04 巨大化フグ
『フ~グフグフグミドリフグ、でっぷりお腹のミドリフグ~♪』おチビちゃんが謎の歌を口ずさんでいる。暇があればTVを見ているので、知らぬ間に何か色々な言葉や知識を勝手に憶えて行くので即興の謎歌作り程度は既にお手の物の様だ。
そして今宵のチビちゃんの夕食はアサリだった。先刻それを丸っと1個完食して、美味しかったのか今のチビちゃんはかなり上機嫌の様だ。本能的に歯の伸びるのを予防する手段を知っている様で、殻ごと貝を入れてやると暇な時にそれを噛み砕いたりもする。
しかし、体長1センチ位しか無い癖に、このチビちゃんは凄い食欲である。何時も大量に餌を欲しがるが、この身体の何処に収まるのだろうか。そして、一体どんな胃をしているのだろう?
満腹を讃える歌を口遊み終わったおチビちゃんは眠くなったのか、今度はパンパンに膨らんだお腹を上に向けて、水面近くを漂い始めた。何だよそれ、死んだ魚かよ、と思って苦笑してしまう。
しかしこの体勢、魚としてはどう何だろうか? 海や川で白い腹を上にして浮いていたら、鳥に狙われ放題な気がするのだが。うん、この寝方は魚としておかしい。絶対に普通じゃないだろう。ミドリフグ独特の習性……とかでは断じて無い、と思う。
まあ賢い子だから、飼いフグである自分の境遇をちゃんと理解していおり、どんな寝方をしても別段危険がないと判断した上で、野生を捨て切った魚らしくないふてぶてしさを発揮しているのだと思うが。
もしかすると、食い過ぎて腹がくちくなっている状況だと、この寝方が楽なのかも知れないが? 何にしろ、おチビちゃんは少々健啖が過ぎるのだ。その食い意地の凄さは、別に今更に始まった事でもないのだが。
そういえば、おチビちゃんを飼い始めて──感覚的には、買うというよりも一緒に暮らし始めて、と評した方が近いのかも知れないが、兎も角、既に5ヶ月は経っているから、その食欲の旺盛さにはもう大概、慣れたいえば慣れた。
だが、それでも気になって仕方のないのは、毎日品を変えてかなりの量の食事を与えているのだが、このおチビちゃんの身体が全く成長しないという事だ。初めて逢った時の体長が1センチ。今でも体長1センチ。幾ら何でも、余りに成長しなさ過ぎである。
いやまあ、代わりといっていいのか、おチビちゃんのオツムの方はかなり成長してはいる。暇な時にずっとTVを見ていた所為で、憶えなくていい余計な知識を一杯憶えて、知能はかなり上がって賢くなっているのは間違い無い。でも身体は成長しない。
「おチビちゃんは沢山食べるけど全然大きくならないなぁ」なんとなく呟いてみる。と、『えっ、大きくなって欲しいの? 小さい方が可愛いんじゃない?』おチビちゃんが反応を返す。
「小さいのは可愛いけど。大きいフグはフグでまた可愛いのさ。……って云ったって、成長速度なんて自分で調整出来るものじゃないだろうけど」『ええっと。やれば出来ると思うから、ちょっと大きくなって見るね』
おチビちゃんは『うーん』と唸って気合を入れた。お腹でも膨らませるのだろうか? と見ていると……唖然、何故かおチビちゃんの体長は見る見る間に20センチ程に巨大化した。そしてデカ・ミドリフグの体積で押し出され水槽の水が溢れた。
「な、何それ?」『フグっぽく膨らんでみたよ』「違うから。フグの膨れるのはそういうのとは違うから」『えっ、そうなの? まあいいや。疲れたから元のサイズに戻るね』おチビちゃんの体は縮んで再び小さくなった。
うん、違う。これ、やっぱり普通のフグじゃない。というかフグかどうかも怪しい謎生物だわ。もしや地球外生命体? 私はそう確信した。……別に、危険な生き物ではないし可愛いから謎生物でも良いんだけれど。
……年一ペース更新。(苦笑)