここで命を散らす覚悟のあるものだけここに残れ!」
「隊長!?」
ジンの指示にミシェルが驚く。
「ミシェルお前はいけ、後から追いつく」
「でも今命を散らすって!」
「俺が死ぬかよ、死ねない理由も最近増えたしね、それと目印を頼むダミーを混ぜてな青龍騎士団の目印は知ってるよな。それとトールなら本隊と合流できる案があるはずだ。時間がねーから説明ができねーけど」
「でも!」
ジンは後ろをパッと振り返るとニッと笑って言う。
「頼むよ」
そう言われたミシェルは何も言えなくなってしまった。
ミシェルが黙ると顔を前に戻すと声を張り上げる。
「いけ!残る奴は俺についてこい!」
ジンは一瞬で踵を返すと動揺から立ち直り最後尾に手が届きそうな追っ手へて体を向ける。
ジンをそのまま通り過ぎていく仲間の顔をジンは一生忘れないだろう。
恐怖で逃げることしか考えて無い者、ジンを心配しているが残る覚悟ができず申し訳なさそうに通りすぎていく者、悔しそうに歯を食いしばる者、さまざまだった。
(初日からハードだね)
ジンは心の中で愚痴ると自分の後ろの気配を感じる。
「おいおい、残りすぎだぞ?」
背中の気配の数を感じ取ってジンは口の端を吊り上げて言う。
「いや、隊長さんよ自分のガキと対して変わらねぇ歳の奴に殿させて逃げれるかよ」
「んだな、わしら平民だりぃね、代わりぃはいくらでもいんべ」
ここにいるのはほとんど平民の徴収兵である。
「いいか、俺に背中だけ見てろ、俺は倒れねーからな......死地ここに極まれりってか」
振り返って対峙した撤退兵が十数名、敵からしたら怖くもなんともないが、先程ジンの剣技が目に焼き付いている一番前の兵達がジン達に会話をする時間を与える。
「俺らは時間稼ぎだ、それとなく時間を稼いだらバラバラに逃げろミシェルに目印を残すように言っておいた、ダミーと間違えるなよ?」
ジンは顔だけスッと振り返ると親愛なるバカ共の顔を焼き付ける。
「とりあえず生き残れたら酒でも飲もう」
「隊長さんお前は未成年だ」
「そんな顔して硬いこと言うなよ」
十数人に笑いが起こるとジンは腰の刀を抜く。
「いざ参る!」
ここに決死の第二ラウンドが幕を開ける。




