お布団には大賢者でも抗えない!!
「う、うぅん。」
窓から差す朝日がまぶしい。普通なら気持ち良いと感じるのだろうけど、
ムガン先生との習練と祭りの準備でへとへとな体には少し酷だ。
「今、何時だ… 7時か。まだ少し余裕あるな」
今日の直近の予定は午前9時からなので少しくらい二度寝しても良いだろう。
「お布団の眠りへの誘いは誰であろうと無理…むにゃむにゃ…」
王国に仕える世界一の魔法使い、大賢者ウドゥ様でも恐らくは抗えないお布団に
僕がかなうはずもなく、二度目の眠りへ落ちていくのであった。
「スー。 スー。 グー…」
ドン!ドン!
「ヌアッ!!」
二度寝の眠りから20分後だっただろうか、突如響く悪魔の音で僕は強制的に目覚めさせられた。
「ちょっとリオ! どうせ二度寝しているんでしょ! 起きなさい!」
ドアを叩いた後に僕を起こす声が部屋に響いた。
この声は幼馴染のリディアだ。
「なんだよリディア…僕まだ眠いんだけど…」
そういいながら玄関に向かいドアを開けた。
ドアを開けた瞬間僕の目に映ったのはとても綺麗なお姫様だった。
「へへっ~。 どうでしょすごいでしょ。祭りで勇者へ捧げる舞を踊るときの衣装よ。
昨日の夜に完成したのよ!」
リディアはそう言いながら満面の笑みを浮かべ、その場でくるくると回りだした。
今年は聖王国歴1302年。勇者バルトが魔王ザキューレを討ち取り、世界に平和を
もたらしてからちょうど500年。それを祝して世界各地では皆こぞって盛大な祭りの準備をしている。僕たちが住むこの里も現在祭りの準備中だ。
「うん…」
僕は普段とは違う彼女の姿にドギマギしてしまって空返事をすることしかできなかった。
「なによ~。もっと言葉があるでしょ」
リディアは空返事をした僕の鼻に指を当て、少し意地悪そうな表情をした。
「寝起きなんでちょっとびっくりしちゃったんだよ。凄く似合ってるよ」
「ふふっ。ありがと」
どうやら満足してくれたようだ。
「ところでこんな早くに僕の家まで来て何か用事でもあったの?」
「あらー。丹精込めて作った綺麗な衣装を好きな異性に一番早く見てもらいたい
以外の用事なんてあるかしら?」
顔を少し俯かせ、右手で口を押さえ上目遣いで僕を見る。
ただでさえ寝起きから彼女のいつもとは違う姿を見て心臓が鳴りやまないのに今の仕草は致命的だ。
みるみるうちに僕の顔は真っ赤になった。
「軽い冗談はここまでとして。」
僕の頭をリディアがポンポンと撫でる。
幼馴染のリディアは僕の4歳年上でよくからかわられる。
別にからかわられることは嫌ではないが、彼女は今年で16歳。
年相応に女性らしさが出てきて対応に困る。
「ムガンさんから伝言よ。今日の修練は中止だって。」
「習練が中止とか珍しいね。」
僕がこの里に来てから5年も経つが、先生との剣の習練が中止になることは稀だ。
豪雨の時にも暴風の時にも魔物が天候を選んではくれないと理由で習練はある。
「私は伝言頼まれただけで理由は聞いてないからね。分かんない。」
「それもそっか。」
うーん。午前中の予定がなくなってしまった。さて、どうしたものか。
「リオは午前中の用事はないんでしょ?」
「習練がなくなっちゃったからね。」
「じゃ、私に付き合ってよ。」
「わかった。」
予定がなくなって暇になった僕は特段断る理由もないので彼女に付き合うことにした。