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97話

「さて、これからどうすっかね」

 とりあえずフィロマリリアは出たけれど、これからどこへ行くかはまだ決めてない。しょうがない。まずはアンブレイルどもから離れるのが先決だったし。

「ところでディアーネ、クレスタルデへは戻らなくていいの?」

「後で手紙を出しておくわ。紋章はもう先払いで頂いてしまっているもの。次に屋敷へ帰るのは魔王の首を獲った後ね」

 まず、クレスタルデへは帰らなくていいらしい。

 ……となると、どっちが先かな。


 俺がヴェルメルサで手に入れないといけない『魔王の魔力ぶんどる装置』の材料はあと2つ。炎舞草の花と、永久の火の欠片。

 炎舞草はフィロマリリア西の森で手に入る。ここから西ね。

 そして多分、永久の火の欠片は火竜の巣で手に入りそう。ここから東。

 更に、一旦クレスタルデに戻るんだったら更に火竜の巣から東だし、まあ、最終的には東行って西行くか、西行って東行くかの違いしかないんだけどね。

 ないんだけど……。

「じゃ、先に火竜の巣ね!」

 俺の手元にある『鎮めの油』とやら。これはどうやら、アンブレイルがとっても欲しがっていたもののようだ。そしてアンブレイルはこの『鎮めの油』を火竜の巣の最深部で使うと『宝玉』が現れるらしい。

 もしその『宝玉』が『永久の火の欠片』のことだったら、先手を打たないとアンブレイルに『永久の火の欠片』を持って行かれてしまう。

 ……逆に、『宝玉』が『永久の火の欠片』じゃない、別の何かだったら……それでも貰っちゃうことに変わりはない!むしろ、その方が楽しい!




 ということで、俺達はそのまま火竜の巣へ向かう。

 ……俺はともかく、ヴェルクトは徹夜明けなんであんまり無理はさせたくないんだけど、今は急を要する。

 今回の目的はドラゴン狩りじゃない。前回みたいにヴェルクトの『綺麗に殺す技術』が必要なわけじゃないから、ディアーネが焼き払って、焼け残りを俺が仕留めればヴェルクトが働かなくても割となんとでもなりそうだし、まあ、我慢してね、ってことにしよう。した。

「じゃ、これよろしく」

「ああ」

 ヴェルクトの懐に『永久の氷の欠片』を突っ込むと、ほわり、と涼しい結界ができる。

 うん、今回のヴェルクトの仕事は冷房係、って事にしよう。


 夕方には火竜の巣に突入できた。日付が変わるまでには脱出したいけど、果たしてどうなる事やら。

「シエル、とにかく最深部を目指せばいいのね?」

「うん。そ。道案内よろしく」

「なら、右へ進みましょう。道は狭いけれどその分魔物は少ないし、最深部にも早く着くわ」

 ……ま、優秀な道案内が居るから、道中の心配はあんまりしてない。

「しかし、最深部で例の『鎮めの油』を使う、と言っていたが……最深部、というと、一昨日の……ドラゴンが沸き出てくるマグマだまりの事じゃないのか?あれのどこに『鎮めの油』を使うんだ?」

 むしろ、心配はそこである。

「うーん、とりあえずマグマだまりに油ぶちまけてみるのがセオリーかな」

「火に油を注ぐのか」

「その通り」

 ヴェルクトは『それでいいのか』みたいな顔してるけど、正直、あのマグマだまりよりも深い場所がこの火竜の巣にあるとは思えないし、だとしたらあのマグマだまりぐらいしか、『何かすべき場所』は無い。

 そして、そこで『鎮めの油』を使うとしたら……マグマだまりにぶちこむぐらいしか、思いつかない!

「ま、最悪ディアーネに頼んで火の精霊様にお伺いすりゃいい」

 もしあそこが最深部じゃなかったら火の精霊が教えてくれるだろうし、『鎮めの油』の使い方も火の精霊が教えてくれるだろう。

 俺達には心強い味方が居たもんだね。




 延々と細い道を進んでいく。

 ディアーネの言っていた『道は狭いけれど』に嘘偽りはなく、俺はするする抜けられるが、ヴェルクトは少々身を縮めないと通れない箇所がある、ぐらいの狭さであった。

 成程、こんな狭さじゃ魔物が出ない訳である。ドラゴンなんかがこの道を通ろうとしたら、間違いなく詰まってにっちもさっちもいかなくなるね。間違いなく。

 魔物に出会わない分、多少進むのに苦労する箇所があってもスムーズに進む事ができた。

 そのおかげで、一昨日よりもよっぽど早く、最深部へ到達する事ができたのである。


「で、ここが最深部で間違いないわけ?」

「そうだと思うわ。このマグマだまりから強い火の気配を感じるから」

 ディアーネに確認を取ったけれど、案の定、ここが最深部。そして、ドラゴン無限生産施設であるこのマグマだまりがキーポイントになるんだろう。

「で、『鎮めの油』の使い方は?」

「さあ……聞いてみるわ。貸して下さる?」

 火の精霊に聞いてくれるんだろう。ディアーネに『鎮めの油』を手渡すと、ディアーネは虚空に顔を向け、意識をそちらへ集中させ始目……しばらくして、その表情を曇らせた。

「……駄目だわ。火の精霊もまるで教えてくれない」

「教えてくれない?」

『知らない』じゃなくて?火の精霊が?ディアーネが頼んでるのに教えてくれないの?

 ……となると、本気で困るんだけど。

「ええ。まるで……」

 俺もディアーネも表情を曇らせていた所、突如、ディアーネはくすくす笑い出した。

 一体何事か、と思っていると、ディアーネは歌うような語るような、精霊の言葉で虚空に向かって話しかけ始める。

 思念や魔力だけでなく、ちゃんと精霊言語でお話してあげてる、って事は、火の精霊はご機嫌斜めなのかな?しかし、その割にディアーネは楽しそうだけど。

 ……そうしてくすくす笑いながら楽し気に数往復の会話をして、ディアーネはやっと俺達に教えてくれた。

「シエル。『鎮めの油』は要らないわ」

 ディアーネはそう言ったかと思うと……優雅な足取りで、臆することなくマグマだまりに近づいていき……とぷん。

「……うわ、身投げした!」

 マグマの中に、沈んでいったのであった。




「……大丈夫、なのか?」

「あー、平気平気。ほっときゃその内出てくるだろ」

 ヴェルクトも唖然とはしているものの、取り乱しはしない。まあ、ディアーネが無謀な事するわけが無いからね。

 それに、俺は散々、小さいころにディアーネが水遊び感覚でマグマの中に入って遊んでいるのを見ているもんだから、今更マグマに沈んだところで驚かない。

 ……が、それとは別の問題はあった。

 ぼこぼこと凶悪な音と熱気を放つマグマだまりは、ディアーネが沈んでいった後もお構いなしにドラゴンを生産し続ける。

 ヴェルクトはあんまり働かせたくないんで、結局俺が頑張る事になる。

 まあ、攻略法も確立されてるからね。

 出てきたてほやほやのドラゴンははじめ、そんなに凶暴じゃない。だから、出てきたらすぐに近づいて行って、さくっ、と剣をぶっ刺して、傷口に手を埋めて、魔力を吸収する。

 この一連の流れを素早く行うことで、とっても簡単にドラゴンを殺すことができるのである!


 ……そうして、やりこみすぎたゲームみたいな感覚でドラゴン退治を続けていた所。

 ざばり、というか、ぼごり、というか、なんかそういう音がして、ディアーネがマグマから出てきた。

 ディアーネはマグマから上がったところで一度、全身に炎を纏わせてマグマを払い落して、ディアーネはにこやかに俺達に近づいてきた。

「はい、シエル」

 そして、ディアーネは俺に1つの結晶を手渡してくれたのだ。

 ……赤、紅、朱、緋。それに、橙や金。そんなありとあらゆる炎の色を詰め込んだような結晶は、調べなくたって聞かなくったって、それが何か分かる。

『永久の火の欠片』だ。

 それの証拠に、ヴェルクトの懐に入れてあった『永久の氷の欠片』が強く反応し、『永久の火の欠片』に対抗するかのように出力を上げ始めたのだ。

 ……成程、『永久の氷の欠片』とは真逆の魔力を持っている。そして、俺はこの魔力を知っているのだ。

 グラキスで氷の魔女はいろんな人を氷像にしてたわけだけれど、その氷像を元に戻すための魔法に必要なのがこの『永久の火の欠片』だったのだ。

 これがあれば、グラキスの氷像にされた人達も元に戻せるだろうから、早いとこリスタキアまで行かないとね。

 ……勿論、その後は『永久の火の欠片』は『魔王の魔力ぶんどる装置』になるんだけどな!




「で、ディアーネ。いきなりマグマに飛び込んだ理由をどうぞ」

 目的のものが手に入ったのは良いとして、ディアーネの言っていた『鎮めの油は要らないわ』が気になる。

 ということで説明を求めると、ディアーネはくすくす笑いながら説明してくれた。

「『鎮めの油』は、マグマを『鎮める』もののようね。使えば普通の人間でもマグマの中に飛び込む事ができるんですって」

「……ディアーネは使っていなかったように見えたが」

「ええ。私には火の精霊の加護があるもの。『鎮めの油』が無くても火や火の眷属によって傷つく事は無いわ。……だから、火の精霊は『鎮めの油』に妬いてしまったみたいなの」

 ……成程。ディアーネのくすくすの理由も分かった。

 つまり、火の精霊はディアーネが『鎮めの油』の使い方について聞いた時、『そんなもの無くても俺が守ってやるのに!』っつって、拗ねちゃったらしい。

 道理で、すぐに使い方を教えてもらえない訳だよ。

「お前、愛されてんのな」

「ええ。本当にね。……ということで、シエル。貴方にこれは返すわ」

 ディアーネはずっと持っていた『鎮めの油』の小瓶を俺に返してくれた。

 うーん、目的はこれで果たせちゃったし、『鎮めの油』が浮いちゃったな。

 ディアーネが居る以上、俺達に必要になるとも思えないけど……ま、どこかで使うかもしれないし、貴重なものであることに間違いはないのだ。大切に鞄にしまっておくことにしよう。


 ちなみに、アンブレイルの言っていた『宝玉』についてだけど、ディアーネ曰く、マグマの底には『永久の火の欠片』があっただけだったらしい。

 という事は、アンブレイルも『永久の火の欠片』を必要としていた、という事だ。それも、『魔王退治』のために。

 ……どーいういきさつなのかは知らないけど、あんまりいい気分はしないよな。




 それからまた元来た道を戻って、火竜の巣から抜け出した。

 満天の星空が見える。月の高さを見る限り、まだそんなに遅くはなさそうだ。

「……ええと、ディアーネ。お前、クレスタルデには帰らない方が良い?それとも、帰らなくてもいい、ってだけ?」

「今晩の宿の事かしら?それなら申し訳ないのだけれど、ティーナお姉様以外のお姉様やお父様と鉢合わせしたくないの。クレスタルデ以外で宿をとれないかしら?」

「フィロマリリアはもっとまずいだろ?……となると、このままバイリラまで飛ばすかぁ」

 バイリラはフィロマリリアから西にある街だ。

 丁度、『炎舞草』の群生地の森の側にあるから、一泊するなら丁度いい。

「で、明日は炎舞草の採取して……」

 人魚の島まで行くか、と言おうとしたところで、ヴェルクトが半分舟を漕いでいるのを発見してしまった。

「……明日はのんびりするかー」

 アンブレイルがどう動いていようと、変に急ぐことも無いか。

 どうせ勝つのは俺なんだし。


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