4 町とギルド
_____________________
ちょっと町の名前で調子を崩され予想外ではあったけど無事に門を通ると世界が一変した。
賑やかな喧騒が聞こえてくる。
「ここは『女神アウラ』が降臨した場所と言われていてね。そこから名前を頂いて町の名前になったと言われているんです。」
女神アウラの大聖堂もあると言うことだった。落ち着いたら御礼として祈りに行こうかな…
町を歩くと屋台のような所がけっこうあり見ていると腹が減ったので、仕舞ってあった焼き鳥を出して食べる。ステラが見ていたので一本プレゼントした。
「因みに盗んでないですよ?あと美味しいですから、1本どうぞ」
「あっ…ありがとうございます…はっ!美味しい…」
焼き鳥タレなので若干手が汚れやすいけど日本の焼き鳥より、かなり大振りなので一本で大分満足できる…と思ってから気がついた。
ヤベェ…宗教上食ったらダメな物とかあったりすんのかな?
一応聞いておくか
「ステラ…あげてから申し訳ないけど…」
「こんな美味しいもの返しませんよ?」
よほど気に入ってくれたらしく嬉しい…じゃなくて。
「いや、そうじゃなくてね?それ鳥の肉なんだけど宗教上食べられないとか大丈夫?」
ステラは、俺の不思議な質問に納得してくれた。
「私はお肉大好きです!もし宗教で食べられない時は大抵の人は受け取らないから大丈夫ですよ~」
とても美味しそうにモグモグとハムスターの様に頬張っている。
しばらく歩くとギルドに着いた。
パッと見た感じでは宿屋と酒場を組み合わせた感じ。食事も酒臭さも無いけど。
結構人がいる。いかつい感じで傷が目立つゴロツキっぽいのとか。
新入りか?ステラの連れだろ?見たことねぇぞ、いつものやるか?ニヤニヤしてるのもいる。
「あらっ?ステラさん今日はお早いですね?」
「レジーナさん今日は珍しい事がありまして」
ステラの視線を追い受付の横にいる俺に視線を向ける。小声でレジーナさん?に告げた。
「こちらはカズキと言いまして『迷い人』です」
「まぁ!それはそれはようこそ冒険者ギルドへ私はレジーナと申します。冒険者登録をしてしまいましょうか。」
あれよあれよと言う間に物事が進んでいく、ギルドカードの記入をしていく。
迷い人だと身分証明の関係でギルドカードを作って、その後にギルド長と顔合わせして今後を決めるらしい。
「名前と種族、使う武器…あと記入は出来る所だけで良いですよ」
用意された羊皮紙にカズキ・ホムラ…火竜っと、武器は刀剣にしとくか、まだどっちを使うか決めてないし。
「これでお願いします。」
書き終わって提出する。
「名前…種族!…武器…ここに血を1滴お願いします。」
一瞬種族で動揺したが流石にプロだ。今度から種族を名乗るのは控えようと思う。
血を1滴で一瞬止まる。それに気付いたステラがナイフを出す。
「これなら、そんなに痛くないですよ」
俺の作ったナイフか…指先を切っ先に近付ける…うっ思ったより痛くない、さすが高品質!自画自賛してる場合じゃない。
名前の横に血を付けると羊皮紙自体が光だす。レジーナさんが白いプレートを乗せると羊皮紙が燃えてしまいプレートに火が吸い込まれた。
「これで終わりなのでギルド長と会っていただきますので応接室までどうぞ。ステラさんも状況説明をしていただきたいので…カズキさんは質問はありますか?」
1つだけあった。
「仮に盗まれて他の誰かが使う事は出来るんですか?」
「出来ません、本人が持つ事によって特殊な回路が作動すようになっているので門で止められますよ。」
お礼をいうと白いプレートを貰って応接室に通された。
これがギルドカード…
名前と武器、下のレリーフは女神アウラらしい…綺麗だ。
「それって実は魔法がかかった羊皮紙なんですよ」
不思議そうに裏表を見て回しながらカードを見ていると隣に座っていたステラが教えてくれる。ついでにさっき切った指先にヒールもかけてくれた。
「へ~魔法って凄いね」
プラスチックのポイントカードっぽい…縦型だけど。
「ホワイトからアイアンにはすぐ上がるのでカズキなら大丈夫ですよ!」
ありがたい過大評価だな~嬉しいけど。話をしていると扉が開いた。
「いや~待たせて悪いな、俺はギルド長のバグラムだ。お前が迷い人のカズキか。ステラも彼を保護してくれて、ありがとう。」
ギルド長、筋骨粒々のゴツいヤツをイメージしていたがエルフっぽい気がする。
キズと筋肉多めだが…
「いえ、出会ったのは偶然ですから…」
出会いをステラが説明してくれている。
本当に偶然だよな、普通は町を目指すのに森を歩き回って死にかけるとかアホだな俺。
説明が終わると改めてギルド長は俺に向く。
「さて…お前は何がしたい?」
一瞬正直ビックリするほどストレートな聞き方で唖然とし苦笑してしまった。
「自分で武器を作りながら冒険者がしたいです。」
鍛治しながら冒険者したいとアウラ様に言った事はブレていない、ゴブリンに襲われて助けてくれたステラの様に誰かを助けられる冒険者になりたいとギルド長に伝えた。
「ステラさんは随分と慕われていますね」
口調が変わりニヤリと笑ったギルド長。俺の発言で顔が赤いステラがゆっくり話した。
「私はそんな殊勝なつもりで助けてはいませんから…お恥ずかしいです。」
「そうですね。カズキさん、試すような事をして申し訳ない。冒険者は大変な仕事ですから『自分の命』を優先するように教えています。」
自分の実力を過信せず全滅覚悟で助けられない命まで救おうとするな。強い者に任せろ…と言うことらしい。
「もちろんです。俺は弱いですからわきまえていますよ。」
「よろしい…ではコレで準備して依頼を受けると良いよ」
ジャラっと銀貨10枚を渡された。
「まだ何もしていないのに、お金なんていただけません」
俺は断ったが無理矢理渡されたのだった。
「先行投資だから気にしないで、宿はステラさんの所が良いだろう。良い先輩になるだろうし、よろしくね。」
「慎んでお受けさせていただきます!」
先輩になったステラは張り切っていた。まず俺の価値観の無さを教えるために武具店に連れていかれた。
「おじさん!こんにちは」
こじんまりとしているが雰囲気のある武具店だ。
「おぉ~ステラちゃんか、何か入り用かい?」
「いえ新人冒険者を案内していまして」
ステラの後ろを覗いて店主が見てきた。
「カズキと言います。これから御世話になるかもしれないのでよろしくお願いします!」
日本人の癖で深々とお辞儀をする。
「なんか礼儀正しい新人だね。これから期待してるよ!」
軽く頭を下げた。
自己紹介が終わって本題に入る。
「あの、コレを鑑定してほしいんです。ある人からの贈り物なんですが」
「ステラちゃん美人だからね…どれどれ…なっ!?…コレは」
ステラの顔とナイフを交互に見ている。
「誰から頂いたかは言えないのですが…大変高価な品ですよね?」
誰から頂いたかは言えないと聞いた店主は目に見えて沈んだがプロ根性を出して話し出した。
「何処で、こんな品を手に入れたか興味は尽きないけど…こんな品をくれるとは相当だね。」
ステラが若干こちらを見てくる。自分で聞いてみろ!と言う事だろう。
「新人なので分からないのですが、そのナイフは凄い品なのですか?」
「凄い何て物じゃないよ?この大きさは初めて見るね。ちょっとしたレア物で金貨1枚と半貨で買い取らせてもらいたいけど…」
視線をステラに向ける店主だが
「売りませんよ?大事な宝物ですから」
ステラはニコニコしながら答えた。
「ステラちゃんが宝物っていう位には凄い品だよ。何しろ…この品質で魔法剣なんて滅多にないからね。」
改めて鑑定する。
・高品質な水精霊のダガーナイフ
分類:ナイフ
攻撃力:25
とても丹念に作り上げられ水の魔法を扱えるように刻印されたダガーナイフ。
肉を切った際に手入れが楽になる。
このサイズの魔法剣…あんまり使い物にならない気がするんだけどな~と思っていると店主が気付いたらしく。
「ステラちゃん、新人冒険者が実感ないみたいだし裏に試し切り出来るから見せてあげなよ」
「ありがとうございます!」
横から裏へ向かう。
「私が言った通りだったでしょう?」
横に並ぶと小声で話す。
「ステラの言うとおりだったけどこのサイズでも役に立つの?」
俺の疑問にステラは見ててください!と意気込んでいた。
店主が巻き藁を立て、少し離れると手を上げた。
「良いよ~」
掛け声と共にナイフが光り、上から切る動作をした。
水の刃がナイフから飛んでいき巻き藁がスパッっと落ちた。
「えっ…マジで?」
俺は唖然とした。攻撃力25?の威力じゃないし!魔法を唱えてもない?
「コレが魔法剣で、詠唱もありません。このサイズで十分に使えます。」
魔法剣って名前だけで舐めてたわ…あれ?じゃぁ…もしかしてアレをやってみると面白いんじゃ?…
少し考えてチラッとステラを見ると店主と売って!売らない!のバトルをしていた。
結果は売らなかった。俺のプレゼントを大事にしてくれて嬉しい。
「他は今度にして宿屋に行きましょうか、ギルド経営で冒険者専用の宿なので安いですよ!」
自分の部屋に帰れるのが嬉しいのか、浮かれているように見えた。距離はギルドから歩いて10分程だろうか。
「ここがギルド経営『恵みのオーロラ』ですよ。」
「ほぉ~意外と大きいですね」
綺麗な白亜の邸宅って感じだ。2階建てで結構奥行きがある。
「あら~?ステラちゃん何してるのそんな所で?」
外観全部が見えるところで立っていたら中から呼ばれた。
「女将さん!新人冒険者のカズキの案内してるんです!」
「まぁ~そうなのね。じゃぁご馳走するわね。」
ステラに押されて中に入ると少し武骨な冒険者!って感じのオッサンがいた。
「おぉ!お前が新人か!ガンバれよ!」
ただのめっちゃ良い料理人兼マスターだった。
1日黄銅貨2枚だったので銀貨1枚で5日分前払いした。連泊で前払いだと1日1食付くと言われたら払うだろう。
二階の奥部屋で隣はステラだった。
「着替えたら一緒に食事でもしましょう」
言われたので着替えた。至れり尽くせりなアウラ様に感謝の祈りをした。
微笑んでる姿が見えた…気がした。
ノックをしてステラと1階の食事場で晩御飯を食べて明日の相談をした。
二人しかいないのでゆっくりできた。
「明日は依頼をやってみましょう!それにチーム登録もしないとですし」
「依頼か楽しみだな。でもチーム登録?ってした方がいいの?」
チーム登録は犯罪を防ぐ意味でも必要ではないがやっておいた方が良いらしい。冒険者狩りの様な事をする輩を減らすためにも…
「ステラ、ダガーナイフを貸して貰っても良いかな?少しやっておきたい事があってね」
「?どうぞ、何かするんですか?」
そして武具店で思い付いた彫金をする。片面しか刻印をしていないので、もう片面に刻印をする。
初めて助けてくれた時の氷の槍をイメージして彫金スキルで氷魔法を付けたら便利じゃないかと思ったのだった。
スキル欄の氷の刻印に
・雪の結晶
・六角形
が表示される。
コレを両方組み込んでイメージに合うデザインを彫っていく。
ステラは少し不思議そうに見ていたが俺は出来るだろうと思っていた。
キンッ…キンッ…と食事場。響き最後にコソッと自分が作ったシンボルとしてドラゴンのレリーフを叩き込み出来上がった。
よし、鑑定っと…
・高品質な水精霊の氷刃纏うダガーナイフ
攻撃力:25
とても丹念に作り上げられ水と氷の魔法を扱えるように刻印されたダガーナイフ。
冷えた刃で肉を切った際に傷み難く、水によって手入れが楽になる。
竜のレリーフが入っている。
うん傑作だな!コソッと入れた意味がなくなる説明文ありがとう…
「ステラありがとう。コレで両方刻印できて完璧になったよ、命を助けていただきありがとうございました。」
「?いえ、カズキから頂いたものですから綺麗な彫金をしていただくのは嬉しいですが…何をしたんです…か…」
片側しか刻印できなくて心苦しかったがコレで完璧だぜ!位の感覚だったのだが…
ステラが口を開いたまま完全に固まった。
「…あの~ステラ?ステラさ~ん?おーい?」
目の前で手を振るとハッと正気に戻った…次の瞬間に怒涛の質問ラッシュ。
「カズキ!何をしたんですか!?何でこんなことが出来るんですか!?」
「特別な事してないけど…」
俺の言葉で言ってもムダと分かったようでガックリしたステラだった。
__________________