2 ゴブリンと出会い
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焼き鳥を頬張り鉄の刀を見ながら考える。
確かに日本人で刀に憧れるけど真剣は扱った事がない…って言うか剣すら使って切ったことなんか有る訳がない。他に何かないか…とよく見たら鉄の剣や着替えも2着ずつ入っていた。
鉄の刀と鉄の剣、持ち比べてみると刀の方が持ちやすいが剣の方が威力があった。
鉄の刀
攻撃力:10
鉄の剣
攻撃力:12
攻撃力だけで鉄の剣を装備した。攻撃力が高い事に損はないはずだし…
いつまでも現実逃避していないで鍛治師も確認しないとな、鍛治道具一式を取り出して見る。
・オリハルコンの金槌、素晴らしく軽いのに壊れる事はない。攻撃に使用不可。
・オリハルコンの金床、素晴らしく軽いが呪文で固定可能で様々な物を作れるようになる。攻撃に使用不可。
・オリハルコンの火箸、素晴らしく軽いのに使用者の意思によって挟む部分の形状が変化する。攻撃に使用不可。
・オリハルコンの砥石、武器を研磨する際に使い使用者の意思によって細かさが変わる。使い分ける必要の無い逸品。攻撃に使用不可。
・オリハルコンのヤスリ、武器を研磨する際に使用する。砥石を使用する前に削り出すことが出来る。使用者の意思によってヤスリの荒さを変える事が出来る。
・オリハルコンの鏨、装飾を行う際に使用される。使用者の意思で形が変わるためこれ一つで様々な模様をいれる事が出来る逸品。攻撃に使用不可。
・オリハルコンのつるはし、素晴らしく軽いのに鉱脈をいくら掘っても壊れない。攻撃に使用不可。
鍛治道具だけど性能がおかしい…しかし軽い…パッと見た印象が白銀で作られた綺麗な道具だ。
鍛治師でやれる事の確認のしておくか…
《鍛治スキル》
・鍛治作成
・付与装飾
作って、効果を付けて、強化するって所かな
鍛冶作成を選んだら
・武器作成
・防具作成
どっちか選ぶのか?と思ったら
『服飾スキルが無いため自動的に武器作成が選択されます。』
まぁ武器作りたいから良いんだけどね
《鍛治作成リスト》
・多目的ナイフ
作成スキル上限により作成出来ません
膝から崩れ落ちた。
「レベルが低いのはしょうがないけど、ここまで何も作れないとは…」
作ってれば経験値上がって増えるだろ…
試しに作成で多目的ナイフから選択肢が出て、ダガーナイフを作ってみる。
鉄はインゴットの形状になっているので、その鉄を火箸で挟んで魔法を唱える。
「火竜の息」
息と付いてはいるけど口から出てる訳じゃなく火の魔法だ。
素材の鉄を包むイメージで火に包まれる…が、鉄がみるみる縮んでいく。
10秒後に火箸の間はピッタリ閉じて何もなくなった。
「………」
『鍛治の極意、火竜の魔法のスキル熟練度が足りないので生成に失敗し素材を失いました。クラフト魔法の使用をオススメします。』
名前的に製作系の魔法と思ったが、いきなり火竜の魔法を使うというレベルの高い事をやったらしい。
気を取り直して…
「クラフトファイア」
このクラフト系魔法は鍛治や錬金術等の生産系で使用する魔法らしい。あと家事にも使えるらしい。
火に包まれ鉄が徐々に赤熱して白に近くなっていく、白くなる前に止める。白くなると弱くなると聞いたことがあったからだ。
炭粉を鉄にかけて叩き始める。本来と作り方は違うけど炭素少な目の鋼鉄、カーボンスチールになる予定だ。
熱した鉄に水を少しかけて不純物を叩き出す、ひたすら横に折り返しを2回繰り返し、1時間後にダガーナイフが出来上がった。粘土を水で溶き刃の部分に塗ってからまた熱する。
「クラフトファイア…クラフトアクア」
拳位の浮いた水に再度赤熱させたナイフをゆっくり浸ける。水が泡立ち蒸発し収まると水気をきって刀身を布で吹いた。
鉄の純度が良かったので本来はナイフの形に叩き出すだけで良かったが、今回の鍛治の仕方は刀に憧れ勉強した刀鍛冶を参考にした。
この世界だとあまりにも変わった方法だったらしいが今はまだ気がついていなかった。
浮いている水を使い砥石で仕上げる。
出来上がったダガーナイフを見る。
鍛治の極意レベルが1上がった。
鍛治師見習いを取得しました。
鍛治師見習いのレベルが上がります。
…アウラ様の声でレベルアップアナウンスが流れてくる。機械音声だと思ってたが、もしかして『女神アウラの寵愛』の効果だったりするんだろうか?
癒されるから良いんだけどさ
・高品質な鉄のダガーナイフ
分類:ナイフ
攻撃力:17
とても丹念に作り上げられた丈夫なダガーナイフ、肉を切り取るのに便利。
…鉄の剣より攻撃力が高いけど長さの関係で剣の方が良い。恐らく作った方が品質も良い強い武器を作れるだろう。
大量生産品とは違うってことかな?
白檀を1つ使ってダガーナイフで削り出し鞘を作って、皮で革紐を作り持ち手を編んでいく。鞘は肌触りが良く、持ち手はしっくり来る。あとアウラ様は鍛治師として必要な素材も一通り用意してくれたらしい。
時間はかかったけど、ダガーナイフ1本作った事に満足して森を歩き始めた。
その結果
「俺バカすぎんだろぉぉぉ~!」
ゴブリン2匹に追いかけ回されている。
無計画に歩き出す前の俺に考えろと言いたい。
日本の感覚に慣れ、平和ボケしている思考回路を恨んで走っている。
10分ほど前、マッピングをしていた。鑑定士によって色々とアイテムも拾ったりしていた。
「意外と薬草がいっぱいあるんだな…」
薬草はHPポーションの材料になり魔草はMPポーションの材料になる、拾えるものを片っ端から拾い、たまたまモンスターに会っていないこともあり完全に油断していた。
そして歩き回ってどれくらいマッピング出来たか確認しようとした時に目の前に剣を持ったゴブリンが1匹いた。
初戦闘で正直震えたが順調に戦えていた。だが止めを刺す時…命を奪う事に躊躇した。
その隙を突かれタックルを食らい吹き飛ばされた。そして喚き出すゴブリン、何をしているかは仲間が現れたときに分かったが既に遅い。
全力で逃げた。
「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ…」
冷静になればゴブリン2匹なら勝てる相手なのだが仲間が現れた事によってパニックで逃げ出していた。
「「グギャァァァ!」」
後ろから迫ってくるゴブリン。
どうにか逃げ切れるかもしれない…と思ったときだった、背中に衝撃が走り俺は吹っ飛んだ。
「ぐはっ!…何だ今の…」
吹っ飛びつつ転がりながらゴブリンの方を見ると石を片手に持っていた。
あの石が背中に当たり吹っ飛んだらしい。頭に当たらなかったのは幸運だったが目前までゴブリンが歩いてきた。
醜悪な笑みをして剣を振り上げてくる。
せっかく転移したのに短い人生だったな…。
そう思った時、周囲を冷えた感覚が襲った。
氷の矢がゴブリン2匹に直撃し吹き飛んで息絶えた。
とレベルアップしたらしいが正直確認する余裕はなかった。
「貴方!大丈夫ですか!?」
走ってきた少女が恐らく魔法で俺を助けてくれたらしい。
「多分大丈夫…ありがとう…君は…?」
「私はステラと申します。手を擦りむいていますね『ヒール』」
一瞬女神アウラ様と見間違えたが白金髪の少女だった
両手をポワッっと光が包み込んで痛みが消えた。
「ステラ様、重ね重ねありがとうございます…うぉ?!…」
ずっと持っていた剣を鞘にしまうと俺は安心したらしく腰が抜けてしまい立てなかった。
「大丈夫ですか?」
「すみません…気が抜けてしまった様で、カズキと申します。」
情けない気持ちと恥ずかしい気持ちでいっぱいで黙り込んでいるなかステラさんが察したのか話始めてくれた。
「カズキ様ですね…もしかして『迷い人』ですか?」
「『迷い人』って何ですか?」
ステラと言う少女は事細かに説明してくれた。迷い人はこの世界の知識が全く無い記憶を喪失したような状態で現れる俺みたいな人の事。
そしてこの森は迷い人がよく現れる場所でモンスターも少ないので初心者向けの狩場となっていると言うこと、そして近場に洞窟があり資源がとれると言うこと、森で近付いてくる人間に悪い人もいるから気を付けること…
私は悪い人ではないですけどね
ちょっと苦笑した笑顔で色々と歩けるようになるまで話をしてくれた。
「命を助けていただいただけじゃなくて説明までしてもらえて助かります。ステラ様」
「ステラとお呼びください。カズキ様、困っているなら助けるのが当然ですから」
逆に様付けをやめて欲しい…
「ではこちらも出来れば様付けせずにカズキと呼んでいただければ嬉しいのですが…」
「私も名前だけで良いですよ。ではカズキ、町のギルドまで一緒に行きましょうか」
ステラさんの様付けは意趣返しのイタズラだと気が付いて笑った。
この笑顔の素敵な金髪美少女、ステラは魔法使い。ギルドの依頼で薬草を摘みに来て俺が襲われていた所を偶然通り掛かった…と言うか走ってたら着いた
命の恩人なのでお礼がしたい。
「ステラさ…ん、命を救っていただいただいたお礼をさせてください!」
「お礼ですか?そんなに気にしなくても大丈夫ですよ?」
押し問答が少しあったがステラさんが折れてくれた。
鍛治道具一式を取り出して作れる物を確認する。
《鍛治作成リスト》
・多目的ナイフ Lv1
・戦闘用短剣 Lv1
・鍛冶スキルレベルが足りません
鍛治のレベルが上がったが1種類しか増えていない事に少しだけ気分が沈んだ。
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