6 見習いで条件
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「今はコレで我慢して」
今の俺の実力ではコレが精一杯の実力で心苦しい。
「お前…このレベルの投げナイフで我慢してとか武具屋が逆立ちして売ってくれってレベルだぞ…」
レイグルは呆れていた。
鍛治の極意レベルが1上がった。
同一品製作の熟練度が上がりました。
鍛治師見習いがLv9/10に上がります。
作成リストの選択が可能になりました。
・斧鎚作成Lv1
・槍棍作成Lv1
・弓杖作成Lv1
鍛冶スキルでミスリルの使用条件が解放されました。
「来た~!ミスリルを打てる!」
近くにいた二人はビクッとしたので謝って最後まで読むことにした。
ミスリル使用条件として、自身の鍛治師見習いスキルをLv10へ上げて鍛治師にしてください。
最後まで読めよ…と早とちりして大喜してから、膝から崩れ落ちた俺だった。
「やっぱ打てなかった~…」
そんな俺を見ていた二人は頭を傾げていたが、理由を把握したようでレイグルは大笑いをして、ステラはホッとしていた。
ステラの態度に少し拗ねて理由を聞いた。
「だって、カズキが最初から何でも出来たら…私が教えてあげられなくなっちゃうでしょ?」
照れながら言うステラの笑顔に見とれ拗ねた気持ちが消し飛んだのは内緒だ。
そしてさっそくステラに『見習い』の上げ方?条件を聞いてみた。
見習いスキルがLv9になると同系統で『上位』のスキルを持った誰かに品物や技術を認めて貰う事で鍛治師Lv1/10にランクアップするらしい条件らしい。
『鍛治師見習い』なら、鍛治師や…王宮専属鍛治師等に見せて認めて貰う事が大事らしい。
王宮専属鍛治師なんか絶対に見せねぇけどな!まぁ冒険者してたら、そんなのと会うこともねぇだろうがな!
「それじゃ良い鍛冶屋この辺りにない?出来れば職人気質な口が固いの希望」
うっかり漏らされ変なのに寄ってこられたら困るし。
「おぉ~!それなら包丁頼みに行こうとしてた所に行ってみたらどうだ?偏屈なヤツだけど腕は確かだぜ」
マスターが太鼓判を押して紹介状まで書いてくれた。
どのみち今日はレイグルのスローイングナイフ作ったから依頼を受ける時間がなくなったし俺のスキル上げの1日になってしまうだろう。
紹介状を貰ったのでさっそく向かったが…
「何でこんな壁沿いなんだ!」
本当に壁沿い過ぎる、正直もっと町中だと思っていた。
結構歩いているけど一緒に来ているステラとレイグルは冒険者なだけあってケロッとしている。
「二人は体力あるね…」
素直な称賛をしたが…
「私も最初はこんな感じでしたよ」
「俺は長ぇからな、慣れだよ慣れ…っていうことは明日のレベル上げも予定変更しなきゃダメだな…」
レイグルが後半に何か言っていたが工房が見えたので会話は中断された。
さっそく入った。カンカン音が聞こえてくる。
「すみませ~ん、『恵みのオーロラ』からの紹介で来たんですが~!」
「いらっしゃいませ!親方は今手が離せませんので少しお待ち下さい!」
店番のドワーフ少女?が対応してくれた。
カンカンしている時は俺も手が放せないからな~、と打ち終わり出てくるまで鍛冶屋の武器を見て回る。
色々な剣が並んでいる。
今後打つ参考になりそうだ、レイグルに打つ剣もナイフを短剣にする予定だし。
やっぱり両刃の剣ばかりで片刃は鉈と包丁、一部のナイフしかなかった。
「そう言えばよ~?カズキって武器何使ってんの?」
レイグルがナイフの棚の前で唐突に聞いてきた。
「あぁ~…剣?かな」
「何で疑問系なのよ、お前さん…」
実際に使った事あるのが剣(一回)だけと話したらレイグルに盛大なため息をつかれた。
「ステラ…お前さん、この状態で依頼行こうとしてたの?」
「初心者向けの薬草採取なら危険も少なくて良いかなと思って…」
レイグルは頭を抱えていた。何だかんだ言っていたがレイグルは、かなり面倒見が良いらしい。
「冒険者は不足の事態にも備えておくもんだ。お前ら、明日は朝からギルドの訓練所に来い。カズキの腕前みねぇと危なくてレベル上げに連れていけねぇよ。」
レイグルに間接的とは言えステラが怒られてへこんでいた。
そんな感じで時間を潰していたら音が止んだ。
「おぉ…チコ悪かったな、でお前さん等が客かい?」
受付の女の子はチコと言うらしい。
出てきたのは想像より大柄なドワーフだった。髭がモジャモジャ生えてるのは想像通りだが自分位の背丈で幅が倍ある。
「はじめましてカズキと申します。『恵みのオーロラ』のマスターからここなら間違いないって紹介状を頂いて…コレです。」
「あぁ…俺はバルザだ」
自己紹介を返して貰えると思わなくて一瞬狼狽えたが、紹介状を渡すと封を切って読み始めた。そんなに長い文ではなかったようで1分位で読み終わったが内心緊張でドキドキが止まらなかった。
「ほぉ~お前さん『鍛治師見習い』なのか?『鍛治師』に上げるためにここに来たって?」
「えぇ…まぁ出来れば、さっき打ったナイフを見てもらってから、ここで1本の剣を打たせていただいてダメだったら他に行こうと思ってます。」
さっき打ったの所でピクリとドワーフは動いた。レイグルは察し即抜いてバルザの前に置いた。
「個人的には投げやすくて切れ味も良くて気に入ってます。」
レイグルがさっき薪に向かって投げて試していたが気に入ってもらえたらしい。バルザはレイグルの話に耳を貸さずにしっかり見ている。
握り具合、重心、重さ、切れ味、一通り調べたら満足したのだろう。
「…変わった形をしてるが良い出来だな。認めてやろう良いナイフだ」
誉められてビックリした。そして音が流れた。
ステータスを見ると『鍛治師』に変わっていた。こんなに簡単なのか?と考えていると、じっと俺を見ているバルザが声をかけてきた。
「今ので『鍛治師』になれたな?それじゃあ礼だと思って俺に一本打って見せろ。お前の剣がみたい。ダメだったら『見習い』に戻ると思え」
えっ!?という驚きと共に、剣を打つのはある意味挑戦だった。
「工房を借りても?」
「付いてこい」
店の奥に工房はあった。
先程まで鍛冶をしていただけあって熱気が籠っている。炉に金槌、金床、火箸、炭、水瓶、砥石と工房なだけあってしっかり揃ってる。
「材料はあるか?」
頷くと楽しみに待ってる、と出ていってしまった。
気に入られなかったら降格とか…何を作ろう?と考えながら自前の一式を準備した。
やっぱり鋼の剣かな?ミスリルで刀を打っても良いけどミスリルが簡単に手に入るか分からないから刀を打って、レイグルの短剣が打てなくなったら意味ないよな~って訳で鋼の剣を打つ事に決めた。
刀より剣の方がこの世界では馴染みがあって売れるだろうし、自分の分だけ刀を打てば良いだろう。バックに刀が入ってるし…
やりますか…
「火竜の息」
いつも通り火箸で挟む…のだけど鋼が1個じゃ足りないので2個使った。
レベル1でも火竜の魔法は桁違いのチート級魔法だろう。
ステラいわく、火の魔法の最上位クラスは『時間をかければ』鉄を蒸発させる事も出来るそうだ。
竜族が使える固有の魔法なだけあって人間で魔法の無い地球で育ったので感覚はつかめない。ゴブリンに襲われた時に使わなかったのも外して森林火災になって逃げられなくて死亡…とか頭の片隅にあったからだ。
意外と火の魔法は鍛冶以外で考えてみると使い勝手が悪く感じた。
凝んな事を考えている内に2回の折り返しが終わって形成に移る。
魔法は対象指定とかあるのだろうか?範囲魔法とかじゃなければ出来そうな気はするけど…
それに火竜の魔法は、さすがに自重して誰にも見せていない…いや、ステラの前で包丁を打ったから見てるかもしれないけどステラだからセーフだ。
むしろ竜族に風評被害がいってないか心配だ。
別の事を考えて剣の品質が下がると困るので集中しよう。
今まで鍛冶の回数をこなしたが今回の剣は勝手が違う。長物だから細長くして均一に打つのが意外と大変だ。
熱する回数も既に6回…回しながら伸ばして打ってるけど鋼が若干縮んでる気がする。多分だけど軽くなってる気がするから気のせいじゃない。
うぉぉぉぉ…
火加減が辛い…慣れてきたと思ったがまだまだだった。
やっと剣の形になってきたのに!
平らになってるか、ある程度打っては確認、打っては確認。
持ち手の柄の部分もある程度は気にしないと折れやすくなるだろう。
若干長方形にして、いきなり剣の根元から細くしないように気を付けた。
剣先まで幅を一定に打つのがかなり難しい。何も考えてなかったら剣じゃなくて鉄板になるだろう。
ナイフが思ったより上手く出来ていたので舐めていた…これじゃ弟子入りしないとダメだろうな…
でも諦めるのも癪だし今打てる最高を見せないと失礼だろう…そんな事を考えながら時間は過ぎていった。
ズズズッっとお茶を飲んでいるボルカ。
「あの~…」
「どうした嬢ちゃん」
ステラは待ちきれなくなったようでボルカに話を聞いていた。
話を聞いている後ろでカーン、カーン…カンカン!と聞こえてくる。
「カズキの…鍛冶の腕はどうなんでしょうか?」
ボルカはお茶から視線をはずしステラを見据えた。
「初心者にしては良い腕をしている…が、まだまだ経験が足りねぇな」
それはそうだろう。まだ知っているだけで10本しか打っていないのだから…
「経験がなくても…コレが打てたりするんでしょうか?」
ステラはナイフを見つめ、つい聞いていた。
「それもアイツが作ったのか?」
コクリと頷く。
「見せてみな…」
ステラは腕を伸ばして見せていた。
ボルカは鞘から抜くと隅々まで観察をしていた。
剣先、刃筋、重さ、柄の革の巻き方
そして剣の腹に刻まれた模様を見ている。
「何だコレは?魔法剣だろ?魔法剣は誰も打てねぇぞ?嬢ちゃんは鍛冶屋をからかっているのか?」
カチンッと鞘にしまうボルカの表情はみるみる怒りの色に染まっていった。
ステラはしまったと思っていた。
カズキに散々バレないようにと言っていたのに自ら言ってしまった事に後悔する。
「まぁまぁ!オレ達は鍛冶の素人だから的はずれな事も言っちまう事もあるだろうから勘弁してくれよ」
レイグルがおどけたように言った事でボルカもフンッっと矛を納めナイフを返したのだった。
…なかなか良い出来じゃない?
工房?の外で、そんな事があるとは露知らず…俺は自画自賛している、まだ形が出来ただけなのにだ。
オリハルコンの金槌は素晴らしい。
自分の思う通りの形を打ち出してくれる。
ナイフばかり打っていたが、これからは剣を打っていこうと密かに方針をたてた…レイグルの短剣は別腹として打つけどね…
形が出来たのである程度、金床の斜めの部分で刃の形に山を作っていく。
このオリハルコンの金床が何で5分の1だけ斜めに作ってあるか分からなかったがダガーナイフを作っている時に分かった。
刃を作るためじゃん!
真っ平らだったら刃先が作れなかった…ので、よく考えた結果「ここ斜めなんだから使えば良いじゃん!」となった。
金床って良くできてますわ…
そんなこんなで大分剣の形は出来上がった。
後は、いつも通り覚まして溶き粘土を塗って熱して工房が暗いと火入れがやり易いらしい。
まだ俺はその領域に至っていないけど、見よう見まねで火入れをして刀身を平らに調節してヤスリで削ってスッパスパに刃を研いで出来上がり。初めてにしてはなかなか良い出来だな…
次にに鍔用に分けておいた鋼を無難な形に整えていく…うん
作り方ワカラネェ…
六角形の間が横に長い両脇が少し尖った鍔を作ろうと思ったが…
無難に半分に折り曲げるか?…まさか剣じゃなくて、ここ(鍔)で悩むとは思わなかった…
電気工具が無いので鉄板にドリルで穴開けて~…とか出来ない。
ひたすら考えた結果。
折り曲げて合わせ、飾り気無い無骨な鍔が出来たのだった。
個人的に意外と気に入ってる。
後は白檀を削り出し鞘を作り完成。
鋼を折り返し終わってから4時間が過ぎていた。実はこれでも尋常じゃない早さで完成したが気付いていない俺だった。
・ 高品質なブロードソード
『白鋼の剣』
分類:長剣
攻撃力:70
鋼で丹念に作り上げられ竜の炎で鍛えられた、鋭い切れ味と扱いやすさが特徴な鋼の長剣。炎を吸って剣自体が再生する特性を持つ逸品。
・長剣の作成スキルがLv2に上がりました。
・鍛冶の極意がLv4に上がった。
火竜の魔法を使うと備わる特性なんだろうか?剣は消耗品だから本来なら必須な特性だろうけど…まぁ見せに行くか。
道具一式をしまって店内に戻るのだった。
「遅いですね…」
ボソッっとステラが呟いた。
「嬢ちゃんは素人だから分からねぇかも知れねぇが剣を打つのは時間がかかるんだ半日は「出来ました~」…はっ?」
若干怒気の孕んだボルカの声が爆発する前に俺の声が割り込んだ。
凄く不安そうなステラの顔を見て少し動揺した。
「ごめん、ちょっと時間かかった」
ステラの不安を少しでも取り除きたくて剣を見せるとホッとした表情になった。
「コレが今の俺に作れる精一杯です、よろしくお願いいたします」
あえて恭しく剣を両手で差し出した。
その声で、ぎこちなく振り向いたボルカは驚いた表情のまま俺の剣を受け取った。
その剣を抜いたボルカは開いた口が戻らなかった。
「…なっ!?何だ、この剣は!?」
「普通より少し幅を少なくしたブロードソードです。結構良いできだと思うんですがね?」
店で見たブロードソードの幅を少し減らした。その分だけ軽く作れるし8層構造なので他の剣よりは丈夫だと思ったが…
「コレは魔法剣だ…どこかから取り出したんだろ!貴様まで俺をバカにするのか!」
「さっき籠って作ったんですけどね~…」
と言った後でボルカは暴挙に出た。
俺の剣をカウンターに置くと別の剣を思い切り振り抜いたのだった。
別の剣…と言うがロングソード等ではない。グレイトソードと呼ばれる重厚な大剣を叩き付けたのだ。
「「あっ!」」
ステラとレイグルは叫んだ。
俺も置いた時はまさか?と叫びかけたけど、自分が打った剣がどれ位の強度があるのか?を俺は興味があったのだ。
そして一つの考察をすることが出来、分かった事がある。
クラフト魔法と火竜の魔法で打った剣の違い。
おそらく攻撃魔法で剣を打つと地球とは全く違った原理が金属に働くのだろうという事。
その証拠に
「バッ…バカな!…」
驚愕に染まった声を出していたが内心は俺も思っていた。
ウソだろ…
グレイトソードが俺の剣を叩き付けた時、折れる事なく受け止めカウンターを粉砕した。
そしてもう1つ…
「曲がっちゃいましたね、その大剣」
まさかそっちが折れるとは夢にも思わなかった。
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