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03 試食フグ

久々更新。

 午後8時閉店のよく利用する近所のスーパーは、その1時間前より生食惣菜の半額サービスタイムに突入する。因ってその時間帯は、見切り品を狙った買い物客達で店内は賑わう。かく云う私も当然の如くその中に混じって買い物を済ます。

 鶏胸肉100g¥48円が半額。買いだ。キハダマグロ、ビンチョウマグロ、共に100g¥138円が半額。買いだ。アサリ、100g¥98円が半額。買いだ。干しエビ(オキアミ)100g¥158円が半額。買いだ。こうして私の買い物カゴは満たされて行く。



「ただいま」『お帰りなさい~♪』家に帰って挨拶すると、ミドリフグのおチビちゃんがそれに答えてくれた。独り暮らしを始めてからもうかなり長く、誰も居ない家に帰るのには慣れていたつもりだが、やはり誰かに出迎えの言葉を掛けて貰えるのは嬉しいものだ。

 何時の間にか、このミドリフグのおチビちゃんは、私にとっての掛け替えのない家族になってしまっている。ミドリフグの平均的な寿命は5~6年だと聞いている。この子が寿命で死んだら激しく落ち込みそうである。

 まあ尤も、この念話の使えるおチビちゃんが普通のミドリフグかというと、絶対に違う様な気がするので、一般的な寿命なんて余り当てにならないのかも知れないが。そもそもこの子、家に来てから3ヶ月位経つし、毎日凄く食べてるけど何故か全然大きくならない。

「やあおチビちゃん。今日は君が好きそうな食べ物、色々買ってきたよ」『えっ、本当。嬉しいなぁ。じゃあ早く、ご飯頂戴』おチビちゃんは激しく上下運動を始めた。その嬉しさを、全身で表現しているのだ。まあ、落ち着きがないフグともいえるが。

「鶏胸肉、キハダマグロ、ビンチョウマグロ、アサリ、干しエビが在るけど、どれを食べたい?」『全部~。全部味見したい~♪』「えっ、全部。1日1品で、何日かに渡って味見するとかじゃ駄目なの?」『やだ。今、全部食べてみたい』

 どうもおチビちゃんは、これまで朝は人工餌、夜は冷凍アカムシというローテンションを延々と繰り返していた為、新しい味覚に非常に餓えている様だ。まあフグは基本グルメだし、同じ餌ばかり与えていると飽きて拒食になる場合もあるので、要求は飲むとしよう。


「では、鶏胸肉から行くよ」私は、固まりの鶏胸肉から5ミリ角程度の大きさを切り取り、流水で軽く洗ってからおチビちゃんの水槽に投入してやった。切る作業中から既に、おチビちゃんの目は、ずっと鶏胸肉を追っていた。

『いただきま~す』おチビちゃんは鶏胸肉を水中で上手にキャッチ。凄い勢いで、モグモグモグと口を動かすと、肉は飲み物です、といった風に、あっという間に鶏胸肉を完食してしまう。『これ、美味しい~』おチビちゃんは慶ぶ。そのお腹が結構膨れた。

「次は、キハダマグロ……だけど、まだ入る?」『大丈夫。ドンと来て~』前回と同じくに、キハダマグロの柵から5ミリ角程度の大きさを切り取り、流水で軽く濯いでからおチビちゃんの水槽に投入してやる。再びおチビちゃんはそれを水中で上手にキャッチ。

 又もや凄い勢いで、おチビちゃんはモグモグモグと口を動かすと、あっという間にキハダマグロも完食である。これ又、マグロは飲み物です、と云わんばかりにである。おチビちゃんのお腹が凄く膨れた。パンパンである。

『う~ん、これも美味しい。じゃあ次、次の頂戴』「えっ、まだ食べるの? もう既にお腹が偉い状態になってるけど。これ以上食べるとお腹壊すよ。今日はこれくらいにして置いた方が……」『ヤダ。まだ食べる。食べれるもん』

 私の心配何のその、おチビちゃんは次を要求する。その飽くなき食への欲望は一体何処から来るのか、謎である。人工餌や赤虫だとここまで欲しがらないのだけれど、余程新しい食材に餓えていたのか? まあ子供だし、腹も身の内、とか考えないのだろう。

「うーん、しょうがないなぁ。じゃあ次行くけど、苦しかったら無理して食べないで、ちゃんと残すんだよ」『心配ありがとう。でも大丈夫。だから速く次を頂戴』「はいはい」私はビンチョウマグロの柵から5ミリ角程度の大きさを切り取って、流水で軽く洗い流す。

 それをおチビちゃんのご要望通りに、水槽の中に落とし入れてやる。おチビちゃんは再度上手に水中キャッチ。前と変わらず凄い勢いでモグモグモグと口を動かすと、これ又一瞬で完食してしまう。代わりにおチビちゃんのお腹は、はち切れそうな迄にパンパンだ。

『うう~ん、苦し~。お腹一杯になっちゃったぁ~』おチビちゃんは幸せそうな顔で、歪にポッコリ膨らんだお腹を上に背側を下にひっくり返った体勢になると、プカーと水槽の水面に浮かび上がってきた。

「ちょっ!? だから食い過ぎだって。お前、どんだけ食い意地張ってんの。お腹、はち切れそうだよ。大丈夫なのか? 食い過ぎで死ぬとか已めてくれよ。気分悪いなら、吐いちゃえよ。我慢しなくて良いんだぞ」

『も~、心配性。大丈夫、ちょっとしたら、直ぐに消化するよ~。今日の試食はもう終わりでいいや~。お腹一杯になったら眠くなったんで、ちょっと寝るね』おチビちゃんはそういうと、寝てしまった。睡眠中独特の黒ずんだ体色に変化した事で、それが判る。



 数時間後。私の心配を他所に、おチビちゃんのお腹は完全に元に戻っていた。その代わりに、水槽の底には大量の糞が蓄積していたが。凄いなミドリフグ。私は素直に感心した。しかし、この生物は本当にミドリフグか? という疑問も更に顕著になった。

多分、年数回の不定期更新でまだ続く。

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