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新小川原湖物語  作者: すけごろう
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第3話 3


「大変だー!族長あにきが変な奴らに捕まったー!都のお姫様も一緒に!」

イノシシに乗ったイトヨがシババ達のいる集落へ駈け込んで来ました。イトヨはブルブルと震えて涙を流しながら邑の大人に訴えています。


「なんだ?変な奴らというのは?」

異変を聞きつけて、道忠の家臣の進藤以下四名が刀をもって集まってきました。

「相手も刀を持ってる。十人くらいいた。着てるものがこの辺とは違って北から交易に来てる奴らみたいな感じだ。しかし雰囲気が全然違う・・・。まるで血に飢えた狼みたいで、とにかくおっかねえんだ!助けてくれー!」

「どこだ?どこに玉代姫様はいるんだ?もとはといえばお前たちが姫様を拉致さえしなければ・・・」

「やめろ!今はそんなことはどうでもいい。玉代姫を助け出すんだ!」


「待ちな、奴らはたぶん蝦夷地えぞちの北の大地の粛慎みしはせの連中だと思う。時々交易と称してわしらの邑まで来たりしてるんだよ。どうやら朝廷の動きの調査と、この辺に前線基地をつくろうとしているのでないかと思うんじゃ。奴らは一人一人でもかなり強いらしい。それが十人もいるとなるとここにいる戦力だけではとても敵わない恐れがある。あいつらは乱暴者で、ここ十年くらいの間にいくつかの小さな集落がやつらに襲われたらしいのだよ。当時はイトヨはまだ幼くて憶えておらんだろうが、アギラの邑だって・・・。幸いにしてここの邑は人口が多いから襲われてはおらんが。ここであいつらと争いをされては困るのじゃ。ワシには邑の安全が第一じゃからな」

シババが道忠を押しとどめる。


「だが、なぜここに粛慎の連中がいるのだ?あそこは蝦夷地のさらに北にある遠い地だと聞いているぞ?まだ朝廷でも場所の特定ができておらんのだ。それに朝廷とは敵対している連中だ!比羅夫の日本海側のエミシ平定はカモフラージュで、北上した先の最終目的地は粛慎なのだぞ?あいつらはどうやら西の大陸の勢力とつるんでいて、蝦夷地経由で大和の国に攻め入ってくるという情報があるから、今のうちに叩いてしまおうというのが裏の目的なんだ。もしや情報がやつらに漏れてしまったのか?」

「まさか?いくらなんでもそこまで情報が伝わるなんてこと・・・。いやまてよ、越後の阿部艦隊に船の乗り手と称して潜り込めばいくらでも情報がつかめるのか。今はそんなことはどうでもいい、とにかく玉代姫を助けるのが最優先だ!奴らはたしかに強いだろう。犠牲失くして助け出すのは厳しいかもしれぬ。しかし大事な玉代姫を放っておくわけにはいかないのだ!そうだ、玉代姫を救い出したものは姫との結婚を許可する!姫がOKと言えばだけど。許嫁の比羅夫がいるから可能性は低いけど」

「おおー!俺は必ず姫を救い出して一緒になるぞー!」

「姫が幼い頃から好きでした!今こそ想いを!」

「小さい頃の姫は可愛かったのに、どうして大きくなってしまったんです?大きい姫は姫じゃない!」

「はあはあ、LOVEエル・オー・ブイ・イー、ラブリーTAMAYOHIME!」

「・・・・・。折角のシリアス展開なのに緊張感ないな。こいつらヘンタイか?やはり結婚の許可はやめようかな?」


「そうか、やはり争いになってしまうのだね。道忠、行く前にちょっとこっちへおいで」

 シババが邑の外れの岩場をくりぬいた小さなお堂に道忠を連れて行きました。

「シババ、急いでいるんだが・・・。これは?」

お堂の中には直径30cmくらいの楕円形の石が安置されています。ここの御神体として祭られているようです。


「ここの神様のアラハバキだよ。拝んでいきなさい。アラハバキはこの辺りを守る大蛇の神様だ。きっとご利益がある。それからこの石の剣は昔からここに供えてあるが、持っていきな」

「うむ。ありがとうシババ。これでなんとか姫を助け出して見せる!」

 大きくて重い石でできた両刃の剣を手にした道忠は気合を入れなおして家臣たちの待つ広場へ向かって歩いて行きました。

でも重すぎてずるずる引きずっています。道忠体力なさすぎ!駄目じゃん!


 一方、囚われの玉代姫です。

ここはみんなに適当に『あの沼』と呼ばれている沼のほとり。

打ち捨てられてボロボロになっている住居跡に玉代姫とアギラが監禁されており、一人監視の男がついています。

玉代姫もアギラも縄で両手を後ろ手に縛られているので身動きが出来ません。

「ねー、アギラ。あんたたちなんでイノシシに乗ってんのよ?なんでシババんとこにちょっかい出すのよ?」

「いーじゃねえか、そんなことどうでも。お前に関係ねーだろが!」

「でも、周りの迷惑になるだろうし、そんなことしてて楽しいの?」

「楽しいぜ、風を切って走り回るのは。ただ、道というか獣道けものみちだからまっすぐ走れないし、でこぼこで揺れて気持ち悪くなるけど」

「馬鹿だねー。みんなと仲良くして狩りや漁してればいいのに」

「う、うん。そうだけど・・・」


「オレの邑はオレが小さい時に何者かに襲われて、邑人が殺されたりさらわれたりしたんだ。オレの親父とお袋は殺されて、他の家の人も何人か拉致されちまった。オレの家族で残されたのはオレと妹だけだったんだぜ。オレはまだ小さかったから相手のことは憶えてねえ。だけど、絶対に仕返ししてやると誓ったんだ!だから戦うための準備として、イノシシの子供を捕まえて来て育てたんだ。乗り物にして突進するための武器として。当然周りの邑の連中からはバカにされたけどな。なんとかイノシシが慣れて乗れるようになったばかりなんだ。これを見せて驚かしてやろうと来たんだけど、まさかあんなのに会うなんて・・・」


「お前らうるさいぞ!静かにしろ!」

「監視のおっさんに怒られちゃったじゃん。あんたがうるさいから」

「オレのせいだってんのか?もとはといえばお前があんなことするから・・・・」


監視の男のところへリーダーの鰐鮫わにざめが戻ってきた。

「やはり奴らここを襲って、こいつらを取り戻すつもりのようだ」

「どうしやす、親方おやかた?」

「ここで奴らを迎え撃つ。こいつらはいい人質になるだろうよ」

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