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神に選ばれた者達のお話【完結済】  作者: KAN
ジェン・ジンの章
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第七話「ジェン・ヨウVS風読みのチウニウ」その2

謎の侵入者 コートに身を纏わせた謎の人物。目的という目的はわからず、ただ紛れ込んでしまったと言った方が早い。瞬間移動に近い魔法を使うことが出来るが、魔力消費が激しいのか一、二回ほどしか使えないようだ。

 舞台を覆う陰りが大きくなる。空に千切れ千切れで浮遊していた雲は竜巻によって舞台の頭上へと集約していく。

 「ふぉっふぉっふぉ…。天狗族は空での闘いが常とされる。天候を操ることは容易きことよ。」

 やがて、周辺の雲が集約しきったところで、竜巻が雲の中へと吸い込まれていく。チウニウと鎌鼬もそれに続いて雲の中へと消えていった。

 「…。」

 ヨウはその光景を見ながら先読みを始めた。次の手は何か?竜巻が雲に吸い込まれることによって雲自体が渦を巻き、巨大な台風を生み出して攻撃を仕掛けてくるのか?否、もっと別の何かがあるはず、と思考を巡らせる。チウニウの芭蕉扇。あれは、振りかざす強さによって、風の威力が極端に強くなる傾向がある。それに続いて幻獣の鎌鼬。巨大で鋭利な鎌のような尾は全てを切り裂き、刃物のような風を容易く生み出す。これらの条件が整った時、恐らくこの闘技場という舞台をも壊しかねない、いやそれ以上の被害がこの集落に及ぶ危険性もある。だとすれば…。そこでヨウの思考は頭上へと移った。

 「儂は殺す勢いでお主に仕掛ける。風読みのチウニウ、この舞台を崩壊せざるを得ない。所詮は長を決めるという余興は他ならぬこの一撃を耐えた者こそがジンの次を担うに相応しい。」

 「そうはさせないよ、チウニウ。この場、この儀式場は長を決めるという理念によって、集落の皆が見てくれる絶好の場だ。それをただ一人の頑固な考えで崩壊はさせはしないさ。」

 「ふふっ、儂をがっかりさせんでくれい、ヨウ坊。絶技『風神入道』!」

 刹那、渦巻を描いた巨大な雲は突如として円形から人型へと変化した。それは空に降臨した巨大な大入道であった。大入道の巨大な双眸はヨウを捉え、両手から激しい風の渦を、口からは耳を劈く程の威力を持った雷撃が放たれた。

 この攻撃を躱せば舞台は崩壊し、観客席にいる集落の人々にも被害が及ぶ。ヨウの後ろに位置する観客席は避難しているが、その下に位置する選手の控え室からは馴染みのある二つの妖怪がいた。ライと終鬼である。何故、二人は避難をしないのか。それは、チウニウの技を耐えれるという底知れない自信があるということとヨウを信頼していることにあった。ヨウが避けるはずがない、むしろ向かっていく、と。

 案の定、二人の思惑通りに事が動き出す。ヨウが足を踏み出す。その拳には赤みを帯びたオーラが集約しつつある。強力な雷撃、激しい風の渦が一つになりて、全てを貫く超電磁砲へと化けた。ヨウはほくそ笑んだ。

 「(ヤバい…すごくピンチな状況だっていうのに、心が激しく躍る!心の臓の脈動が耳の間近で聞こえてくる。これが絶体絶命に陥った時の心理っていうのか!否!これは僕がただ思っているだけ!この一撃に適う一撃を放つ…それがどれほどの威力を持つのか、それは僕自身が試すのさ!)」

 「…決壊の一撃!!」

 ヨウの拳のオーラが渦を巻きはじめ、チウニウの一撃の回転の逆回転になっている。

 「逆回転で儂の一撃を霧散させる気のようじゃが、さてさて…。」

 チウニウはこの一撃が防がれると確信は持ててはいない。が、万が一防がれた場合の伏兵を忍ばせていてもいいだろうと、風神入道から離脱する。

 「ううううううぉぉぉぉぉおおおおおおららららああああああ!!!」

 豪気な叫びと共に、ヨウの拳は風神入道の一撃に衝突する。互いが身を削らんばかりの勢いで回転していく。オーラが切り刻まれ、感電しようともヨウの表情は曇らない。寧ろ、この場を楽しんでいるようにしか見えず、反れた烈風で頬を掠める。

 「たかが小僧の脆弱な拳よ!鎌鼬!」

 呼応するように鎌鼬は鋭利な鎌の尾からヨウの身体を真っ二つにするのではというほどの風の衝撃波を放ち、隙を与えないよう複数繰り出していく。

 「くっ!どうらぁぁああ!」

 横目でチウニウと鎌鼬の攻撃に気付いたヨウは強引に拳に掛かる風神入道の一撃の軌道を捻じ曲げ、衝撃波へとぶつける。腕が軋み悲鳴を上げる。歯を食いしばりながらもぶつけた一撃は相殺され、ヨウの身体は後方へと大きく飛ばされ、空の巨人は再び力を溜め始める。

 「あぁ…。結構力持ってかれるなぁ。」

 口に溜まった血を吐いて腕で拭う。チウニウは損傷が無い為、次の手を考えるのに余裕があった。

 「(さて、ここからは心理戦。ヨウ坊は儂の技によってかなりの痛手を負っている。にしても、ここまで武闘会が続いておるが、一向に侵入者の姿がないのぅ。既に何かを達成しているのか?)」

 「(恐らくチウニウに痛手を食らわせれるとしたら入道か鎌鼬どちらかを倒せばいけるはず、普通に振る舞っていても額に滲んでいる汗は見逃さない。そういえば、侵入者だったっけ?おおよその場所は検討がついているけど、この闘いに乱入出来ないか、どこかで立ち往生しているか…)」

 どちらの先読みよりも始まる以前に話した侵入者に対しての思考へと偏っている二人であった。


-----------------------------------------------


 「…。」

 武闘会が始まってから舞台の柱の上に佇む小さな影。現在、ヨウとチウニウの闘いを見ていた。白熱した闘いは目を見張るものがあったのか、無言の状態で傍観していた。と、空に出現した風神入道なるものが再び力を溜め始めるため、辺りの空気が大きく開いた口へと吸い込まれていく。高い柱は吸い込まれていく空気の流れに揺さぶられていく。小さな影もあたふたとしながら耐えるが、足元を滑らせてしまい、急速に降下していく。


-----------------------------------------------


「きゃあっ!」

 思考を巡らせた二人に突如として上がった悲鳴。二人の視線はひとつの柱に注目される。控室にいたライと終鬼も注目する。それは甲高い少女の声であったが、その姿は薄茶のコートに隠されており、性別を判断はできない。

 「む、こやつか!風神入道!鎌鼬!」

 「ま、待てチウニウ!」

 ヨウが止めるより先にチウニウはヨウにぶつけるはずであった攻撃を侵入者へと向けて放ってしまっていた。舌打ちをして、重たい足に力を張りながらヨウは侵入者であろう者が落ちる所へと駆けていく。よせ!とライ達の声が横から聞こえようが、先を読んでしまったヨウの足を止める者はいない。ましてや、侵入者を排除することにしか頭に入っていないチウニウは迂闊であった。侵入者を排除した後、観客席にも被害が及ぶこと、放った箇所は先ほど避難した者達が鬱蒼としており、避難するにも避難ができないでいたのだ。

 「(しまった!このチウニウ、後悔の黒星を負ってしまった!)」

 後悔先に立たずとは言ったものである。そのような考えをしているチウニウやライ達の声にも気に留めず走っているヨウ。握りだした拳は力強く、先程よりも濃密な赤いオーラが集約していく。

 「(間に合ってくれ!魔が差したとかそんな理不尽な神様の運命なんてどうでもいい!今思った事、侵入者だろうが集落の皆だろうが関係なく、守らないといけないんだ!)」

 呼吸が乱れる。僅かな距離だというのに随分と長く走っているような感覚。一秒一秒がゆっくりと進み始め、風神入道から放たれた烈風と雷撃。鎌鼬の殺人的な加速で繰り出されるかまいたち。それが一点、侵入者へと降り注ぎ、後ろの観客席をも切り裂いていってしまう。そのような先読みをするよりも先に身体が自然と動いていたのだから条件反射であり、仕方ないで割り切るしかない。

 「決壊の一撃ぃぃぃいいいいい!!!」

 先程よりも強力な一撃を勢いを乗せた状態で風神入道と鎌鼬の合わせ技に横からぶつける。目は血走り、拳がどうなっているかはわからない。だが、確実に侵入者と観客席を守れたという多幸感に脳内のアドレナリンが分泌され始め痛覚を忘れた。先程の鎬の削り合いよりも威力のあるヨウの一撃を喰らった風神入道と鎌鼬の攻撃は力が分散され、二体の方へと弾き飛ばされた。風神入道の口を貫き、目を見開きながら入道は空中へと霧散していった。鎌鼬は自身の攻撃が弾かれたことに驚きを隠せず、自身の身体を貫いていった衝撃波に圧されながら粒子化し姿を消した。

 「「ヨウ!!」」

 駆け寄っていくライと終鬼。一撃をかましたヨウの身体は烈風に刻まれた傷が痛々しく、拳は真っ赤に染まっていた。侵入者と呼ばれていた者は血だるまのヨウを見ながらつぶやいた。

 「…どうして?」

 その言葉を聞いたと同時にヨウは膝を崩し目を閉じた。

第七話を読んで下さり、ありがとうございます。作者のKANです。初めての方は初めまして。

 さて、戦闘というよりは殴り合いのような描写もよかったのですが、チウニウはどちらかというと後方から遠距離武器で戦うスタイルが似合っているということから、遠距離の攻撃に注目しながら描写を施してみました。ヨウはというと、近距離での戦闘スタイルですのでチウニウとは相性が悪い悪い(汗

 次回からお話の展開が変わっていきます。では、第八話でまたお会いしましょう。

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