07 フグ餌(オマケで飼い主も)危機一髪
今年の分。最早ネタでしかない年一投降まだ続くぜ。
『クリルグルメパッファ』それは、『味に五月蝿いグルメなフグちゃんもまっしぐら。最高の餌付き。』そんなキャッチコピーで販売されていた、淡水魚から海水魚まで幅広く使用出来る、実際高品質の人工飼料だった。
厳選した嗜好性の高いオキアミ(クリル)で作たれた観賞魚用の餌は、選り好みが激しく中々人工餌に餌付かない魚でも喜んで食べるという、飼育者には大変助かる凄い万能飼料。
そんな魚用人工餌の中でも売れに売れてた『クリルグルメパッファ』が、なんか大人の事情で唐突に生産中止、販売終了になるという情報がネット上に流れ、観賞魚の飼育者──殊に餌の好みの五月蝿い小型のフグの飼い主達に震撼を齎した。
『ねぇオジちゃん、『クリルグルメパッファ』近々生産中止だって話だよ。ボクあれ好きだから、買い溜めして置いてよ』情報通だが何でも食べるミドリフグのチビちゃんが、水槽の中で買ってやった防水タブレットでWeb巡回しながら突然念話で云った。
「えっ、そうなの。『クリルグルメパッファ』って結構売れてる人気商品って印象あったけど、発売終了するの?」『なんかこう、大人の事情っぽいよ。ボクにとって『クリルグルメパッファ』はオヤツみたいなもんだけど、ボクの知り合いの阿部さんとかは、好き嫌いが多いからアレ無いと困るだろうね』
インターネットとフグ達の間に存在する謎の超常系通信手段であるPCN(Puffer-Communication-Network)に精通し常、電脳空間内を徘徊するチビちゃんには、フグ友も多い。
因みに、チビちゃんの曰くの安倍さんは、公園のベンチで青いツナギ着て座っている『やらないか』の人ではない。世界最小の淡水フグであるインド産まれのアベニー・パファー(学名:Carinotetraodon travancoricus)の事である。
チビちゃんは阿部さんとかなり仲が良いらしく、実際、安倍さんは我が家に遊びに来た事も何度かある。どうやって来たのか不明だが、気付いたらチビちゃんの水槽の中にいて、チビちゃんと遊んでいて、チビちゃんが私に紹介してくれた。移動方法は漁師(量子?)テレポート理論がどうとか? 説明されたが全く理解不能だった。最近では、チビちゃん関係のフグ仲間は高度超謎テクノロジー系の不思議生物だと割り切り余り深くは考えない事にしている。そう、考えるのではなく感じるだけだ。
行き付けのホームセンターのペット・コーナー(魚)の売り場で、何とか『クリルグルメパッファ』3缶を入手する。何時もは結構な量が並べられていたのだが、多分、私同様に販売終了の噂で買い溜めに走った人間がいたのだろう。その3缶を私がカゴに入れると、在庫は0になった。
目的の物が入手出来たので意気揚々と帰路に就く。徒歩なので交通量の多い表の道は通らず、地元民のみが利用する細い裏道を選んでブラブラ歩く。と、行き成り電柱の影から覆面姿の包丁を手にした男が私の前に飛び出した。物取りか?
「お、おい、あんた。『クリルグルメパッファ』持ってるだろ。それ寄越せ。ホームセンターで最後の3缶買うのを見たからな。……そ、それは本来オレが買う筈の『クリルグルメパッファ』だったんだ。刺されたくなかったら、素直にそれを渡せ」
「『クリルグルメパッファ』強盗かよ。昔、エアマックス狩りとかあったけど、真逆、フグ餌の販売終了で新しいジャンルの追い剥ぎが誕生するんかよ、おい。」幾ら人通りの少ない裏道とはいえ日中に堂々と強盗とか、日本の治安も完璧では無い様だ。
(どうしようか? 刺されたら嫌だけど、チビちゃんご所望の『クリルグルメパッファ』渡す気にもなれん)私は悩む。すると突然、『オジちゃん、伏せて』チビちゃんの念話が頭の中に。私は咄嗟に従った。
次の一刹那。或る住宅の道側の窓に穴を穿ちながら飛び出した水弾が、強盗の頭部に命中。達人級のヘッドショット! 凄い。「ぐわっ!」死んではいないだろうが、強盗の男は倒れた。
『危ない処だったね、オジちゃん。こんな事もあろうかと想定して、オジちゃんが通るであろう道沿いのフグ友さん数名に護衛を依頼しといて良かったよ。今のは、テトラオドン・ショウテデニーの得意とする、高圧で水槽の水を口から発射する、名付けて奥義フグ鉄砲。遠距離狙撃も可能な凄い技だよね』
成程、さっきガラスに穴が空いたあそこのお宅で飼われていた高級淡水大型フグのテトラオドン・ショウテデニーがチビちゃんのフグ友で、その彼か彼女か知らないが、が私を助けてくれたのか? どういうリアクションすればいいか判らんが、まあそういうもんなんだろうと割り切る。フグ凄いわ。
早、第7話。