第4話 1
新元号、令和、いいですね!
第4話 終章 玉代姫の一人語り
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比羅夫が戦に出て行ってしまって、もう一年がたっちゃた。
その間、わたしは毎日シババの邑の周辺をひたすら歩き回っていた。
たしかにみんなと一緒にいると楽しいし、寂しさを忘れることができるんだ。
けれど、比羅夫が遠くで戦っているって考えると、じっとしているなんてできなかったんだよ。
わたしは色んな所を歩いた。林の中を、山の中を、海辺を、春の新緑の木々の中を、冬の雪が積もった平原を、夏の山背の冷たい風が吹く中を。ただひたすら。
今思うと、どうして歩いていたのかな?よくわかんないや。あの頃つらくていろんなことが頭の中をぐるぐるまわってたから、嫌なことを忘れるためだったのかな。
わたしの着ている服も都から持ってきたのから、獣の毛皮でできた地元の服装に代わっていったな。なぜだか服は近所の人が用意してくれてね。
あるとき沢で温泉が噴き出しているのを見つけたんだ。
わたしね、実はとても温泉が大好きなんだよね。毎日でも入っていたいくらい。
よーし、ここに住んじゃおうかな!幸い、温泉の近くには誰も住んでなかったから、勝手に地面に穴を掘って、その辺の倒木を持ってきて家を作ろうとしたんだよね。わたし器用だから一人で小さな竪穴式住居を建てられると思ってたんだけどね、ちょっと大変。最初の穴を掘るところで疲れちゃってね、なかなか先に進まないのよ。だってスコップとかないし、木の根っこがすごく多くて面倒なのよ。
たまたまわたしの様子を見に来たお父さまの家臣がね、シババの邑の人を引き連れて来て勝手に家を建てちゃった。まあいいや。これで温泉三昧だね!
毎日温泉に浸かっていたら温泉の効用なのかな、お肌がすべすべだよ!比羅夫が帰ってきたらきれいなわたしを見せないとね!乙女のたしなみだね!
家ができたから一人暮らししないとね。もう大人の女性だからね、独立するんだよ。
食事は基本自炊なんだよ。わたし器用だからね、なんでもできるんだよ。その辺の草を持ってきて煮炊きすればいいんだよね。だけどどれが食べられるかよくわかんないや。手当たり次第に草をむしってきて土鍋に入れてみた。あれ?火ってどうやって熾すのかな?うーん、意外と面倒なんだね。わたしが腕組みして悩んでいると、またもや近所の邑の人たちが来て、食べられる野草を選んで、ウサギも捕まえて捌いて、火を熾して、味付けしてくれた。あれれ、わたしだってそれくらいできるんだよ。まあ作ってくれたものは仕方がないね、食べてあげないと作ってくれた人に失礼だものね。結局その日から毎日近所の人が代わりばんこにわたしの家に来て一緒にご飯を食べていた。
うーん、なんか違うような気もするけどいいっか。まあ、それなりになんとかなるもんだね!
ときどきわたしの家族や家臣たちが遊びに来る。わざわざなにしに来るんだろ?わたし一人でなんでもできるから心配しなくてもいいのに。まあ近いからいいけど。
最近、お漬物を作るのに凝ってるんだよね。近所の人がお野菜持ってきてくれるから保存食作ろうと思ってね。だけど適当な容器にお野菜を敷き詰めたのはいいけど、ちょうどいい大きさの石がなくて。みんな大きすぎたり小さすぎたりしてちょっと納得できないんだよね。わたしこだわる女だからさ。デキる女はこだわるものなのだよ、チミ。
うまい具合にお父さまがウチに遊びに来た。そうだ、『立ってるものは親でも使え』ってのがウチの家訓だったね。お父さまに石探し手伝ってもらおう!
「お父さま、どこかに漬物石に適した石はないでしょうか?」
「玉ちゃん、そういえばシババの邑の祠のとこに大きな石があったなー。置いてあるだけだから使ってないと思うんだよ。あれで漬けたら美味しいお漬物ができるんじゃないかな?」
わたしとお父さまは夜中にこっそりと祠から大きな石を持ち出すことに成功したんだ。こりゃまたちょうどいいサイズの石があったもんだね!なんか神々しいというか、パワーストーンじゃないけど、美味しい漬物ができるって感じがするよ!
後日、シババがご神体がどうとか言って探し回っていましたたけど、この漬物石とは関係ないよね?そんな罰当たりのことしてないよね?ご神体ってなんだろ?
あるときは、妹の勝世姫が久々にウチを訪ねてきたんだ。一ヵ月ぶりかな?
「お姉さま、先日比羅夫様からお手紙が届きましたのでお持ちしました。わたしたちは読んでおりませんので」
「勝っちゃん、ありがとう。わざわざ悪いねー。温泉卵食べる?おいしいよ」
「お姉さま、帰って来ないのですか?お父様もお母さまもとても心配なされてますよ?」
「うーん、帰ってもいいけど。わたし今までお姫様してたから、いつも周りの人に頼りっぱなしだったんだよね。だから自分でいろいろできるようになりたいんだ。反抗期で家出したわけじゃないからね。知ってると思うけど。ごはんとか勝手にみんなが作ってくれるから不自由してないし。目下の趣味は漬物作りなんだ。帰りにお漬物持って帰る?」
「それから、お姉さまにご報告申し上げることがございます。恥ずかしいのですけれど・・・」
「ん?なに?どうしたの?」
「わたくし、結婚することになったのです」
「えー!いつの間に?相手は誰?やっぱり家臣一のイケメンの駒沢左京之進だったりするの?」
「違うのです。わたしのお相手は・・・」
勝世姫がそういうと、玉代姫のボロ屋の外で待ってたらしい小柄な男が家に入ってきました。
「うぃーっす!元気かー?ちゃんと歯磨いてるか?」
「訳がわかんないわよ。なんでイノシシのアギラが入ってくんのよ?」
「あの、わたしのお相手は・・・。このアギラさんなんです」
「ええーーーーーー!?なんで?なんで?なんでなの?どうしてアギラなの?意外すぎて耳を疑たがっちゃったわよ!」
「アギラさんの猛烈なアタックに心を動かされてしまいまして・・・。この度お父様とお母さまの正式なお許しも頂けたので、お姉さまにご報告をと」
「でも、どーして?勝っちゃんのどこに惚れたの?ねえねえ?」
「うう、こいつグイグイ来るな・・・。そんなこと恥ずかしくて言えるわけねえ!」
「わたくしは言えますわよ。アギラさんの素敵なところを。優しくて、前向きで、男らしくて、誠実で、力強くて、でもちょっぴりおちゃめさんで、お顔が可愛らしくて・・・」
「はいはい!もうお腹いっぱいだよ!甘甘すぎて胸やけするよー!それよりも二人の馴れ初めを教えてよ!教えないと温泉卵あげないからね!」
「あれは先月末のことでした。わたくしが森で木の実を採取していたところ、大きなクマと遭遇してしまったのです。わたくし恐ろしくて恐ろしくてその場で立ちすくんでしまって、逃げることさえできなかったのです。そのとき颯爽と現れたのがイノシシにまたがたアギラさんでした!わたくしをイノシシに乗せてくださって、その場のピンチからお救い下さったのです。イノシシの上で強く抱きしめて頂いて!ああ、今でも思い出します。あれはまるで白馬にまたがった王子様!わたくし一瞬でフォーリンラブでした!」
「なんか美化されすぎてるような気がするけどよ、あれから勝代ちゃんの行動はものすごく早かったんだ。その日にいきなりオレの家に潜り込んで居候始めるし、先に妹を攻略して姉妹関係を構築してしまって、オレがノーと言えない状況を作ってしまうし。まあ、オレは嬉しかったんだけどよ、へへへ」
「たった半月?展開早すぎない?アギラ、ちょうどよくクマから勝っちゃんを助け出したのって、あんたまさか勝っちゃんをストーカーして後を付けてたんじゃないでしょうね?あまりにもタイミングが良すぎて怪し、もごっ・・」
「シー、シー!そ、そんなことはないぞ!た、たまたまだ、たまたまだ!それよりも教えたんだから温泉卵くれよ!」
妹の勝世姫はアギラと祝言を挙げて、今では小川原湖の北の方のアギラの集落で暮らしています。話によると、既にアギラを尻にしいていて、小川原湖一帯を手中に収めるように着々と工作をしているようです。なんでも、朝廷の軍や粛慎がここまで攻めてきた時に対抗できる勢力を作ろうとしてるとか?どういうことなのかな?よくわかんないけど、勝っちゃんは裏工作とか大好きだもんね。さすがお母さんの娘だし、自称『目的のためには手段を択ばない姫』だね。
お父さんとお母さんは勝っちゃんの家の近くに庵を建ててもらって、仏様の木彫りの像を彫り三昧の気楽な生活をしているそうです。仏像を木彫りしているだけではなく、各地に勝手にお堂を建設して勝手に観音様を祀ってまわっているとか。近所の人ははた迷惑じゃないの?そんなに仏教を信じてたの?そんな趣味持ってたんだね?全然知らなかったよ。今度出来上がった仏像を見せてもらおう。噂ではとっても下手くそで、どこが顔だかわかんないとか。遮光器土偶の方がよっぽどカッコイイとシババが言ってました。だけど、最近では近所の人も慣れて来て、お父さんを観音様と勘違いして、ありがたや、ありがたやと拝む人まで出てきたそうです。なんのこっちゃ?
そういえば、仏教のお堂があちこちにあると朝廷に恭順したかに見えるから攻撃されにくくなるとか云々とか言っていたけど、なんのことなのかな?
比羅夫のお手紙に書いてあったのは、やはり北方での戦の話。
各地で戦って恭順させたエミシたちにはできるだけ饗応をして、今後反抗しないようにお願いして、さらに自分の権限を越えるけど勝手に位を授けたりして気を使っているそうだ。
今は蝦夷地の粛慎まで到着して敵と対峙している。
やはり敵の大将は鰐鮫で、小競り合いから始まった戦闘は相当厳しく、比羅夫の右腕となる部下が戦死してしまったほどだ。
そして、帰えられるようになるまで、まだまだ長くかかりそうだ、と書かれてあった。
追伸には、『オレはこの戦が終わったら結婚するんだ』って部下に言ったら、比羅夫様それは死亡フラグですよ、って返されたと書かれていた。
うーん、どういう意味なのかな?
比羅夫が北方のエミシに戦いを挑んでから三年目の春が来ました。
ようやく比羅夫から粛慎の攻略戦が終結したと便りがありました。
もう少し捕虜を饗応して、二度と反抗しないように仲良くなってから都に帰るとのことです。
「あー、無事でよかったよー。これでようやく比羅夫に会えるねー。待ち疲れちゃった。
余りにも暇だったから、温泉横の住居を建ててたらどんどん大きくなっちゃったよ。建てるの一人できるって言ったのにみんなが手伝ってくれたけど。くふふ、比羅夫来たらびっくりするよ!」
ところが、それからいくら待っても比羅夫はわたしのところへやってこないんだよ。
もうとっくに都に帰っているはずなのに。なんの便りも送ってこないんだよ。
わたしは心配だったから何度も催促の手紙を送ったんだよ。だけどなしのつぶてなの。
まさか都にほかに好きな人ができて、わたしなんか忘れちゃったの?
それとも遠距離恋愛のせいなの?わたしが嫌われるようなことしたの?まさか怪我したとか?どうしよう!




