一時の目覚め
目を開けるとリディアが僕の手を握りしめ、そこに顔を埋めていた。
握られた手には暖かい雫が止めどなく流れていた。
「…リ、リディア。」
「リオ!! 良かった。もう目覚めないのかと…」
ずっと泣いていたのだろう。リディアの瞼は腫れ、目は真っ赤になっていた。
「ここは?」
「貴方の家よ。貴方が倒れた後にマリアさん達がが来てくれて貴方と私を運んでくれたの。
それにしても目覚めて良かったわ。倒れてから三日も目を覚まさないから毎日心配で。」
少し体を起こそうとしたが、まだ力が入らない。三日も寝たきり状態であったのならば当たり前か。
「まだ目覚めたばかりだから無茶しちゃだめよ。」
リディアはペシンと僕の頭を軽く手のひらで叩いた。
「そういえば、あれから魔獣や魔物は現れた?」
「いいえ。ムガン先生やザック達が交代で見回りをしているけど現れていないわ。」
今まで魔獣や魔物なんて現れたことがなかったから次々とやって来ることを心配したがいまのところは大丈夫らしい。
「あ! 先生にリオが起きたら知らせてくれって言われていたの忘れてたわ。ちょっと先生を呼んでくるわね。」
パタパタと駆け足でリディアは家から出て行った。
…うーん。たぶん先生にしこたま怒られそうで気が滅入る…
リディアが出て行ってから5分程でリディアが戻ってきた。もちろん先生を連れて。
「言いたいことは山ほどあるが、まずは無事で良かった。しかし、あの魔獣はヘルハウンド。大きさからするに、グレーターヘルハウンドだろうな。俺でも一人では到底倒せない魔獣をよもや覚醒していないお前が倒すとはな。」
先生は顎の髭を触り、少し考えるような仕草をした。
「そのことなんですけど、この剣を持った瞬間に体の底から力が沸き上がってきたんですよ。」
先生に見せようと周りを見渡したが、剣はどこにも無かった。
「あれ? 僕が持ってた剣知らない?」
「それがね~まるで蒸発したかのように剣が消えちゃったのよ。」
弱った…あの剣があったからこそ勇者としての力が覚醒したのに無いのは困る。
…リオ…
頭にあの男の声が直接届いた。
「あの時は分かりやすく剣という形で力を貸したのだ。力自体は既にお前の中にある。自分が必要とする形を思い浮かべろ。」
「必要とする形…」
グレーターヘルハウンドを倒した時のようなロングソードではベッドの上では大きすぎるため、短刀をイメージした。
ぽうっと僕の目の前に光に包まれた短刀が現れた。
「…驚いたな。いつのまにそんな力を手にいれたのだ。」
驚きのあまり先生の目が丸くなっていた。こんな表情をする先生は初めて見た。
「リディアの影の中に匿われているときに頭の中に直接声が届いたんです。力を貸してやるって。今も聞こえます。」
「ふむ。風の噂に聞いたことがあるな。姿かたちは見えぬど、声だけは届く。小さき妖精とか呼ばれていたか。恐らくその一種だろうな。」
小さき妖精か。子供のころに聞いたおとぎ話に出てきたっけ。おとぎ話にでてくる小さき妖精は軒並み子供のような言動だったけど、こいつは不愛想な大人って感じだ。
「あれ…」
突然眩暈が視点が定まらなくって来た。
「いかんな。少し長く話過ぎたか。今日のところはこれで失礼する。今は体を休めなさい。」
「私も家に帰るわね。ここに呼び鈴を置いておくから何かあったらすぐ呼んでね。」
リディアは小さな鈴をベッド横の足の長いテーブルに置くとリディアと先生は家から出て行った。
二人が居なくなり気が緩んだのだろう。僕はまた睡魔に負け眠りに落ちていった。