3 イノシシと獣人
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お礼をする事にしたけど…女性にサバイバルナイフを送るのもちょっとな…と思った時にダガーナイフを思い出す。
ダガーナイフを装飾して送る事を思い付いた。
「今出来るのが装飾くらいなのですが、どんな模様だったら嬉しいですか?」
現段階だと時間的にも片面側しか出来ないけど…
「そうですね…私は月と星が好きです。カズキは彫金師なのですか?」
月と星、後は勝手に花をアレンジしたデザインにした。地面にササッと描いてイメージを作る。紙が欲しい…
「いえ、火竜の鍛治師ですよ」
金槌と鏨を使ってイメージを掘っていく。
「えっ!竜族の鍛治師なのですか!?」
そんなに驚くような事なんだろうか?
ダガーナイフの刀身に満月の左寄りに円を開いた三日月を彫りながら話をしている。
「竜族って珍しいんですか?」
「少なくとも私の初めて出会った竜族の方はカズキが初めてですよ?」
…想像以上のレア種族だったらしい。
キンッ…キンッと鏨を打ち付ける音が響き月が彫り終わる、星と花を組み合わせた星を彫り始める。
四枚小さく、四枚大きい星の輝きをイメージして八枚に分けた。
「そうなんですね。迷い人なので知識が全く無くてお恥ずかしい限りです…」
喋りながら彫金していく。鉄製のダガーナイフなのに面白いくらいに彫れる。
「綺麗ですね…」
見る余裕はないけど、いつの間にか近寄ってきたらしいステラさんが覗き込んでいるようだ。
付与装飾を試してみようと思う。
「ステラさんはナイフに付けてみたい魔法とかありますか?」
「ナイフだったら洗うので水の魔法を付けたいですね。」
水の紋様が目前に表示される。これを彫れば刻印されるのだろう。水の滴と循環の交わりをイメージさせる紋様だ。
切っ先側に水の紋様をスッと刻み込み一振りのダガーナイフが完成した。
鍛治の極意のレベルが上がりました。
彫金のスキルを取得しました。
・高品質な水精霊のダガーナイフ
攻撃力:25
とても丹念に作り上げられ水の魔法を扱えるように刻印されたダガーナイフ。
肉を切った際に手入れが楽になる。
なっ…これヤバイだろ…攻撃力が10増えたのにコメントがこれかよ…
白檀の鞘にいれてステラさんへ両手で差し出す。
「ステラさん、時間がかかってしまってすみません。これをお礼にお納めください。」
あえて仰々しくお礼をして見せる。
クスクスと笑うステラさんの声が聞こえる。
「ありがとうございます。とても綺麗なナイフをありがとうございます…えっ?」
喜んでくれたようで何よりだ。ナイフを鑑定したらしい。
鍛治の極意のレベルが上がって嬉しい。ステータスを表示させると選択肢が現れた。
《鍛治の極意》
・刀剣作成Lv1
・斧鎚作成Lv1
・槍棍作成Lv1
・弓杖作成Lv1
迷わず刀剣作成Lv1を選択する。恐らく鍛治の極意のお陰だが鍛治スキルが上がりやすくて若干嬉しいけど戸惑ってる。
「あのカズキ?こんな高価なもの頂けません!」
「えっ?さっき作った物だから高価な物じゃないですよ?お手製なので若干の荒さは許して欲しいですが…」
ステラさんは唖然としている。やっぱり手作りをプレゼントはダメだったか…と思ったら深く御辞儀をされた。
「ありがとうございます。大事に使わせていただきます。それと…もっと気安く話してステラと名前だけでお呼びください!」
ちょっと怒ったように言われた。
「スッ、ステラって呼ぶから!…それ以上は顔が近いって!」
顔の前を手で遮っているけど10cm位しか距離がないので焦ると名前だけで呼ぶと宣言してから、納得してくれたのかニコッと笑って離れた。
ナイフについて疑問に思ったので聞いてみる。
「ステラ…一応言っておくと、そのナイフさっき作ったんだけど高価な品じゃないよ?」
価値が分からない俺に、俺が作ったナイフの凄さを説明してくれた。
「いいえ!このナイフは武具店で売っていればディース金貨1枚はする代物です!。ナイフだけでも銀貨1枚か2枚はします!。更には…」
ステラが興奮しているのでまとめると…
俺が作ったナイフは高品質で高値がつく。更に付与装飾で彫金した事によって魔法剣としての価値も付いたので物凄い代物だと言うことらしい。いまいち分からない。
「へぇ~作って売れば儲けられるって事で良いのかな?」
かなり軽い感じで言ったらステラが苦笑した。
「迷い人だと価値が分からないですよね…興奮してしまって、すみませんでした…」
気の抜けた俺の返事に正気に戻ったらしく恥ずかしそうにしている。
うん、美少女の恥じらいは良い…とかバカな事は置いておいて。
「いやいや…全く知識が無いから教えてくれるとすごく助かるよ。それにあっちが明るいしそろそろ出口…「逃げてくれ!危な~い!」」
ステラのいる横に発言したが『後方から』怒鳴り声が聞こえてきたので二人とも振り替えると驚愕の表情に染まった。
ドデカいイノシシが突進してきたのだ。
「「げっ!?」フォレストボア!?なぜこんな所に?!」
フォレストボアって言うらしい…とか冷静に言ってる場合じゃねぇ!。
「ステラこっち!」
ステラの腕を引いて全力で横に逃げる。
間一髪で今いた所をフォレストボアが通りすぎていった。
「すまねぇ!お詫びに肉をプレゼントする…ぜっ!」
フォレストボアが戻ってこないか様子を見ていると更に何者かが猛スピードで走り抜けていき何かを投げた。
次の瞬間、ピギギィィィ!とボアの悲鳴と絶命の証として巨体が転がりながら倒れた。
倒れたフォレストボアを確認してから誰かが戻ってきた。
「いや~悪ぃ悪ぃ。あと一歩でアイツ逃げやがってよぉ~…ってステラか?こんな所で逢い引きか?」
一瞬ポカ~ンとしていたがステラの顔がみるみる赤くなっていく。
「そっそんな訳ないじゃないですか!依頼で薬草を摘みに来てたら迷い人のカズキがゴブリンに襲われていた所を助けてギルドに連れていってる最中です!」
そしてステラの知り合い?らしい人物が近づいて来ると俺は思わず凝視する。
「ほぉ~!迷い人か!俺、初めて見たわ!」
軽快な足取りで物珍しそうに俺を一回りして全身を見てくる。逆にこの男性の『毛並み』を見てしまう。
白い毛並みと頬の辺りの縞模様、人間の顔なのに猫っぽい鼻…。
「獣人?…ネコ?」
「トラだ!」
違ったか…
「俺はトラの獣人で名前はレイグル、まぁ迷い人は知識ねぇって聞くしな間違えるのもしょうがねぇぜ…因みに俺は『盗賊』だ」
ニヤリと笑いながら獣人のレイグルは『盗賊』と言った。当然身構える俺だが…
ステラは呆れた視線をレイグルに向けている。
「ハイハイ…自称『盗賊』で私に冒険者の心得を教えてくれた短剣使いのレイグルさんね…」
「なっ…いきなりバラすなよ。近付いてくる奴を信用しないようにだな…」
「もう私が説明しましたから心配無用です。カズキ行きましょう?」
スタスタとステラが行ってしまうので慌てて追い付く。恐らく『逢い引きか?』に相当御立腹の様子だった。
チラッと後ろを向くと呆然と立ち尽くすレイグルだった。
「ステラ?あの人ほっといて良いの?」
「大丈夫ですよ、あれでもブロンズクラスの冒険者だから」
そして冒険者のランク付けの説明もしてくれた。
ギルドランクにはSSS、SS、S、A、B、C、D、E、Fがあって、カードの材質がオリハルコン、ヒヒイロカネ、ゴールド、ミスリル、シルバー、カッパー、ブロンズ、アイアン、ホワイト(羊皮紙)の9つあってステラはホワイトらしい。
ギルドに着いたら説明して貰える事らしいけど今先に知れるのは利点だと思う。
「スゴく為になって助かるよ。じゃぁレイグルさんって強いんだ?」
「フォレストボアを単独で倒せると実力があると認められて、この町のギルドではブロンズになれるんです。ブロンズ以降はギルドや都市部の貢献度も大事になるんですけどね。」
話を聞く限り『この町は』って事はブロンズまでは町の周辺状況によって主要な危険度が設定されていて単独か数人かで徐々にランクをあげていくらしい。
そんな話をしていると町…と言うより壁に辿り着いた。少し離れた場所に大きめの門が見える。
「ここが町の外壁になります。モンスター避けの壁ですよ。」
この壁は様々な石を組み合わせて城壁のような作りになっている。その壁沿いを歩いて門へと向かうと門番が話しかけてきた。
「おぉ~ステラの嬢ちゃん、依頼終わったのかい?…ん?そっちの男は…見慣れない顔だな?」
「はいゴロンさん、依頼が終わって『迷い人』がいたのでギルドに案内しようと思いまして、彼はカズキと言います。」
この門デケェ~とかキョロキョロしてたら名前が出たので慌てて自己紹介をした。
「カズキと言います。目覚めたら森で目覚めてステラに助けていただいて案内?してもらってる最中です。」
この男性…ゴロンさんが『迷い人』に反応して俺を注意深く見てくる。
「失礼だがステータスプレート見せてくれねぇか?本来ならマナー違反なんだが『迷い人』を語る偽物もいてな…」
門番で町の治安を守る以上必要な事だろうし見せる事をなんとも思わない。
後で知ったがギルドカードがあれば見せる必要はないらしい。
ステータスを聞くのは本当にマナー違反のようで苦々しい顔で聞いてきてくれている。ステラに聞かなくて良かった…と思ってステータスプレートを出して、ポンッと見せる。
「どうぞ」
「悪いな…え~っと…おっ!?」
この人、いい人だな…なんか固まってるけど…
パッと見るとパラメータの一番下までしか見えないけど『迷い人』の確認は種族に分類されてるからパッと3行目で見れる。
固まってる門番にステラから助け船が出た。
「ガロンさん、カズキの種族は秘密でお願いしますね」
ハッと気付いたように動きだし反応した。
「おっ…おう…この秘密は漏らせねぇよ…ゴホン!気を取り直して『アウラ』の町へようこそ!」
町に名前を聞いて心の中でズッコケると共にアウラ様が微笑んで手を振る映像が脳裏に浮かんだのだった。
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