出会い
良いお年を
その日は晴天だった、珍しく家の者が慌ただしく動き回っていた。
ジンは一人、名前も知らない使用人を呼び止めて事情を聞くと、使用人は心底めんどくさそうに答えた。
「今日は、国王様がお見えになられて皆、てんやわんやです」
これにはジンも驚いた、まさか国王が家に来るとは思いもしなかったからだ。
だがここでジンは素直に疑問に思ったことをを使用人にぶつける。
「それなら、前々から準備しておけばよかったんじゃ」
そう言われて使用人は盛大にため息を吐きながら、返答した。
「いえ、それが今日の朝に使者が来て急な訪問になると報告を受けて直ぐに到着された次第でして」
「あぁ、なるほど」
ジンは家の事柄に対して何も話を聞いていないので、そういうことかと納得した。
引き止めてごめんと使用人を解放すると、使用人はまた忙しそうに廊下を早歩きしていった。
「そうか、陛下か」
ジンはボソっと呟いて、なんの気無しに庭に足をむけた。
ジンからしたら王様とかその辺の祭り事は本当に無関心だった、なぜならジンは屋敷から出たこともなく屋敷の中でも隔離された存在だ、そんな外のことなどもはやなんの関心も湧かないのである。
ジンが庭でいつも本を読む木の下まで行くと見知らぬ黒いコートのような物を着ている黒髪の男が胡座を描いて舟を漕いでいた。
なんでこんなところに?盗賊か?とも思ったが、ここまで入ってきて、しかも眠っているということは身元が取れた人間であるだろうと結論を出し、起こさないようにそっといつもの位置に座り本を読み始めた。
どれくらい時間が経っただろうか、本も読み始めて半分に差し掛かるかどうかというところで、隣から身じろぎをする気配がしてジンはそちらに顔を向けた。
「んん〜、よく寝た〜」
「おはよう、おじさんここはいい日照りだし眠くなるよね」
「おお、おはよう坊主確かにここはいい場所だ。ところでふつうに話しかけたがおまえさんは誰だ?」
「あぁ、俺、いえ私はバスター侯爵家が三男のジル・バスターです」
「おお、いつも使うしゃべり方で構わんよ、そうかここの子かそれはすまんな、お前さんの特等席だったか?」
「そーですね、ここはいいところなのに皆は来ませんから」
「ふむ、ところで坊主、お前さんはわしが誰なのか気にならんのか?」
「気になるにはなりますが、ここまで入って来て眠っているってことは盗賊って線はほぼないですし、陛下が訪問されているということは聞いていたのでそれに連なる方なのかなと」
「ほう、賢いな」
中年の男は、ニヤニヤして無精髭を生やした顎を手でさする。
「たしかにな、ここで寝てるよな盗賊は馬鹿か肝の相当座ったやつ......いやただの馬鹿か」
「ですね、それで結局おじさんは誰なんです?」
「おお、そうだったそうだった、わしはジゲン・オオトリだ」
「オオトリ.....東の出のかたですか?」
「おお、物知りだな坊主その通り東は大和の出だ」
「知っています!東の国には一度行ってみたかったんです!」
「お、おうそうか」
ジゲンと名乗った男にジンが食い気味に詰め寄るとジゲンは若干引き笑いをした。
「すみません、少し興奮しました」
「いや構わんよ、そこまで祖国に興味持ってくれる若者は珍しくてな少し驚いただけだ」
「本で読んだのです。東では刀と呼ばれる片刃の剣で剣術は世界から見ても他の追随をゆるさないという」
「そこまで言ってくれると恥ずかしいな」
ジゲンは自分が褒められたわけでもないのに嬉しそに笑った。
「坊主は、剣を握るのか?」
「一応、独学ですが」
「ほう、俺もお前さんが言う刀を使う剣士だ少し教えてやろうか?」
気をよくしたおじさんは、そんな提案をしてきた。
「本当!?ちょ、ちょっと木刀を取ってくる!」
ジンは記憶にある、侍に剣を教えてもらえることに興奮して急いで部屋にお手製の木刀を取りに走ったのだった。