月とスッポン
いや、語彙力ねーわ
すまぬ
それからは早かった、ほとんど私物のないジンは必要最低限の物を持って、ジゲンと共に馬車に乗り、ジゲンの家がある王都へと向かった。
ジンは馬車の窓で流れていく景色を見ながらジゲンに喋りかける。
「おじさん、王都って俺行ったことないんだけど、どんなところなんですか?」
「だから、そのおじさんてのはやめろ、今日からは父親になるんだそれ相応の呼び方があるだろ」
「ち、父上?」
「馬鹿タレ!父上なんて悪寒が走るわもっと簡単なのでいい」
「じゃあ、父さん?」
「もっと、くだけい」
「父さん」
「もっと」
「おやじ」
「それでいい、これから先遠慮もするでない、敬語もいらんわしとお前さんは親子になるんだ遠慮のある親子なぞわしはごめんだ」
「わかりまし......わかった」
「それでいい、これから慣れて行け、ジン」
初めてジゲンに名前を呼ばれ、照れ臭くなったジンは視線を窓へと戻すことで誤魔化した。
それから他愛無い話をして、ジンは時間を忘れてジゲンと話した。
ジゲンの初陣のことや刀のこと、ジゲンの奥さんや娘のことそのほかにもたくさん話したが、生まれてはじめての普通の会話にジンは景色を見ることなどすっかり忘れて楽しんだ。
そうしていたら、ジンはいつのまにか寝てしまったらしい。
寝ているジンを見るジゲンの顔は優しく微笑んでいた。
ジンが起きると知らない天井だった。前まで使っていたベッドより幾分か柔らかいベッドから体を起こすと、これまた知らない部屋だった。
ジンは少し考えて数時間前のことを思い出す。
(そっか、ここはおじさんの家か)
ジンはベッドから体を出して立ち上がろうとした、ちょうどその時部屋のドアが開く。
部屋に入ってきたのは、茶色の髪をした美しい女性だった。
「あら、起きちゃったの?」
「は、はい」
ジンははじめてバスター家に住む人たち以外の女性を見て少し戸惑う。
それもここまで綺麗なら男なら誰だって緊張するだろう。それがたとえ五歳であってもだ。
「あらあら、そんなに緊張しなくていいのよ?今日から私の子供になるんですから」
ふふふと笑いながら言う美女にジンの思考が止まる。
(子供?この人の?ってことは)
かろうじて動かした脳で結論に至りジンは驚愕する。
たしかにジンは馬車の中でジゲンに美しい奥さんがいると聞かれたが、正直ジンはジゲンが大袈裟に言っているだけの身内贔屓だと思った。しかし実際は事実だった。
「どうだ、ジンこいつはわしの嫁さんだ、綺麗だろ?」
ジンが絶句していると美女の後ろからジゲンが顔をだす。
「月とスッポン」
ジンはボソっと本音が漏れてしまった。
「おい、その言葉の意味はわからないが、どうもわしを馬鹿にしていないか?」
ジゲンは目を細めてジンを見るとジンは慌てて首を横に振る。
「コラ!あなたジンちゃんが怖がってるでしょ!」
(ジンちゃん!?)
ジンは心の中で呼ばれ慣れていない呼称で呼ばれて困惑する。
「むう、だがな」
「もう!あなたは出てってちょうだい!私とこの子でお話しするから」
「そ、そうか?ならわしは下でオウカと持っておる」
そう言ってちらっとジンを見てジゲンは部屋を出て行った。
部屋に残ったのはジンとジゲンの奥さんだけとなった。
部屋のドアが閉まると少しして、ジゲンの奥さんが口を開く。
「はじめまして、ルイ・オオトリよ。これからジンちゃんのお母さんになるわね。よろしく」
ニコリと微笑むルイはもはや母親ではなく聖母なんじゃ無いかとジンは思った。
これがジンとルイの初対面だった。
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