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新小川原湖物語  作者: すけごろう
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あとがき

あとがき。または本編で活かしきれなかった背景など


 オリジナルはすけごろうが「小説家になろう」で同じく連載中の「まきますか?まかれちゃいますか?」六巻目の作中作でした。

それを加筆修正して再録しています。


「まきますか?まかれちゃいますか?」では、作中の鉄火スズという女の子の語りで物語が導入されます。

彼女は義理の姉になる中学校の社会科教師に頼まれて、青森県の東側にある小川原湖の伝説を調べて、劇の脚本を書こうと考えました。しかし時代背景を調べていくうちに、いろいろなことがわかってきました。彼女はそのままの内容にしなかったというのが流れになります。


 舞台は日高見国のかなり北の方。簡単に言うと青森県の小川原湖の南側の三沢市になります。

エミシの小さな集落という設定なので、竪穴式住居が集まった感じです。それぞれの小屋にはかまどから出る煙を排気するための煙道が屋根の所についています。

時代的にはこの辺りは続縄文文化ぞくじょうもんぶんかです。稲作も少しされていた証拠もありますが、気候的に安定して作物を収穫できたとは考えにくいので、基本的には狩猟や漁業を生活の基盤としていた、つまり半定住生活をしていたと思います。

それに加えて、北海道の蝦夷の人と交易を行ってもいたのではないかと推定します。そんなに頻繁ではなかったでしょうけど。


 この時代の少し先で編纂された『日本書紀』には、エミシの住む東北は未開の地で、文化程度も低く野蛮な人だけが住んでいた、というようなことしか書かれていませんでした。

あらましは、『社会的に未熟で、首長がいなくて、秩序がなく、農耕をしらなくて、乱暴で、血を飲んで、毛皮を着て、穴に住んで、人の恩を忘れて、恨みを忘れないで、農耕地帯を荒らして、野山を逃げ回って、弓矢を頭にさして、刃物を持って歩く』と、かなり好き勝手に書かれているくらいです。

しかし最近の研究ではもっと文化的であったと判明して来ています。それに東北の南の方のエミシからは毎年のように朝廷に貢物を献上していたようです。

これは当時の為政者側が自分たちの都合のいいように、または情報が足りないなかで書いた文章だけが残っているためでしょうか。


 食生活については、基本的に狩猟が多かったために春から秋までは食べ物が豊富だったと思われます。しかし雪深い東北のこと、冬は厳しかったのではないでしょうか。稲作もあんまり進んでいないので、秋の内に貯えた保存食も塩辛いのばかりになるでしょう。青森の人が塩分過多で平均寿命が短いのはこのころから伝統的に続いてきたのかもしれませんね。

小川原湖沼群はいまでも冬はカモやガンが多く飛来してくることで有名です。きっと当時もたくさん来てたでしょうから、冬に獲物が全く取れなかったわけではないでしょう。

冬の太平洋の海は荒れて漁には出にくかったかもしれませんが、汽水湖(真水と海水が混ざっている湖のこと。浜名湖や宍道湖が有名)である小川原湖は波も穏やかで魚介類の種類も豊富なので比較的漁もできたでしょうね。

 それでも冬の寒さは厳しく、年によっては豪雪にもなるので、子供とかお年寄りが冬を越すのは大変だったと思います。


 エミシの組織についての記録までは調べがつきませんでした。なので本物語では邑という小単位の集落として、とりまとめの老人がいるということにしています。本物語には登場しませんが、もっと古い時代には日高見国ひだかみこくや他にもあった朝廷にまつろわぬ民族には代表として魁師ひとごのかみと呼ばれた人がいたみたいです。


 冒頭で蘇我の入鹿殺害の話でも挿入しましたが、歴史書に残された記述が全て正しいわけではないと思っています。敗者の歴史は勝者に書き換えられたり、塗りつぶされたりして、本当の姿はわからなくなってしまうのでしょう。

そのいい例が「日本書紀」だったり、「古事記」だったりで、時の政権が自分の正当性を世に広めたり後世に残すために、自分たちの都合のいいように記述させたと思っています。

世に偽書は多いですが、極論を言うと正史といわれるものでも疑ってかかる必要はあります。後世の我々は限られた資料のなかで想像していくしかないのです。

おかげで妄想がはかどって、小説ネタに事欠かないのですけどね。


 最後に。

物語にはヒーローとして阿倍比羅夫を登場させました。この人は第4話の時期から歴史に登場していきます。この人はとても興味深い活躍をしています。

皆さんご存知のように、阿倍比羅夫はこの3年後の斉明4年、西暦では658年に180隻の水軍を引き連れて日本海を北上し、秋田県の恩荷おんが氏を降伏させて、さらに北海道の南側、渡島地方のエミシをも平定していきます。

比羅夫は攻めたエミシたちを捕虜にしましたが、その都度饗応してくらいをあげたりしているのです。恭順したらもう仲間だからこれ以上は攻めないぞ、と言っているような感じがしました。

歴史の資料として残っている彼の行動がそれを感じさせるのです。

彼は660年に蝦夷平定を完了したあと、休む暇もなく2年後の662年に中大兄皇子の命令で朝鮮に向かって、663年に白村江で新羅と唐の連合軍と戦って敗北し、生死がわからなくなっています。いくら優秀な将軍とはいえ、どうしてこんなにこき使われたのでしょうか?彼はどうなってしまったのでしょうか?

手塚治虫先生の『火の鳥太陽編』では阿倍比羅夫はお年寄りの将軍でしたが、白村江の戦の後に現地で助けられて日本へ戻って来ていましたね。いろいろな想像がはかどりますね!

彼の子孫も大活躍しているので、いつかその辺のことも執筆してみたいと思っています。

では、またいつか続編ができましたら。


 ああ、言い忘れました。最後の「どんだんずー!」とは青森放送のラジオのコーナーで一世を風靡した、「物事がうまくいかなかったり、理不尽な目にあった時に叫ぶ心の声」だとご理解ください。どんだんずー!


【参考文献】

「新小川原湖物語」以外に、「まきますか?まかれちゃいますか?」本編も含めて日本の古代史パートの執筆にあたり、下記書籍を参考にさせて頂きました。どれもお勧めです。

まだお話に生かされていないところは今後の展開に影響が出てくるものもあります。

縄文・古代史関連を渉猟していたら短期間でこんなに読んでました。古本含めてですが(笑)

皆様、お勧めの本がありましたらご紹介下さい。


書籍は順不同です。

<日本の伝説>1北海道/東北 日本伝説拾遺会/ 教育図書出版/ 山田書院

古代東北の覇者/ 新野直吉/ 中央公論社

古代東北と王権/ 中路正恒/ 講談社

闇に葬られた古代史/ 関裕二/ 実業之日本社

新古代史謎解き紀行 消えた蝦夷たちの謎 東北編/ 関裕二/ ポプラ社

おとぎ話に隠された古代史の謎/ 関裕二/ PHP研究所

闇に葬られた古代史/ 関裕二/ 実業之日本社

ここまで解けた!「古代史」残された謎/ 関裕二/ PHP研究所

日本の歴史をよみなおす(全)/ 網野善彦/ 筑摩書房

うめぼし博士の逆・日本史 神話の時代編/ 樋口清之/ 祥伝社

「鬼と魔」で読む日本古代史/ 武光誠/ PHP研究所

日本史小辞典/ 竹内理三/ 角川書店

絵巻物に見る日本庶民生活誌/ 宮本常一/ 中央公論新社

古代飛鳥を歩く/ 千田稔/ 中央公論新社

時代別奈良を歩く/ 植条則夫/ 山と渓谷社

歴史を旅する 日本の街道事典/ 稲垣史生/ 三省堂

平城京のごみ図鑑/ 奈良文化財研究所/ 河出書房新社

平城京再現/ 坪井清足・奈良国立文化財研究所/ 新潮社

これならわかる東北の歴史Q&A/ 一戸富士雄・榎森進/ 大月書店

失われた日本の超古代文明FILE/ 歴史雑学探求倶楽部/ 学研パブリッシング

人に話したくなる日本古代史ミステリー/ 日本ミステリー研究会/ 竹書房

失われた日本の超古代文明FILE/ 歴史雑学探求倶楽部/ 学研パブリッシング

抹殺された古代民族の謎/ 鈴木旭/内田由紀/ 日本文芸社

古代蝦夷と律令国家/ 蝦夷研究会編/ 高志書院

図解日本の装束/池上良太/新紀元社

日本史リブレット 聖徳太子/ 大平聡/ 山川出版社

日本史「悪役」たちの言い分/ 岳真也/ PHP研究所

とんでもなく面白い「古事記」/ 斎藤英喜/ PHP研究所

神々と古代史の謎を解く 古事記と日本書紀/ 瀧音能之/ 青春出版社

古代史再検証 持統天皇とは何か/ 瀧音能之/ 宝島社

いまこそ知りたい縄文時代/ 瀧音能之/ 宝島社

いま蘇る縄文/ DIA Collection/ ダイアプレス

縄文の思考/ 小林達雄/ 筑摩書房

古事記で読み解く地名の謎/ 島崎晋/ 廣済堂出版

消えた古代豪族「蘇我氏」の謎/ 歴史読本編集部編/ KADOKAWA

科学はこうして古代を解き明かす/ 山岸良二/ 河出書房新社

偽書が描いた日本の超古代史/ 原田実/ 河出書房新社

衝撃!驚愕!!日本史ミステリー/ 博学面白倶楽部/ 三笠書房

騒乱の日本古代史/ 山岸良二・松尾光/ 新人物往来社

逆説の日本史2古代怨霊編/ 井沢元彦/ 小学館

最新学説で読み解く人類20万年の歩み/ 島泰三/ 宝島社

人類誕生から大和朝廷までの700万年史/ 日本博学倶楽部/ PHP研究所

ビギナーズ・クラシックス 万葉集/ 角川書店編/ KADOKAWA

はじめて楽しむ万葉集/ 上野誠/ KADOKAWA

マンガで楽しむ古典 万葉集/ 井上さやか/ ナツメ社

日本神話とアンパンマン/ 山田永/ 集英社

火の鳥10-12 太陽編/ 手塚治虫/ KADOKAWA


その他、ネットに載っているWIKIとか飛鳥時代の文献にもお世話になりました。

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