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神に選ばれた者達のお話【完結済】  作者: KAN
ジェン・ジンの章
16/16

最終話「選定者、ジェン・ヨウ」

テスティア…チャンの神名。ヘスティアとペナテスの語尾を合わせたもの。ローマ・ギリシャ神話において、ヘスティアは生活を守護する神でペナテスは家を守る神と言われており、故にジンは座敷童一族と嘯いたのかもしれない。


視界を覆っていた眩い光は一瞬で消え去り、辺りは集落よりも遥か高い位置へと移っていた。夢幻山脈の頂上は正に神の領域とでも現すかのように雲が海のように広がり、山脈の頂上辺りは島のように見えた。ヨウ達が転移したのは山脈の中でも全てを見渡せるほどに高い島であった。意外な程に頂上は平らであり、その場に在ったかのように崩壊した長の家が現われた。

 「着きましたよ。」

 少女は告げる。過去ここに居たという形跡が見られないということはジェン・ジンが来る時も何もなかったのだろう。頂上に辿り着いたジンは果たして三年前に彼女に何を告げ、下山させたのだろうか。

 「おお、我が家がここにあるってのが信じられねぇな!なぁ、ヨウ。」

 「…まぁ、ね。それよりも、家ごと転移するなんて…どうするの?チャン。」

 「チャンは仮の名前です。神名はテスティア、このアーク大陸の主神を司っております。」

 「テスティア…ティアと呼んでもいいかな?」

 神の名前を省略するというあるまじき行為に副長であった三人は驚きを隠せないでいるが、テスティアは頬を赤らめながら手をもじもじさせる。

 「…よ、ヨウ兄ちゃんが呼びやすいのなら…いいです。」

 デレデレである。

 「ん、まぁ取り敢えずだ!この何にもない所に俺とヨウの家を拠点として…塔を建てる!」

 「塔!?」

 全員がジンの提案に驚く。流石のテスティアもヨウの家だけで十分と感じていたにも関わらず、神託者であるジンは神の神託すらないがしろにしている。

 「ジン、私はこの家だけでも十分な気がするのですが…。」

 「いんや、テスティア。俺はこの家を集まる場所とし、塔を象徴の印としたいのさ!確かに夢幻山脈の天辺ならエレボスとエイレーネを全て見渡せる。が!アーク大陸だけだ!他の大陸を見渡せずしてどうする?それに俺らの家で他の大陸の神と会合させるのか?」

 「むむ…それは一理ありますね。大陸間で神々が会合できる場所はあってもいい…ですが、建築材料はどうするのですか?」

 「父さん…その為に僕とライ達を呼んだ訳じゃないよね?」

 先読みをしなくてもヨウ達は想像が出来た。建築材料がここにはない。ならばどこで入手するのか?答えはこの山脈にある豊富な資源にあった。それを調達する協力の為に呼び寄せたという根端であろうが、既にジンの顔に書かれている。お願い、と。両手を前に出しながら。

 「…はぁ、突拍子もない事を言うのがジン。お前の難癖であった。しかし、その難癖によって集落は今も尚安寧を保っていられているのだからな。」

 「確かにな。まぁ、力仕事は大好きさ!ジン、俺はついてきて正解だと思ってるぜ!」

 「はぁ…肩が凝りますね。」

 「そのたわわに実ったム…。」

 「その減らず口は相も変わっておりませんね。ジン…。」

 「まぁまぁ、そうかっかしなさんなフロン。」

 氷の苦無は脳天に突き刺さり赤色の噴水を作り上げるが、ジンは気にしていない様子である。身体の頑丈さだけが取り柄であるジンにうんざりするフロン。

 「と、取り敢えず。皆さん、ご協力に感謝致します。何分ジンと二人きりでしたので、何をやっていいのかわからなかったもので…。」

 「ティアの転移魔法だったら何でも運べるんじゃないのかな?」

 「この魔法は物質の指定された範囲内であれば可能なのですが、物質を完全に転移することは出来ません。例えばですが、山脈の一部を抉りだす形で転移させようとします。ですが、この場合展開する魔法陣に対し、内面に展開される魔法陣に限りがあります。故に、外面だけを削る形でしか転移することが出来ません。家を見てみれば立証できます。」

 と、ヨウは家の内部を見渡す。今までは凄惨な光景であった居間にいたはずが、暖炉や壁を除いて、全ての家具は見当たらなかった。他の部屋へ行っても同じ状態であった。つまり、魔法陣に触れれるのは外面と認識される物質だけが転移可能という訳であるが、生き物が転移可能であるのが疑問符を浮かべなくてはならない。

 「僕たちもだけど、ティアは何故転移が出来るのかな?」

 「そうですね…人間で例えてみましょうか。人間は身体を形作る為に殆どが水分で構成されています。水分に外面も内面もありません、故に魔法陣は量子的にそのまま通過することが出来るのです。私の場合、構成されているのは粒子の素です。水分と同様に通過することが可能です。ヨウ兄ちゃんのように妖に属する者は妖の力の素によって構成されているので、水分と同様となるのです。」

 「ふむ…なるほどね。だから建築材を切り取るといった転移の仕方は出来ない、か。分かった、それじゃあ測量も手作業でやるしかないね。皆。」

 「うむむ…お父さんは難しい事はわからないんだ。」

 「俺も。」

 「鬼には聞いていないだろう。」

 「あぁ?」

 「はいはい…取り敢えず、塔を作る設計図を作りましょうか。」

 こうして、塔を作ると同時に家の修復の作業へと取り掛かる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「…どういうこと?」

 塔の建設と家の修復から約一年の時が過ぎようとしていた。家は完全に修復され、休憩を出来るようにはなっていたが、塔は完全ではないにしろ、徐々に尊大な姿を現しつつあった。その最中、ヨウはジンに呼ばれていた。

 「どうもかくにも、ヨウ。お前には外界のエレボス地方とエイレーネ地方に赴き、文献を広めておいてくれないかと思ってな。優秀な人材の確保とかも含めてな。」

 ジンの提案はこういうものだ。夢幻山脈を下山し、エレボス地方とエイレーネ地方の文献を知っておいた方が身の為になるであろう、と。エレボスとエイレーネは昔から対立をしており、戦争が絶えないことで理不尽に死に追いやられる人々などが毎年出てしまう。土地を理解した上で、神の使いとして神の進言を広めて欲しいというのがジンの真意にもなるそうだ。

 「文献を広めるのはいいけど、優秀な人材の確保ってのが気になるんだけど…。」

 「それは私が説明します、ヨウ兄ちゃん。」

 頭にハチマキを結んだ神様が現われる。自分だけ休んでいる訳にはいかないと言い、自ら建築材料を終鬼たちと共に調達したり、炊事の手伝いをしたりと三年間で培った能力を存分に使っている。

 「私も把握できている訳ではないのですが、この大陸にも危険因子というのが幾つも存在しているのです。私と同等の神もいれば、神を倒せる程の力を備えた危険な存在もいます。ヨウ兄ちゃんにはそれらをこの塔まで引率して欲しいのです。」

 「…ティアと同等の神って。」

 「私が把握している限りでは三人確認しています。一人はエイレーネ地方のヘパイストスの鍛冶場の竜神。後の二人はエレボスのウー・シング洞窟という場所に居ます。」

 「なるほど…神はよしとして、他の危険な存在はどうするの?」

 「完全には把握している訳ではないですが、出来るだけヨウ兄ちゃんには選定してもらいたいです。引率した後にはそれぞれの領域の管理をしてもらいたいのです。皮肉なことに私は夢幻山脈の霊脈からは逃れられないです…。全ての土地を見渡すことは出来ても統治することは出来ないです。それぞれの地方には魔物と人間がいます。共存するということが相いれない両者ですから必ず戦いも起きます。そこで、神の災いとして、危険な存在を配備することによって統治がされて戦いが起きないように措置するといったのが目的です。」

 「選定…か。俺が神託者ならヨウは『選定者』ってところだな!」

 「選定者…ね。確かにその肩書きがあれば人間たちにも広がるだろうし、神や危険因子にも伝わりやすいかもしれないね。」

 「私も少なからずサポートします。」

 と、テスティアは両手をお椀の形にすると、光が集約して一つのネックレスとなる。耐久性のある木材を使用し、輝いている結晶石が印象的なものである。

 「これは私の力が込められた結晶石です。これに念じれば転移魔法を自在に使えるようになります。」

 「これは便利だね。ありがとう、ティア。」

 ヨウはテスティアから受け取ると同時に頭を撫でる。恥ずかしそうに俯くテスティアであるが、嬉しそうに頬を緩ませている。

 「俺たちは引き続き塔の建設をしておく。人材の確保次第では個室も提供しようと思っているから、頼んだ。三人は神として、後五人くらいだな。」

 「五人…ね。つまりは八人は引率してくれってことか。わかった、それじゃあ行ってくるね。」

 貰ったネックレスを首に掛け、結晶石に自分の行きたい場所を念じる。すると、結晶石は光だし、ヨウの身体を包んでいく。

 「ライ!終鬼!フロン!行ってくるね!」

 大きな声で遠くの三人に告ぐ。三人は手を振って見送りをする。話は前から聞いていたようで、理解し、ヨウの帰りを待つことにしたようだ。

 「気を付けて行って来い。お前は確かに強いかもしれんが、お前以上の奴らはうじゃうじゃいるからな。ま、そう簡単に倒されないように鍛えたのもあるがな!がーっはっはっは!」

 「ヨウ兄ちゃん…気を付けて下さい。」

 「あぁ、父さん、ティア。行ってきます。」

 身体を包んだ光は瞬く間にヨウの姿を掻き消していった。


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 さて、選定者のお話はこれにて幕を閉じる。語り手である私の語りもここで幕を閉じる訳である。いやはや、随分と早く語ってしまってはいたが、漸くこの疲れた口を閉じることに暫しの感謝を。口は水分を欲しているのだ。コーヒーコーヒー…。

 と、ここまで聴いてくれた聴衆諸君には感謝をしたい。諸君らも少しの間の休息を。ではでは、次の語り手を紹介しながら、私は退くとしよう。

 次のお話はエイレーネ地方のお話になる。魔女と呼ばれた少女は革命的な発明をもたらす。これが、来るべき災厄をもたらすともしらずに…。


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 はい、どうも!次のお話を語るか・た・り・てです!

 まだ至らない点があると思いますがよろしくお願いします!

 話の冒頭を説明させていただきます。これはエイレーネ地方にある妖精の国、といっても人々は妖精の国のことを『妖精樹林』と呼びますので妖精樹林とこれからは言っていこうと思います。この樹林には妖精と言われる不思議な魔物が棲んでおります。ピクシーやエルフ、エルフィンと様々な妖精がいます。勿論、ゴブリンなども棲んでいますので多種多様といいましょうか…。ですが、その中に異端と呼ばれる者もいるのです…。それが魔女と呼ばれる人間です。さげすまされて生きている魔女でも、比較的友好的な魔女もいるというのを証明するために一人の少女が大奮闘します。次の章からはそのお話をしていきたいと思います。

 一旦、閉幕!

 

最終話を読んで下さりありがとうございます。作者のKANです。初めましての方は初めまして。

 さて、最終話の後書きという訳ですが、至って序章に過ぎない今回のお話。まだまだ終わりを見せてないので、これからも新進気鋭に書いていきます。次回のお話の語り手が交代したというわけで、語り手をおおまかに説明します。語り手である彼女は前回の屁理屈などを述べる語り手と違って活発な少女のような語り手です。ハイテンションな彼女に引っ張られないように皆さんもご注意を。

 そんな感じで、今回の後書きを終わらせていただきます。では。

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