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新小川原湖物語  作者: すけごろう
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第3話 2

2


族長あにき、よかったんですかい?シババの邑からむりやり都のアイドルを連れてきちゃって?」

 イノシシにまたがった小柄な男の子がアギラの乗ったイノシシの隣に来て話しかけています。

ちなみに、アギラが乗っているイノシシの上の玉代姫はイノシシの揺れで車酔いならぬ、イノシシ酔いをしてしまってグロッキー状態。目をまわして、なにも考えられないヘロヘロになっています。


「イトヨか?うーん、勢いで連れてきちゃったけど、やっぱりヤバいよなー。どうしよっかなー。返した方がいいかなー?でも可愛いから本当にオレの嫁さんにしてもいいよなー」

族長あにき、モテませんからね。そんなきれいな子は無理じゃないですか?緊張して」


 アギラは無言でイトヨと呼ばれた男の子の頭を思いっきり殴りました。


 アギラとイトヨ、二人だけのイノシシ暴走族が小川原湖の南にある、名もない沼、じもとでは『あの沼』と適当に呼ばれていた沼に近づいたとき、遠くの林の中に総勢十名ほどの男たちが歩いているのを見かけました。背中に大きな荷物を背負っています。行商人でしょうか。シババのいる邑に向かっているようです。


 物陰に隠れてよく見ると、この辺では見たことがない男たちです。顔には傷があり、着ている物はここよりもさらに北方に住んでいるアイヌの行商人に似ていますが、なにか剣のようなものを腰にぶら下げています。

彼らからは歴戦のツワモノというか、血なまぐさいというか、とにかく狂暴で物騒な雰囲気がプンプンしてきます。とにかくヤバそうです。

さすがのイノシシ暴走族も「びびってない」と言いつつ、見つからないようにスピードを落として静かにそーっと横を通り過ぎようとしました。


 そのとき玉代姫が目を覚ましたのです。

「あんたたち、わたしをかどわかしてどういうつもりよ!」

「わわわ、静かにしろ!気づかれちゃうじゃねえか!痛てて、手をかじるな!」

「ふふふぁい!わふぁふぃを、ふぁえふぃなふぁいよ!(うるさい!わたしを、返しなさいよ!)」


すると遠くの一団がアギラ達に気がつきました。

「誰だ、そこにいるのは!隠れてないで出てこい!」


 空気を読めない玉代姫がアギラの隣で大声を上げます。

「助けてー!わたしこのイノシシ軍団に拉致されたの!そこの人たち、助けなさいよ!」


「おおう。任せろ!」

 と言ったとたんに男たちは刀を鞘から抜いて一斉にアギラの方へ駆け寄ってきました。

アギラとイトヨはもちろん武器も持っていません。慌ててイノシシを発進させようとしますが、イノシシもびっくりしているのかなかなかいうことを聞きません。

そうこうしているうちに、アギラ達は十人もの男たちに囲まれてしまいました。


「ほほう、これは都の貴族の姫君の恰好をしているじゃねえか。もしかしたら朝廷のお姫様か?どうしてここにいるかわからんが、そんなことはどうでもいい。俺達にとって都合がいいか、悪いかだ。まあちょうどいいな、このイノシシのガキともどもひっ捕らえろ!」

リーダー格の顔に大きな傷のあるひときわ大きい男が指示をすると、周りの男どもは腰から縄を出して、いとも簡単に玉代姫とアギラをぐるぐる巻きにしてつかまえてしまった。

唯一つかまえられなかった、イトヨという少年だけがイノシシでどこかへ逃げて行ってしまいました。


「まあ一人ぐらいいいか。さて、このさきのシババの邑まで連れて行ってもらおうか?都から来ているという橘中納言と交渉に使えるいいおみやげができたもんだ。俺たちは蝦夷地の先にある粛慎みしはせから来た一族だ。俺の名前は鰐鮫わにざめという。別に憶えておかなくてもいいぞ。そのうち嫌でも知ることになるだろうからな。この地の支配者としてな、くくく。さて、俺達はこれからこの先のシババの邑に行くが、お姫さん達はここの沼で待っててもらおうか?」


「放しなさいよ!なんでまた捕まってんのよ!もっと怖そうな人に!」

「お前が騒ぎ立てるから見つかっちまったんじゃねえか!この馬鹿が!」

「うっさわね!馬鹿いうな!うん?今、粛慎みしはせって言ったわよね?たしか比羅夫が今度攻めていく最終的な目的地の名前が粛慎っていわなかったっけ?」


それを聞いた鰐鮫わにざめが表情を変えました。

「なに、比羅夫だと?阿倍比羅夫のことか?お前はエミシ総攻撃のことを何か知っているのか?これはいいものを手に入れた。お前にはいろいろと聞きたいことがあるからな、絶対に逃がしはしないぞ」

「ええー?なんで?わたしなんにも知らないわよ!」

「嘘つけ!粛慎って地名を知っているだろう?それだけで十分だ。最初はお前をシババの邑との交渉に使おうと思っていたが、やめた。朝廷が粛慎を攻撃してくるというなら、お前は朝廷との直接の交渉とりひきに使わせてもらう」


 大変なことになりました。自業自得とはいえ、玉代姫最大のピンチです。

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