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ため息

「なぜだ!」


 ドールはリナリーの答えに詰めよって肩を掴もうとする。

 その行動に怯えた様に一歩後ずさるリナリー、だがドールの手はリナリーに届くことはなかった。

 何故ならそのいく手にはジンが体を滑り込ませたからである。


「貴様、何のつもりだ?」


「殿下、女性に対して大声を出して詰め寄るなど紳士のすることではありませんよ」


「き、きさま!成り上がりの子供の分際で俺に指図する気か!?」


 ドールは激昂のあまり気付いてはいなかったが、ジンとリナリーの間には大人四人分と言った距離があった、それに比べて一緒に入室してきたドールはリナリーとほぼ距離のない位置にいた、だが詰め寄ろうとするドールの間に割って入ったジンにキリルとディノケイドは驚きを隠せなかった。

 確かにジンが間に入ることは武門の家出であればできなくはないだろう。だがそこに行きつくまでキリルとディノケイドは全く認識出来なかった。

 一言で言えば異常である。

 二人はジゲンに顔を向けるがジゲンは話に取り残されており、それどころではなさそうに呆けていた。

 ドールが憤りのあまり黙ってしまうとジンは後ろに振り返り、綺麗に一礼する。


「先程は多くのご無礼、誠に申し訳ありません」


 ジンが謝っているのは先程の急な告白についての謝罪だった、貴族社会においてあんなど直球かつ大胆な告白はあり得ないと言ってもいい。しかも身分の上の人間に対してダンスを要求することすら失礼に当たる事だ。求婚などもってのほかである。

 そのためジンもしっかりと謝罪はしなければいけないと思い、頭を下げるのだ。


「いいえ、気にしておりません」


「ですが」


 尚も謝罪をしよとするジンに被せるようにリナリーが言う。


「私もジン様が自己紹介してくださったのに私は自分の紹介が至らず、大変失礼しました」


「そんなことはありません!」


 ジンと同じように頭を下げるリナリーにジンは慌てて問題ないと伝える。


「では、お相子ということでどうでしょうか?」


「......ありがとうございます」


 ジンはリナリーの優しさにお礼を言ってまた頭を下げる。その光景は尻に敷かれる旦那と優しく尻に敷く妻のやりとりに見えて、先程ジンの行動に驚いていたキリルとディノケイドは自然と頬が緩む。

 だがそれを静かに見ていることなどできない人物が一人いる。ドールである。

 ドールはこれでもかと顔を真っ赤にしてまるで熱々の鍋に入れたタコのようだった。


「貴様!俺を無視してリナリーと会話とはいい度胸だ!誰に許可をとっている!」


 ジンは静かに振り返るとしっかりとドールの目を見て言う。


「誰かの許可が必要なのですか?」


「当たり前だ!俺を目の前にして貴様何様だ」


「殿下が私とリナリー嬢との会話を許可する権限をお持ちなのですか?」


「その通りだ!」


「何故でしょうか?」


 この場で会話を縛る事が出来るのはディノケイドとキリル、それにジゲンだけだ。ベータル王国では何よりもその代の当主である者の身分が重要視される。

 確かに王太子と言う身分は高いがそれでもこの場では男爵家当主の方が身分は上なのだ。


「リナリーと俺は婚約する予定であるからだ」


 言い切ったドールにディノケイドは大きなため息をつく。

 ディノケイドはロイとドールを同じような環境で育たせたと自負がある。がドールは欲望的に、ロイは理性的に育ってしまったと痛感した。

 そして今回の件で、ドールにこのままではいけないと示唆して場を設けたが、どうやら息子は期待に応えてくれそうにないと、ついため息が出てしまったのだ。

 ディノケイドは父である。息子が可愛くないわけがない。だがディノケイドは父である前に王である。

 その肩には王国国民の命が乗っかっている。そのため自分の後を継ぐであろう二人には父ではなく王として向き合わなければならないと認識していた。

 だからこそ出たため息だった。

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