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廃花  作者: ダンボールボックス
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四話

朝、目を覚ました俺は稽古場へと足を運ぶ。ここは氷見家の正式な魔方陣が敷かれている。ひさしぶりにそこを使用するとあって、俺は少しだけ心が浮き立っていた。しかし、屋敷に隣接する稽古場は完全に封鎖されていた。

 俺は怒りのあまり体を小刻みに震わせながら、優の元へと駆け出す。リビングに優はいた。

 「どういうことだ、優!!」

 「何がですか、兄さん」

 優は優雅に食後のティータイムなんぞ過ごしていやがった。

 「稽古場が封鎖されてるぞ」

 俺がそう怒鳴ると、優は一口カップを口に運ぶと

 「そのことですか」

 と落ち着いて返答した。

 俺はさらに優に詰め寄ろうとすると、その間に輝石が割り込んでくる。

 「なんだ、輝石。これは氷見家の問題だ。口を挟むな」

 「いいえ、関係あります。そもそも、稽古場の封鎖は私の提案ですから」

 「なんだと」

 俺はさらに自信の怒りがヒートアップしそうになるのを感じた。

 「落ち着いてください。兄さん」

 そこに、優の制止が入る。

 「あそこの稽古場は老朽化の影響で

工事をする必要があったんです。ですので、輝石の提案を私が採用してお盆の間は稽古をお休みにしたんです」

 「毎日訓練しろという、親父の言い付けはどうした」 

 「お父さんは、氷見社の社長ですが、魔術師としての氷見家の当主は私です」

 そう言われては、俺はどう反論も出来なかった。俺を押し退けて当主に成った優が軽々しく、休むと言うのは許せない。しかし、現当主に反論するような権限を俺は何も有してはいないのだから。

 「分かった」

 俺はそう吐き捨てると、自分の部屋へと早足で歩き出した。自室に戻った俺は、身支度して部屋を出る。すると、輝石に玄関へと向かう所を見られる。 

 「お出掛けですか、颯さん」 

 「ああ、夕食前には戻る」

 「分かりました。いってらっしゃい」

 輝石に見送られて屋敷を出た俺は、しかし用事がなかった。取り敢えず、電車に乗って町中へと向かう。朝食を取っていなかったことに気づいた俺は早めの昼食を取ることにする。そこで俺は電車の中で笹山に連絡して、ハンバーガー屋の前で待ち合わせた。

 レジでハンバーガーを購入し、笹山と川上の座っている席へと向かう。笹山は朝から川上といっしょだったようだ。俺は笹山と川上の向かいの席に腰かけた。

 「今日は輝石さんはいっしょじゃないんですか?」

 「ああ、別にお前らのように四六時中いっしょなわけではないからな」

 「おいおい、止めてくれよ、颯。俺はこいつとセットじゃないんだぞ」

 「私もあんたとセットのつもりはさらさらないわ」

 俺はそんな二人の主張を聞き流しながら、ハンバーガーを頬張る。ここのハンバーガーはいかにもジャンクな味わいで何となくクセになる。タレとマヨネーズの配合比がなかなか俺の好みにマッチしているのだ。俺と笹山と川上の三人は各々注文したハンバーガーを頬張りながら、他愛もない話をしていた。

 「そう言えば、颯さんのお家ってどんな魔術を使うんですか?」

 川上はふと、そんなことを尋ねる。

 「まあ、時間と空間だな」

 「えー、それってすごくないですか。じゃあ、例えば、空間ごと切断とか、相手の時を止めるとか出来るんですか!!」

 「いや、それは無理だな。家の魔術で扱えるのはエネルギーを対象にした時空の操作に限定される。それも、時間停止とかになると、魔方陣に自分と対象を納めた上で、魔術の行使にもそれなりの時間と体力を消費する。そういう意味では、笹山の使う魔術の方が戦闘面では優秀だ」

 「健一の魔術と言えば、衝撃の増幅と変質だっけ? なんか地味だな」

 川上がそんな感想を漏らすと、笹山は少し心外だったのか

 「地味とは失礼な。まあ、颯の魔術は派手だけどな。それに、颯も俺もそれだけじゃなくて、他の魔術も使うけどな」

 と意見する。

 「そう言えば輝石さんって養子らしいですけど、やっぱり輝石さんも時空みたいな魔術を使うんですか?」

 「いや、輝石の魔術は確か治癒のはずだ。もっとも、小さいときに実家を離れているから、たいして使えないだろうがな」

 「そう言えば、魔術って世襲制ですもんね。適正は血統で決まるんでしたっけ?」

 「まあ、概ねその通りだな」

川上はそれで疑問は大体晴れたのか魔術の話題はそれで終わった。その後は基本的に笹山と川上が話し、時たま口論になりそれを俺が横で黙って聞いているというスタイルに落ち着いた。時刻はお昼過ぎとなり、ハンバーガー屋はますますの盛況を見せる。

 「そんで、これからどうすっか」

 笹山は俺と川上に問い掛ける。

 「私、ボウリングしたい」

 「んじゃ、そうすっか」

 と言って笹山と川上は席を立った。

 「颯、お前はどうする?」

 「やめとく、二人で行ってこいよ」

 「そっか、じゃあな」

 「さよなら、颯さん」

 二人が立ち去る背中を見送った後、俺もしばらくしてから店を出た。

 昼過ぎの街中はあちらこちらに人影を見つけられるものの、静だった。俺は街中をあてもなくさ迷い歩き、結局図書館に腰を落ち着けた。そこで、空が赤く染まるまで読書に耽る。俺は手元にある数冊の本を棚に戻して、図書館を出る。そして、迫る暗い空に追われるように、屋敷へと帰った。

 

 結局、都合のよい電車も来なかったことにより俺の帰宅の時刻は遅いものとなってしまった。家の中には輝石と優、それに角田がいた。

 「おい、刹のやつはどうした」

 「刹さんですか? 刹さんなら、稽古に行ってますよ」

 輝石は俺の問にそう答えるとクスリと笑った。

 「颯さん、眉が寄ってますよ。わからないことがあるとすぐに不機嫌になりますよね」

 「……稽古ってなんだよ。屋敷の稽古場は修理中だろ」

 「はい、刹さんは鎖鎌の稽古に行ってるんですよ」

 「あいつ、そんなことしてたのか……」

 「はい、たぶんもうすぐ帰ってくると思いますよ」

 「そうか」

 俺はそう答えると自室に戻った。

 

 しばらくして、刹が帰ってきて、夕食となった。少しばかりぎこちなさが消えた食卓は昨日と比べれば随分とましな雰囲気であった。俺は書庫へと向かった。そこにはこの家の様々な記録が残っている。重厚な木の扉を開けて中に入る。少し中は埃臭い。別にここに来た理由はない。しいて言えば暇潰しだ。Wi-Fiどころかネット環境すらない、この屋敷において本は数少ない娯楽であるのだ。俺は書庫の中を物色する。大概は魔術書とこの家の歴史をまとめた物だ。俺はふと、棚の中で埃を被っていない本を見つける。俺はその棚を覗いた。俺はそこでは古い歴史書と透明なファイルを見つけた。歴史書の方はタイトルからどうやらこの周辺の魔術師達の歴史を記したものらしかった。それよりも、俺の目を引いたのは透明なファイルだった。その帯には氷見颯の文字。筆記は親父の物だった。さしずめ、俺の魔術の成績簿と言ったところかと俺は検討付ける。もっとも、優が次期当主に決定した辺りからかなり適当な散文になっていそうだが……。

 俺はそのファイルを取り出して開く。そこには幾つかのカルテが入っていた。

 「なんだよ…… これ」

 あり得ないほどの重症。まさに死ぬ一歩手前。そこには幼い頃の自身の事故による傷が詳細に記録されていた。

 「俺、どうやって助かったんだよ……」

 延命方法はわからなくもない。氷見家の魔術には、時間の流れを緩やかにするものもある。それにより、多少の延命は可能だろう。しかし、それではゆっくりと死に向かうしかない。正直に言って、完治している自分が信じられなかった。

 「まあ、こうしてここいいるっていうことは……」

 親父がどうにかしたってことだろう、そう納得して俺は書庫を後にした。

 

 それから俺は、風呂に入って床につく。夏盛りの屋敷の庭からは蛙の鳴き声が聞こえてくる。五月蝿いはずのその声は、しかし小気味良く俺の鼓膜に響き、自然と目蓋が落ちた。

 

 

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