愛の形
○萌法律事務所
都心の高層ビル群のひとつ。8階から10回までの3フロアが全て事務所。
その中の10回のフロア。
皆、自分の席に座りパソコンに向かったり、電話の対応をしている。
緑川光(33)も自分の席で電話対応をしている。
緑川「えぇ、はい。なのでその件につきましては後日、日にちを決めて打ち合わせをするということで。は い、ではまた連絡します。」
受話器を置き、書類に目を通し始める緑川。
奥の席から林直人(56)が声をかける「緑川君、ちょっと」
緑川「はい」
席を立ち、上司の席まで行く緑川。
緑川「なんでしょうか?」
林「じつは、今度君に担当してもらおうとおもっている案件ががるんだけど」
緑川「はい」
林「いつもの民事とは違って刑事なんだけど、どうかな?」
緑川「刑事?」
林「うん。君ももう事件の噂は聞いていると思うけども、例の横浜であった女児監禁事件だよ」
緑川「あぁ、・・・」
林「キツイ仕事になると思うけど、やってくれるか?」
緑川「はい。わかりました」
林「よし。そうか。頑張ってくれ。期待してるよ」
緑川「はい。がんばります」
○高層マンション・外観(夜)
全体がガラス張りの近代的な高級マンション。
○同・1304号室・緑川の部屋(夜)
ドアの横、インターホンの上に”緑川”と書かれたプレート。
○同・中(夜)
20畳ほどのリビング。テレビの前のソファに深く腰を掛け、ウイスキーのロックを飲んでいる緑川
顔の表情が少し虚ろ。
ウイスキーを一気にあおり、立ち上がり奥の仕事部屋に入る。
○同・仕事部屋・中(夜)
仕事机の上にパソコン。壁にはびっしりと美少女アニメのポスターが張ってある。本棚にはマンガや DVDが大量にあり、法律関係の本も大量においてある。
緑川は机に座りパソコンを開く。
<パソコン画面>
”横浜女児監禁事件”
犯人の供述によると「自分の理想の女性に育てたかった」とのこと・・・・・・・。
緑川、背もたれに寄りかかり伸びをし、天井を見つめる。
○萌法律事務所・中
皆、机に座りパソコンに向かっている。
自分の席で書類にめを通している緑川。
緑川の席に上司の林がやって来る。
林「緑川君、昼飯はくったか?」
緑川「いえ、まだですけど」
林「よかったら、一緒にどうだ?」
緑川「あ、はい。いきます」
二人、事務所を出る。
○近くの中華屋・中
サラリーマンやOLで混雑している。
二人は、4人掛けテーブルに向かい合って座る。
緑川はラーメンとギョーザ。林はエビチリ定食を食べている。
林「どうだい?例の件のほうは」
緑川「ええ。いま、関係資料を集めて書類を作っている最中です」
林「そうか。なかなかエグいだろう?」
緑川「はぁ・・・」
林「ま、此処だけの話ロリコンなんて奴らは皆死んでしまえばいいのさ」
緑川「はぁ、・・・」
林「結局、ああいう奴らは精神的に未熟なんだよ。大人の女には全く相手にされないのさ。だから自分のい いなりになるような子供をねらうのさ」
緑川「まぁ、そうですね」
林「あいつらはとにかくろくな事をしない。幼稚でグズな連中さ。それでも、俺たちは弁護士だ。例え被告 が殺人犯だろうがロリコンだろうが、なんだろうと弁護はする。それが仕事だ」
緑川「そうですね」
林「嫌な役を任せてしまって申し訳ないが、君ははっきり言って他の弁護士よりも優秀だ。このオレが認め てる。周りの連中だって、言いはしないが気付いてる。絶対だ。
この件を上手くこなせば、もうこの先出世コースは間違いないよ。だから、君を選んだ」
緑川「ありがとうございます」
林「うん。まあ、とにかく仕事抜きで考えたらロリコンってのはこの世から絶滅してほしいね。まったく」
緑川、俯き料理をみつめる。
林、黙々と料理を食べる。
木造建物の2階にあるバー。
○場末のバー・「ヒヨコ」(夜)
○同・中(夜)
壁一面にジュニアアイドルのポスターが張られ、モニターからは少女のイメージビデオが写されてい る。
カウンターに座り、一人しずかにウイスキーを飲んでいる緑川。
マスター「光ちゃん、元気なさそうだけど」
緑川「そ、そうかな」
マスター「何かあった?」
緑川「いや、別になにもないげど・・・」
男性客が二人店に入ってくる。
マスター「いらっしゃい。おっ、久しぶりですね」
男性客1「はぁーい、ひさいぶりぃー」
男性客1は、顔の横で小さく手を振る。
男性客2は、緑川に気付き
男性客2「あら、光ちゃん。ゲンキーって、何か元気じゃなさそうね」
緑川「えーーっ、やっぱそうみえます?」
マスター「だから言ったでしょう」
男性客1,2が緑川を挟んでカウンター席に座る。
マスター「何にします?」
男性客1,2「ビールっ」
だされたビールを美味そうに喉に流す二人。
男性客2「ふー。さてと。光ちゃん、どしたのよ。ロリコン弁護士の憂鬱ってやつ?」
緑川「まぁ、そんなとこですね(微苦笑)」
男性客1「なによー、意味深ないいかたねー」
緑川「一つ言っていいですか?」
男性客1「なに?」
緑川「気を悪くしたら申し訳ありませんが。正直、僕はあなた達が羨ましいんです」
男性客2「あたし達を?!、弁護士が?」
男性客1,2、爆笑。
緑川、ウイスキーをいっきにあおる。
マスターはグラスを磨きながらチラリと緑川を見る。
○萌法律事務所・中(朝)
皆、机に向かい仕事をしている。
緑川は自分の席を立ち、林の席のほうへ行く。
緑川「あの、林さん」
林「なんだ、どした」
緑川「実はお願いがありまして」
林「ん、何のことで?」
緑川「例の件、降ろさせて欲しいんです」
林「例の件って・・・、おいおい、あれはこれからのお前にとってとても大事な案件なんだぞ」
緑川「ええ。承知しています」
林「だったら、なんで・・・。あれか、なかなか証拠が集まらないのか?、確かに俺ら弁護士には捜査権が ないから物証集めは厳しいと思うが、なんだったらもう少し手伝わせる人手増やしてもかまわないぞ」
緑川「いえ、そうじゃないんです。そういうことでは・・・(声が震えている)。その、なんという か・・・刑事は・・・いえ、その。内容が個人的に・・・(顔が真っ赤になり涙ぐむ)」
林「おい、どうした?様子が変だぞ。体調でも悪いのか?」
緑川「(大声で)とにかく僕には無理です!!」
驚く事務所内の人達。走って事務所を出て行く緑川。席をたち緑川を追う林。
林「おい、ちょ、待てよっ!どうした!」
○萌法律事務所・屋上(朝)
緑川が金網に手脚をかけ、よじ登ろうとしている。林が屋上にたどり着く。
林「やめろっ!一体何があった!言ってくれなくちゃわかんねーぞ!」
林は息が上がり、肩が上下に揺れている。
緑川「林さんっ。僕は法律を愛している。正義を信じている。どんな理由があろうと、一線を越えてしまっ たなら罰を受けるべきだと思っている。でも、世の中には何もしていないのに日々軽蔑の視線を浴び る、いや、感じながら過ごしている人達がいる。わかりますか?どんなお思いで日々過ごしているのか ?早く同性愛の人達と同じくらいに認知して欲しいと願っています。こういう事件が起こるたび、僕らは 白い目で見られ、キチガイ扱いされる。僕は世界をより良くしたいし、人の役に立ちたいと思ってこの道 に進んだ。けど、僕は世の中を・・・」
金網を乗り越え、落ちてゆく緑川。
<おわり>