サッカー好きは偽物だけど、君への気持ちは本物だから
美しく整えられた緑の芝生の上を11人の選手が走り回る。最大で6万人を収容できるスタジアムには、赤色のチームグッズを身につけたホームチームのサポーターがぐるりと囲みピッチ上の攻防を見守っていた。
序盤から赤いユニフォームのホームチームがボールを長く保持して相手陣内でプレーし続ける一方で、上下白いユニフォームの相手チームはホームチームの猛攻を耐えつつボールを奪ってから素早いカウンターを狙うという構図が続く。
キックオフから10分。ホームチームの背番号9がゴール前で相手ゴールキーパーと1対1の場面を迎えた。「決めろー!」と俺の右隣で少女が叫ぶ。同伴者の横顔を見つめた数秒後、腹に響く咆哮と万雷の拍手が沸き起こった。
近所の公立高校に入学した俺はやりたいことが見つからず部活に入るタイミングを逃し、友だちは数人できたけどあまり遊ぶこともなく、放課後は学校の図書館で本を読むか勉強をする日々を過ごしていた。
梅雨に入り陰鬱な曇天の日、俺は図書館の新聞コーナーでぼんやりとスポーツ欄を眺めていた。
「ねぇねぇ、岩下君。昨日のサッカーの試合観たの?」
突然後ろから声を掛けられてビクッとしながら声の方向を見ると、同じクラスの家入杏里が立っていた。
「昨日の日本代表戦、本当に興奮したよね。チームとしての完成度が上がった感じがする。」
そう切り出すと、昨夜の試合で興奮したプレーや日本代表が用意した戦術について身振り手振りを交えて語り始めた。
家入の話しは、サッカーは日本代表くらいしか知らない俺にはよくわからなかった。ただ、サッカーについて話している時の家入の笑顔は澄み渡る青空のように美しい。
「岩下君。大丈夫?引いてない?私キモい?」
「そんなことないよ。本当にサッカーが好きなんだね。」
彼女の笑顔をいつまでも見ていたい、サッカーを愛する彼女と同じ時間を共有したい。そのためなら俺は嘘をつこう。偽物になろう。
「俺でも楽しめるように、もっとサッカーのことを教えてくれないかな?」
彼女は少し息を飲んでから口角を上げてうなずいた。曇天の切れ間から差し込んだ夕日に二人は包まれ、西日に照らされる埃は今日の出会いを祝うようにキラキラしていた。
サッカーを好きだという俺の気持ちは偽物だ。だが、家入と同じ時間を過ごしたい気持ちは本物だ。嘘がばれるのが先か、想いを伝えるのが先か。片想いのゴールをつかむため俺の頭の中でホイッスルが鳴った。
作品を読んでいただき誠にありがとうございます。
青春ラブコメ?小説の冒頭という形でまとめてみました。
杏里ちゃんのサッカー好きの由来とか、幼馴染のサッカー部員とか、二人の今後の関係とか色々考えてみたのでこれからも書いてみたいです。
台詞を上手く書けるようになりたい今日この頃です。
なろう大賞2に向けて「泣きおにぎり」という作品も投稿しているので合わせてご覧ください。