表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

魔獣襲来

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


二度目の咆哮(ほうこう)

先ほどより距離が近くなったせいか、音の衝撃で体が吹き飛ばされそうだ。

それにしても大きい! 姿かたちは狼に似ているが大きさが桁違いだ。

脚だけで村で一番背の高いザックよりも大きい。

単なる獣ではない。あれが本物の魔獣…


「ああ、あああ」

恐怖で思うように体が動かない。(くちびる)が震え、冷たい血が全身を流れる。


「リオ!」

そうだ!ここにはリディアがいる。リディアだけでも守らないと!

僕は必至に恐怖を押し込め、立ち上がった。


「リディア。僕が(おとり)になる。その(すき)に村まで逃げるんだ!」

言ってみたものも剣どころか武器になりそうなものも何一つ持っていない。

どうやって時間を稼げば…


ドゥッン!!


何かとてつもなく重いものが地面に落ちた音が聞こえた。

それが魔獣の地を蹴る音だと気づいた時には既に魔獣は眼前に迫っていた。


「リディア!!」

僕は魔獣の攻撃からリディアを守るためにつき飛ばそうと手を伸ばした。


が…既にそこにはリディアの姿はなかった。


リディアが居ない!!


その瞬間、僕の頭上をとてつもない質量が通り過ぎていく感覚を感じながら

僕は何かに脚を捕まれ、地面に引き摺り込(ひきずりこま)れた。


目を開け周りを見渡す。辺りは薄暗かったが、人影らしきものが目の前にあることは分かった。


「リオ! 大丈夫。怪我はしていない。」

目の前にいたのはリディアだった。


「え…リディア…。 ここは?」

「ここは私の影の中よ。ここにいる間は安全だから安心して。」

リディアの影の中… ますます訳が分からない。


混乱している僕を落ち着かせようとリディアは僕の肩に両手を置いた。


「時間が余りないから端的に話すわ。上にいる魔獣は恐らく魔王に近しもの。

 貴方を狙っているの。」

「魔王… リディア何おかしなことを言ってるの… 魔王は500年前に死んでるよ…」

魔王は死んだ。500年前。そして世界は500年間平和が続いている。


「15年前。大司祭シオン様がかつて魔王の居城(きょじょう)があったミルチア方面から禍々(まがまが)しい力が

 発せられるのを感知したの。それから各地で魔物や魔獣が活発になりだしたの。

「魔物や魔獣が活発なったってそんなこと里でも町でも誰も言ってなかった…」

「世界が混乱に(おちい)るのを防ぐために一部のものしか知らされていないわ。

 里の人は全員知っているけど、リオに余計な心配をさせまいとずっと隠していたの。」


淡々と話すリディアの目は本気で、冗談ではないことが分かった。


「5年前リオの両親が死んだのは事故ではないの。12年前に受けた呪いが原因。

 12年前に身ごもったリオのお母さまと一緒にいるときに魔物に襲われて、死の呪いを受けたの

 勇者バルトの直系であるお父様には効かなかったのだけど、お母様とまだ勇者として覚醒していない

 貴方にはかかってしまったの。」

父さんが勇者バルトの直系… 勇者として覚醒… 頭がついていかない…


「呪いは大司祭様でも解呪することができず、延命させる処置しかできなかったわ。

 その延命処置も7年が限界だった…

 貴方のお父様は死に行く貴方を救うために身代わりの法を使うことにしたの。

 お父様が勇者だと知っているものは全員反対したわ。それもそのはず、魔王が復活するかもしれない

 という時に覚醒した勇者を失うわけにはいかないものね。

 でもお父様は周囲の反対を押し切って身代わりの法を使って貴方を助けた。」

父さんは事故死でなく僕の身代わりで死んだ…


「勇者として覚醒するには成人を迎える必要があるの。だからあなたが15歳を迎えるその日まで

 (かくま)う必要があった。だから貴方のお父様と友人であったムガン先生は町から遠く離れたこの里に

 貴方を連れてきたの。ここは忍びの里。人を(かくま)うにはおあつらえ向きだもの。」

「忍びの里…マリアさんやザックやグエン村長も全員忍びなの?」

「そう。この里の人はあなたを15歳になるその日まで命をかけて守る忍びなの。

 もちろん私もね。」

そう言うリディアの顔は少し寂しげだった。


「そろそろ時間が来たわ…影の中にはそんなに長い時間いられないの。

 しかも二人となると5分が限界ね。」

リディアの(ひたい)から汗がしたたり落ちる。息も上がりとても苦しそうだ。


「さっきの咆哮(ほうこう)で里の人も全員気づいているわ。あと15分もすれば皆が来てくれる。

 それまでリオはここにいて。」


「やだよ! 一人でなら皆が来るまで居られるんでしょ! なら僕を出してよ!」

「駄目よ…リオが死んだらきっと近い将来凄く多くの命が無くなるわ。

 それだけは駄目…」

「でも…」

リディアの両腕が僕の頭をそっと抱える。


「リオがこの里に来たときは使命として近くで見守っていたけど、

 あなたと過ごしているうちに私は使命だってことを忘れたの。私は私の意志であなたを守りたいの。」

僕の髪に暖かい水滴が零れ落ちていく。


「だからお願い。私にあなたを守らせて。」

リディアは笑顔で僕にそう告げると影の中から飛び出していった。


「リディア!!!!!!!!!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ