第3話 4
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夕方になり、道忠と部下四名とシババの邑から四名、アギラの部下のイトヨを加えた計十名、武器を手にもって玉代姫とアギラを救出に出発しました。
目指すは『あの沼』のほとり。
道忠たちが到着したころは辺りはもう真っ暗になっていました。今夜は新月で月も出ていません。
「たしかこのあたりだと思ったけど・・・」
「イトヨ、お前の記憶だけが頼りだ。頼むぞ」
玉代姫とアギラが捕まっている古い住居跡です。
「なんか外の監視の人が静かになったというか、気配を感じなくなったんだけど?」
「お便所でも行ったんだろうか?大きい方の」
「あんたね!レディーの前でお下品ね!だからモテないのよ!少しはデリカシーというものを身に付けたらどうなのよ!」
「うっさいな!ほっとけ!ここではこれが普通なんだよ!」
「しっ、誰かが近づいてくるよ!足音がする!」
がさがさと草をかき分ける音がして、大きな男が近づいてきた。その男は・・・。
玉代姫たちが捕らえられているところから少し離れたところでは、道忠たちと鰐鮫たちとの戦闘が開始されようとしていました。
「やあやあやあ、我こそは都の橘中納言道忠なるぞ!尋常に立ち会え!」
道忠がご丁寧に戦いの前の口上を述べています。が、相手の鰐鮫たちはお構いなく刀を構えて襲ってきます。
「ひ、卑怯なるぞ!ええい、負けるな、戦え!」
とうとう大乱戦になってしまいました。
再び玉代姫たちのところです。
「オレはイノシシライダーになって、先にひとっ走りシババの邑に無事を伝えてくる!お前らはどうする?」
「俺は小舟を見つけたので、玉ちゃんとこの沼を小舟でショートカットして向かいの岸へ渡ろうと思う。いいな、玉ちゃん?」
「うん!比羅夫が助けに来てくれてホントに助かったよ!わたしが危ない時にはいつも助けにきてくれるんだよね、ありがと!比羅夫大好きだよ!」
「ふん、お前らだけでラブラブしてたらいいじゃねえか!お、オレは一人でも生きていけるんだい!くそっ、うらやましい!」
アギラが泣きながらイノシシで走り去ったあと、残された二人は沼の岸に捨ててあったおんぼろの小舟に乗り込みました。いまにでも沈没しそうな、大きな木をくりぬいただけの丸木船です。かなり腐食してるけど大丈夫でしょうか?
「どうしてわたしのピンチがわかったの?比羅夫いそがしいのに、どうしてこんな遠くまで来てくれたの?」
「うーん、なんでだろうな?しいて言えば会いたくなったから。かな?」
比羅夫がクサいセリフを言ったとたん、丸木船の底が抜けて水が浸み込んできました。
クサ過ぎて木の腐食を促進してしまったようです。
「やばいよ、やばいよ!この小舟ダメじゃん!」




