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新小川原湖物語  作者: すけごろう
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第2話 1

第2話 蝦夷えみしの邑にて


「なあー、シババ。いい加減あきらめて恭順してくんないかなー?恭順したらいいことあるよ?えーと、都から美味しいものが宅配便で送られてくるとか?毛ガニとか新鮮なやつ。もしくはふるさと納税の返礼品とか?自分で選べるギフトもつけちゃうよ」


 ここは朝廷の都の人たちが蝦夷えみしと呼んでいる、今の東北の北の方です。日高見国ひだかみこくとも呼ばれていました。

当時そこに住んでいた人たちは、続縄文文化と呼ばれている狩猟を主とした半定住生活を営んでいたとようです。

ちなみに蝦夷というのは朝廷が自分たちの言うことを聞かない連中のことを蔑むために付けた蔑称です。唐の国と交流して中華思想にかぶれてしまった朝廷の貴族たちは、まつろわぬ民のことをひとまとめにして蝦夷えみしと呼びました。本作では別の名称を使いたかったのですが、ちょうどいい名称がなかったのでここではあえて当時の呼び名として使わせてもらいます。このお話ではここから先はカタカナでエミシと記述します。集落はむらというひと固まりの単位としました。

ここの邑はこの辺りでは比較的大きい方で、三十軒もの住居が集まっていました。


 都の中納言、つまり大臣の次に偉いはずの官僚、橘中納言道忠たちばなちゅうなごんみちたださんはむらの取りまとめをしている老婆に毎日お願いをしに来ています。

老婆の名前はさん。みんなはのお婆さんでシババと呼んでいます。シババは一見七十歳くらいで顔には深いしわが刻まれていますが、目が二重で彫りが深くえらのはったいわゆる縄文顔。腰は曲がっておらず姿勢のいいかくしゃくとした元気はつらつのお婆さんです。


 道忠さんは一応中納言という大臣の次に位が高いので、文官朝服もんかんちょうふくという、文官が仕事の時に着る公服を着ています。頭には黒い頭巾、服は丸首のオーバーオールのようなほうと呼ばれる着物、下には白袴、手にはしゃくを持っています。春なのに肌寒い北国では場違いで薄着でとても寒そうです。

ちなみに、道忠さんの顔は一重の細い目にのっぺりした顔、眉毛は薄くていわゆる弥生系。あごには短いひげを生やしています。全体的に頼りなさ臭がプンプンしてきますね。

一方、シババや他のエミシの人たちは、都の絹や綿を使った衣服とは違って、縫い目の荒い麻のシャツの上に獣の毛皮を着込んでいます。これは機能性重視で暖かそうですね!


「道忠、ダメダメ。美味しいものならこっちの方が新鮮でおいしいものがたくさんあるだろう?あきらめな。恭順してもわしたちにメリットはないだろう?どうせ都から遠くて、そう簡単に攻めても来られないだろうしね」

「八甲田のお山の太平洋側こっちがわ蝦夷えみしはもともと朝廷に反抗してなかったからいいけど、西の方、つまり日本海側の蝦夷えみしは未だに反抗してるから、今度朝廷から大船団を出して総攻撃するって決まったんだよ。船だったら一度にたくさんの戦人いくさびとを送れるからね。こっち側はまだ攻撃の予定はなくて、オレが偵察して交渉して恭順させろって言われて来たんだよ。攻撃されちゃったら困るだろ?」


「ふん。それくらいの情報は持っておるぞ。わしらを甘く見てもらったら困る。都の動向は常にチェックしておるからの。現におぬしらの大王おおきみは去年の末に病気で崩御されたと聞いておるぞ。崩御前に寝込んでいるときに、すでに政権を皇太子に乗っ取られて、都まで勝手に移されておるだろ?」


「よく知ってるな。じゃあさ、都では新しく仏教ってのが流行ってるんだけど、大王おおきみがこれを推奨してたんだよ。この辺に仏教のお寺を建てさせてもらったら、見かけだけでも恭順したってことになるから、実際は恭順してなくてもわかんないし。どう?折衷案せっちゅうあんってことで。えーと、神仏習合しんぶつしゅうごうって感じの?意味違ったっけ?まあいいや」

「わしらは昔からアラハバキの神さんを守って来ておるから、今更よその宗教を持ってきても迷惑だし、興味ないから信じないよ。仏教ってのも知っておるぞ。大陸から来た仏さんの話だろ?遠い天竺でブッダってのが広めたのがシルクロード経由で唐の国に伝わって、そこで勝手に改変されて、それが大和の国に輸入されて来たという。グローバルスタンダードをローカリズムに合わせて最適にモディファイされたっちゅうやっちゃな。どうせ朝廷のインテリが唐の都にあこがれて最先端の文化と称して持ち込もうとしたんじゃろ?唐との貿易摩擦の緩和にも使われてるんだな。あちこちで自国ファーストがまかり通っておるからの」


「うーん、しぶといな。どこかで聞いたことあるような話だし。それはそうと、なあシババ、さっきから言っているメリットとかチェックとかって言葉は何語だ?グローバルスタンダード?交易しているアイヌの人たちが使っている言葉か?」


「そんなことも知らぬのか。ナウでヤングなシティボーイかと思っておったが、ただのMiddle Aged Manおっさんじゃったか」

「なんかとても失礼なことを言われたような気がする・・・。意味わかんないけど。なんかくやしい」


「そうじゃのー。隣の邑と仲良くなれるようになったら、考えてやってもいいぞ?

あやつらいつも難癖付けてちょっかいかけてくるから、うっとうしいんじゃ」

「えー、隣って小川原湖の北の方に住んでる、たしか族長あにきがアギラとかいった乱暴な連中だろ?嫌だよ、怖いし。なにされるかわかんないもん」

「じゃあ、交渉決裂じゃの。さあ、帰った帰った」

「うー、わかったよ、シババ。なんか考えてみるよ・・・」

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