ダーズ荒野
ダーズ荒野についた青龍騎士団はその光景に唖然としていた。
左右に森林が生い茂りその森林の間にぽっかりと空いた荒野こそがダーズ荒野だ。
「数ね」
そう言ったジンは目の前の光景に身震いをする。
ジン達の面前には総勢一万を超える帝国兵が隊列を組んでいたのだ。
「こら援軍も要請するわ」
敵が一万以上の兵に対して白虎青龍合わせて一万、つまり最初白虎は五千でこの敵と戦争をする予定だったのだ。
「いや、白虎の団長が無能じゃなくてよかったな」
(変なプライドが邪魔して要請してなかったら速攻でタイランは落ちてたな)
そう思うジンは隣で戦々恐々とする小隊メンバーに少しまずい雰囲気を感じた。
(これはうちだけじゃないな)
周りを見回してジンはそう感じた。
ジゲンの演説はしっかりと士気を上げるものであったが数が数だ。今まで歴史においてもここまでの人数がぶつかり合う戦争はなかっただろう。
「いやまさかここまでとはね」
ジンは帝国がここまで本気で侵攻してくるとは考えていなかったので、正直ド肝を抜かれたと言ってもよかった。
これから始まるであろう大戦に軍のほとんどの人間が恐怖と戦っていた。
しばらくして白虎騎士団に合流した青龍騎士団は翌日開戦するであろうと上司から言われて皆、英気を養っていた。
それは第十七小隊も変わらずで皆一様に暗い顔をして配られたスープを口にしていた。
「聞いてねぇよ」
ボソっとガオンが漏らすとそれに便乗する様にトールが頷く。
他のメンバーは特に反応を示さなかったが、皆大方同様の考えだった。
青龍騎士団は四つある騎士団の中でおそらく一番実践経験が多い騎士団だ。だが実戦とはいっても多くて百名の山賊と戦ったとかその程度の実践だ。前回タイラン奪還戦に参加した者はいるが、血みどろの戦争を知らない若者も多かった。
場所は変わってジゲンはタイラン防衛の本部へと来ていた。
「団長!青龍が来ました」
「入れ」
案内の騎士の無礼な物言いをスルーしながら本部の天幕に入るジゲンとガイルが足を踏み入れる。
「ジゲン・オオトリただいま参った」
そう言うとジゲンは白虎騎士団の団長である男の前に座る。
「来たか、早速だが援軍の数を教えてくれるか」
普通はもう少し労いなどがあるがジゲンはいつもの大多数の貴族の対応に飽き飽きしていたため素直に数を教える。
「青龍騎士団総勢五千だ」
「ふむ」
(全く変わってないな)
ジゲンはそう思いながら沈黙する男を凝視していた。
彼とは騎士学校からの顔見知りではあるが当時から選民主義の男であったと記憶していた。
「そうか、では今回この戦場は白虎が任された。つまり青龍は我が騎士団の配下という形になる」
「わかっている」
「そうか、ならば話は以上だ」
「ちょっと待て、たしかに総指揮は白虎に任されていることは知っているが今回作戦や部隊配置なども知らされないのは納得できんが?」
ジゲンの最もな発言に白虎騎士団団長の男は眉間に皺を寄せる。
「必要あるまい、貴様らは我々が出した命令に何も考えず従えばいいだけだ」
「死ねと命令されれば死ねってか?」
「それが命令ならな」
「ふざけるのも大概にしろよ?ラージャ」
「貴様誰に向かって言っている?」
「お前と俺の爵位は一緒だろうが」
「成り上がりと代々歴史ある我がザバード家が一緒だと?貴様斬られたいのか?」
「やってみるかよ?」
険悪な雰囲気の二人をガインが止める。
「団長、そこまでだ。たしかに今回は団長の言葉が過ぎる。これ以上の口論は生産的じゃない」
「ちっ!」
ガイルに止められてジゲンはその殺気を大人しくさせる。
「ラージャ団長殿、我々も正式な援軍である。勝手な判断で決断を下すのはあまりいい考えではないように思うが?」
これは暗にガイルが上に報告するぞと脅しているのだ。
「ふん」
その意図を察したのかラージャはそれ以上何も言わなかった、ただ単に彼は青龍騎士団、いやジゲンに嫌味を言いたかっただけなのだ。
話し合いとは言えない問答が終わるとジゲンは「デイナーであればな」とぐちぐち言いながら天幕を出るのだった。
そんなやりとりがあったなどわかるはずもない青龍騎士団全部隊に伝令が入る。
それはこの戦争の指揮権は白虎騎士団にあると言う伝令だ。
これには多いに反発も出たが結局のところ通ってしまったといった形だった。
(マジかよ、俺の最初のあれは何だったんだ)
結局ジンの最初の立ち回りは部下に嫌われるという形だけで終わってしまったことに本気で後悔した。
「言っても遅いか」
そう言うとジンは気を取り直してメンバーに振り向く。
一人一人の顔を見て何か言おうかとも考えたが今からどうしようも何もできないと思いやめるジン。だが隊長として彼らを死なすことは許されないと静かに誓うのだった。




