表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新小川原湖物語  作者: すけごろう
2/16

第1話 1

第1話 難波にて


 今から千三百年以上昔のお話です。歴史の区分では奈良県の明日香村に都があった飛鳥時代と呼ばれていた時期になります。

このお話が始まる西暦654年の時点は大化の改新で有名な孝徳天皇 (当時は大王おおきみと呼ばれていたそうです)ご在位で、大阪の難波長柄豊碕宮なにわのながえのとよさきのみやに都がありました。

西暦645年に蘇我体制へのクーデターである乙巳いっしの変で蘇我入鹿が中大兄皇子(後の天智天皇)と中臣鎌足なかとみのかまたりたちに討たれてから九年が経ちました。大化の改新による律令制度が押し進まれて、天皇を中心とした律令国家が着々と作られていく、変革が朝廷から地方豪族に向かって嵐のように進められた時代になります。


 天皇の部下に橘中納言道忠たちばなちゅうなごんみちたださんという朝廷で大臣の次に偉いお仕事をしていた公家くげのおじさんがいました。

おじさんには二人の娘さんがいました。姉は玉代姫たまよひめ、妹は勝世姫かつよひめといいます。二人は都では評判の美人姉妹と言われていました。


 二人はきれいなお着物を着て、広いお屋敷の中でお話しています。

「ねえ、っちゃん、わたし求婚されちゃったみたいなんだ、お父さまの上司のなんとかというお爺さんに。なんて名前だったっけ?」

そう、とぼけたことを言った玉代姫は采女うねめという天皇のお世話をする女官をしていました。玉代姫は花の十六歳、今でいう女子高生の年齢にあたります。少しつり目の勝気な顔をした元気っ娘、それが玉代姫。

玉代姫は頭の上で髪をまとめた宝鬢ほうけいとよばれる髪型にかんざし状のかざりをつけ、内裏にあがる正式な服装としての女官礼服を着ていました。

それはたった今、宮殿のお仕事からお屋敷に帰って来たばかりだからです。礼服はきぬとよばれる広い袖の朱色の着物、下にはと呼ばれるはかまのような薄緑色のスカートを履いています。

この辺わかりにくいですね。簡単に言うと飛鳥時代の貴族のお嬢さんの恰好をしていた、ということですね。余計わかりにくいですか?


「お姉さま、巨勢徳多こせのとこた様のことですよね?忘れちゃダメですよ、左大臣さだいじん様なんですから。それにしてもあの方はもう五十歳超えてますし、奥方様や側室もいるじゃないですか。いいんですか?それにお姉さまには婚約者の阿部比羅夫あべのひらふ様がいるんじゃないですか?」

妹の勝代姫はおっとりとした顔の十四歳ですが、近所では姉よりもしっかりしているともっぱらの噂です。


「嫌に決まってるじゃない!あのお爺さん、会うたびに嫌なこと言うのよ?『十六にもなってまだ嫁にもいかないのか?』とか『お嬢ちゃんかわいいねー、おじさんが可愛がってあげるよー』とか、肩に手を乗せてくるのよ!セクハラよ!訴えてやる、あのエロおやじ!」


 この時代にセクハラという言葉があったかどうかは別として、玉代姫は大王おおきみの身の周りのお世話のために内裏だいりへ上がることも多いので、どうしても皇太子や左大臣などといった位が高い人と接する機会が多くなります。

 現在の大王おおきみは病に臥せっておられるのに、皇太子の中大兄皇子なかのおおえのおうじ様とか中臣鎌足なかとみのかまたり様は勝手に大和の地に都を移してしまったのです。そのために大王おおきみが住んでおられる難波なにわの宮にはお役人や警備の人も少なくなり、だんだん治安が悪くなってきました。


「お父様は春からはるか遠くの蝦夷えみしが住むみちのくへ一人で出張に行って、いつ帰ってこられるかわかんないし、変なお爺さんには求婚されるし、どうなってんだろうねー。比羅夫ひらふはいつ都に帰ってこられるのかなー?」

「お姉さま、阿倍比羅夫あべのひらふ様は水軍の練習で越後の方に行っておられるので、しばらく戻られないと先日、木簡もっかんでお手紙があったばかりではないですか?」

「そーだっけ?木簡来てた?比羅夫ひらふもお手紙じゃなくて直接会って言ってくれればいいのに。ぶーぶー」


「えーと、それはどうかと、越後は遠いですので・・・。それからきな臭いお話を聞いてまいりました。お父さまですが、此度の出張はただのみちのくの蝦夷えみしの現状視察ではなく、左大臣の巨勢徳多こせのとこた様の陰謀によるものとのもっぱらの噂ですよ。

お父さまは左大臣様に嫌われたため、みちのくのさらに北の方のまだ朝廷の御威光が届いていない蝦夷えみしを服従させるまでは帰ってきてはいけないと命令されてお出かけになられたそうです」

「うわ、ひっどーい!じゃあお父様一生帰ってこられれないじゃん!ウチどうすんの?ろくもらえなくなっちゃったらごはん食べられなくなるよ?」

「それはご心配はいらないかと思いますけど・・・。それよりもお父さまの御心配は?」


「ところでっちゃん、どこでそんな話聞いてくるの?なんでそんなこと知ってるの?」

「わたくしは目的のためには手段を選ばない姫と呼ばれておりますから、なんでも知っているのですよ、ふふふ。お姉さまはお聞き及んでいませんでしたか?」

「聞いてないわよ。そんなの!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ