『愛』
幼少期はバンバン飛ばしてこーかなーって思います。
ジンがオオトリの人間になってから三日がたっていた。
「ジン、そろそろ慣れてきたか?」
朝食の時間、三日たったジンにジゲンはここの生活は慣れたかと尋ねる。
「だいぶ」
ジンはそっけなく答えるが、これはジンが人と話す経験が今まで極端に少なかったため無愛想になってしまう。そのことをジゲンもなんとなく察していたため何も言わずうなずくだけにとどめた。
だが朝食は静かということもなくルイが時折話を振ったり、オウカが口の周りを食べ物で汚してルイに笑いながら叱られてたりと和やかにすぎていく。
ジンももっと新しい家族と喋りたいとは思っていたがこればっかりは時間が必要だった。
朝食が終わりジゲンは刀の手入れ、ルイは裁縫、オウカはおもちゃで遊ぶという各々が好きなことをやりだすなかジンは手持ち無沙汰になりどうすればいいのか分からずただ座っていた。
今までならすぐに図書室に向かって本を読んだり刀を振ったりしていたが、ジゲンの屋敷には図書室などなかったし、刀を振りに行くという選択も今は違う気がした。
何もすることのないジンにジゲンやルイはどう話しかけるかと悩ませていると小さな人影がジンに歩み寄る。
「あのね、オウカ、いま、おひめしゃまごっこなの」
「え?」
急にジンに話掛けたのはオウカだった。
「だからね、あのね、オウカがおひめしゃまなの」
「そ、そうなのか」
「うん、だからね、えっとね、おうじしゃまやってほしいの」
「王子様?」
「うん」
急に王子様をやってほしいと言われたジンは少し困惑する。
今まで同年代と遊ぶのはもちろん話したこともゾール以外にいないジンはどう、反応すればいいのかわからなかった。
困っているジンに見かねたルイはオウカを心の中で褒めながら、ジンの背中を押そうとする。
「ジンちゃん、オウカもこう言ってるし、少し遊んであげてもらえないかしら?」
ルイの優しい声色に冷静さ取り戻したジンはオウカに向き直り、頷く。
ジンとオウカが遊び出すのを見ていたジゲンはオウカに先をこされたことに少し不甲斐なさを覚えると同時にあの人見知りのオウカがジンを遊びに誘ったことを喜んでいた。
オウカの要求にいちいち慌てながらも優しく対応するジンに自然と笑みが溢れた。
ジンとオウカが遊んでいるといつのまにかお昼の時間になった、朝食と同様に皆が席につき食事を始める。
朝食の時は静かだったオウカは打って変わってジンに色々話しかける。
「あのね!おひめしゃまがこまってたら、おうじしゃまはぜったいたしゅけにくるの!」
「そ、そうなのか。すごいな王子様は」
「うん!しゅごいの!」
まだ、舌足らずに説明しているオウカにジゲンとルイは顔を見合わせて微笑む。
「あう」
興奮気味に喋っていたオウカが急に黙る。
不思議に思った皆がオウカに視線を向けるとオウカは昼食の皿をじっと見つめていた。
オウカの見つめる先に皆が自然と視線を下げると、そこにはリャンピンとうい緑色の野菜があった。
リャンピンは体にいいとされた野菜ではあるのだが独特の苦味から子供はあまり好かない。
それを見たルイがオウカにしっかり食べるよう注意しようとしたが言葉が出る前に横からヒョイっとリャンピンが掻っ攫われていく。
リャンピンを掻っ攫ったジンはポイっとリャンピンを口に入れるとしっかりと咀嚼して飲み込んだ。
目をパチクリさせるオウカへジンは笑う。
「オ、オウカ今日だけだよ?」
ジンがぎこちないながらもニコリとしながら始めてオウカの名前を呼ぶ。
「ありがと!にーしゃま!」
オウカも満面の笑みで初めてジンを兄と呼び、これじゃ注意などできないではないかと困ったようにルイは笑い、ジゲンは何も言わずに嬉しそうにパンを口に運ぶ。
ジンはオウカの笑顔で心に広がる暖かさをまた感じていた。
ジンは今まで優しさとは無縁の人生だった。
断片的にある前世の記憶にそれらしい記憶の欠片はあったが、それは記憶であって体験ではない。つまりジンは今までの五年間で人を思いやるとか、ましてや『愛』などという感情は知識しかなかった。
だがオオトリ家にきてから何度も暖かく広がる感情に、ジンはこれが優しさなのだと、これこそが『愛』なのだと初めて思った。
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